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読書感想:素浪人刑事〜日本の創作もまだまだ捨てたもんじゃないぜ

日本の創作も捨てたもんじゃないぜ

 早川書房のnoteアカウントで世界設定パートを読んで「なんだこれは!」(岡本太郎めいた表情で)と衝撃を受けた、「素浪人刑事――東京のふたつの城」、先日e-honで手配して金曜日に購入いたしました。というか、これ新書だったのね。てっきりハヤカワ文庫だと思ったからそっちばかり探してた。道理で見つからないわけです。

 そして土曜から読み始めて、実質一日で読み切っちゃいました。
 だって、面白すぎて読みだしたら止まらなくなったんだもん。

 何がどう面白いかっていうと、まずあの「大日本将国(英名:The United Shogundom of Great Nippon and South Ezo)」の成立史と、「停職中の不良刑事(階級は二等同心)が朝起きようとしたら、毎朝聞いてるラジオ番組のDJが自分の名前を呼んで助けを求めてきた」「その直後にエリート女性警察官が刑事を車に乗せて現場に急行しながら『ラジオ局の立てこもり犯と果し合いをしろ』という本庁からの命令を伝えてくる」「なおその立てこもり犯は自分と付き合いのあった情報屋ホセである」という冒頭から披露された世界観の突飛さですな。
 ここだけ切り取ったら、ニンジャスレイヤーの胡乱エピソードか逆噴射小説大賞か? という具合ですし。
 実際、作中にも「コンバット刀」とか「フルコンタクト相撲」とか「フィリピン徳川家」とか、なかなかの胡乱ワードが出てきますし。

 でも一番の魅力は、その胡乱さに依存しない、日本刀のように鋭く強い世界観でした。

 SFってジャンルは「世界における影響まで視野に入れた思考実験」という要素もあります。だから歴史改変ものはSFのひとつとして認知されているわけですし、「日本で明治維新が起こらなかったら世界史はどう変化するか、あるいは何にどう置き換えられるのか」という思考実験を徹底的に煮詰めた本作も例外ではありません。別にサイボーグやアンドロイドも超能力者も登場はしてこないんですが、それでもサイバーパンクという言葉も浮かんでくるぐらいでした。

 そして、戦争によって社会経済を回し、戦争によってのみ世界の中での存在意義を示し、戦争にまつわるもの以外の産業を何ひとつ養うことのできなかった、それでも「刀を持って立つ者への敬意」だけは社会全般に共有されている「さむらいの国」を見ていると、これが現実の――というか読者のいる「明治維新の起こった日本」に対する鋭く真摯な批評ともなっていることに気が付かされていきます。
 その批評眼があればこそ、この胡乱極まりない発想の世界設定に、強烈な存在感と説得力が宿るんですね。

 こんな話を書ける人って、何を考えているんだろうと思ったら、作者である川﨑大助さんのインタビュー記事がnoteに上がってました。

 このインタビューを読んでると、川﨑さんって人は、自分が現実社会の一員として感じたことを作品に投影することから避けない創作者としての誠実さを強く持っているタイプの作家なんだということがわかりました。

 そして、本編で主人公の桑名十四郎がバディを組む赤埴ジェシカ美津子を中心とした、ジェンダー観に掛かる描写を見てると、価値観のアップデートすることと、暴力と陰謀に満ちたノワール小説の世界観におけるタフな世界観を描き切ることは、全く問題なく両立できることを証明しました。

 だから、桑名十四郎の戦いの結末を読み終えて、そして同時に今月呼んだ千葉ともこさんの「火輪の翼」をも思い出し、「日本の創作ってのもまだまだ捨てたもんじゃないぜ」と、そんな希望を痛快さと共に抱きました。

素浪人刑事を実写化するなら

 この小説を映像化するとして、連続ドラマにするなら、地上波やBSより配信サイト向きって感じがします。実際、NetflixやAmazon Primeなどで面白い作品が独占配信されるってケースは、もう珍しくありませんし。

 で、素浪人刑事のドラマを配信するとしたらどこか。それは、やはりディズニープラスでしょう。
 なんだって、ディズニープラスはマンダロリアンもコマンドーも配信してるわけですし。
 で、なんでこの二作を出したか。それは本編を読んでみればわかります。というか、上記の価値観の話と合わせて、あの場面で川﨑さんに対する物凄い親近感が湧きました

大日本将国RPGってできないものかな

 ところで、これだけ世界設定に胡乱さと説得力とが備わると、「大日本将国TRPGってできないかなあ」って考えちゃうのがTRPGユーザーの性でして。
 パッと考えたのがFEARから出たトーキョーナイトメア。

 あれも歴史改変SFのひとつと言えますし、そのヴァリアントとすることはできそうです。でも、この作品の世界設定はともかく、作品の精神とも言い換えられる世界観の厳しさは、FEARやユーザーの好みじゃなさそうな感じもするんですよ。

 では他のシステムや会社は何かないかなと考えて、同じく歴史改変ものシステムであるサタスペと、それを生み出した冒険企画局が頭に浮かびました。

 サタスペのヴァリアントとしても良いし、あるいはサイコロフィクションの新作としても良さそう。

 ハヤカワさん、冒険企画局に「大日本将国RPG」って企画を持ちかけてくれないかなあ。出たら遊びますよ?



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