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【ファイア・アタック】 #807



日本でもつい最近
東京で発生した事件

顔に硫酸をかけるというおぞましい事件


日本では非常に珍しい事であるが
調べたところ
中東アジアでは非常に多発しており
特にバングラデシュでは1999年以降
3000件発生しているそうです

イスラーム教信者が多く男尊女卑の考え方がまだ色濃く残っているのが背景らしい


結婚を申し込んで断られたら
アシッド・アタック(酸攻撃)をする

とても身勝手な行動

だかは恐らくそれを恐れて好きでもない男性と結婚する女性も多いと推測する



日本も今でこそ多様性やフェミニズムや男女均等雇用や色々な運動や風潮で男尊女卑はほぼ無くなった

しかし
ついこの間
70年前くらいまでは日本でも当たり前に存在していた



私の名前はナオ
貧乏長屋に両親と弟と妹の5人で暮らしている
上のお姉さんは口減らしで芸妓に出された

私の長屋の持ち主である大旦那様は
ここいら辺りでも有数のお金持ちだった
元々江戸時代から続く商家だった
呉服屋から始まり金貸や貿易かどで更に大きくなった

ここの家にはよく出来た長男様が大旦那様に代わって今は事業を取りなしている
その下に弟様がいらっしゃる
私より二つ年上の方

弟様は大旦那様に溺愛されており
そのせいでどうにもワガママにお育ちになった


ある日の事だった
お父さんが浮かない顔で帰ってきた

お父さんは大旦那様の経営する会社のひとつである繊維の工場で働いている


「困ったよ…」

「どうしたのお父さん」

「ああお母さん
それがなぁ
大旦那様とこの次男坊が居るだろう」

「はい」

「アレがな
うちのナオを欲しいと言うとるんよ」

「結婚ってこと?」

「いやそれがね
やっぱり俺たちと大旦那様んとこじゃ
立場が違い過ぎる
だからな
女中という形で家に入れたいそうだ

実際は祝儀を上げないが
弟様の女になるという事なんだ」

「えっじゃあ
この子は結婚できないのかい?」


「そんなぁ…」


「ナオ
嫌なら良いのよ
ねぇお父さん断れないの?
もうお姉ちゃんみたいなのは嫌なの」


お姉ちゃんが芸妓に売りに出されたのもこの大旦那様の圧力だった

大旦那様がお姉ちゃんの事を気に入って自分がよく行く料亭に上がる置き屋に売った


「でもなぁ…
断ったら仕事も無くなるし
もうここにも住めなくなる」

「いいじゃない
皆んなでチカラを合わせたら
仕事なんて何とかなるし
家なんて屋根さえあれば良いよ

だから断っちゃいましょう」

「うううぅ〜ん」


この日はこれで話は終わった

話は終わっても
実際の話自体は何も終わっていない


ナオはショックだった
お姉ちゃんの件もあるから
絶対最後には従わないといけなくなる


ナオには好きな人が居た

彼女のひとつ上の同じ長屋だったヤスシさん

今ヤスシさんは家を出て東京で働いている


ヤスシさんに会いたい


しかし結局はナオの想像した通りに事は進んで行った

お母さんはイライラして黙っていた

お父さんは申し訳なさそうでよそよそしかった



女中として大旦那様の屋敷の敷地内にある離れに弟様の家がある

今日からここに住み込みで働く

既に何人かの者が働いており
弟様の前ではナオに対して平伏したような態度だが
弟様が居なくなった瞬間からアゴで指図される

夜になると弟様に呼び出された


弟様の部屋へと入った

覚悟はしていたつもりだったが
実際はやはり無理で逃げ惑い
その時にランタンが倒れてしまい
あっという間に火が回った


ナオは命からがら逃げ出した

他の者も逃げ出した

しかし弟様は逃げるのが遅れてしまい
身体に大火傷を負ってしまった


これに怒った大旦那様は怒りに任せて
ナオをグイグイと引っ張っていき
下の者にナオを押さえ付けさせ
焼いた鉄の棒でナオの顔と胸を焼いてしまった


ナオは「ギャー」っと叫び気を失った


その後
弟様はなんとか回復したが
顔の変形したナオなどはもう要らないと
ゴミのように捨ててしまった


ナオは長屋へ帰ったが
そこにはもうお父さんとお母さんの姿は無かった

隣近所の人に聞くも
誰しも大旦那様に恐れて
どこに行ったか分からないと
クビを横に振った

ナオはケロイド状になった顔を布で隠し
徒歩と汽車で東京にたどり着いた


ちょうどその頃
日本とアメリカの戦争が始まった

日本は楽勝であると沸き立っていた

さまようナオ

ヤスシさんに会いたい

でも居場所も知らないし
こんな姿は見せられない

でも会いたい



戦争はどんどん日本が劣勢になり
ナオが勤めていた繊維の工場も軍事用の作業場へと変わり
毎日重たい鉄を工場内でせっせと運んだ


空襲警報の回数が今年に入り異常に増えた
その度に仕事を止めて
防空壕に避難した

雨降りの日なんて酷いもので
雨水が中へどんどん入ってくる
ナオより若い女学生たちは水溜りの中震えてひと固まりになっていた


ズドンズドンと焼夷弾が落ちてくる


ついにナオが働く工場にも爆弾が落ち
大いに燃え盛った


東京が焼け野原になった


ヤスシさんはどこでどうしてるのかしら
お父さんとお母さんは生きているのかしら


顔のケロイドが熱風でヒリヒリ痛むが
私は生きている
生きていかないといけない






ほな!

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