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新品の色紙にすでに書いてある

シリーズ・現代川柳と短文 053
(写真でラジオポトフ川柳141)

 Sさんが文房具屋で色紙を買ったのは高校二年生の三月のこと。1年間お世話になった担任の教師に感謝の寄せ書きを贈るためだった。Sさんはクラス委員だった。まず1人目としてコメントを書こうと外装のフィルムを外すと、色紙の隅に「入院ファイト!」という文言がすでに書かれていた。印刷ではなく、あきらかに手書きだ。返品しようにも信じてもらえないだろう。Sさんは仕方なく修正テープでその文言を消すと、上からあたりさわりのないコメントを書いて次のクラスメイトに渡した。その一週間、担任は交通事故で入院し、退院することなくこの世を去った。入院中に励ましの色紙を贈ろうという話も出たのだが、なぜか立ち消えになってしまった。いま思えば「入院ファイト!」の字は自分の字によく似ていた、とSさんは言う。


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