【消しゴム】 #745

「サヨナラ
もうあなたとはお別れよ」

いつもそうなる
いつでも居なくなる
そして戻ってくる
当たり前の顔をして

どうして別れたいのか
どうして戻ってくるのか
そのシステムが分からない

何度も聞いてみたけど
決して教えてくれない
というか
分からない
とか
忘れた
とか
そんな風に言われる

分からない
とか
忘れた
とか
誤魔化していると思ってた

でも実際に
分からなくて
忘れているという事が発覚した

普通に生活していて
支障が出てきた
少しずつ
少しずつ
忘れ始めた

朝ごはんを作って
一緒に食べたのに
また朝ごはんを作っていた

休みの日に
何度もお風呂に入る

そうかと思うと
晩ごはんが無かったり

平気で仕事を休み続けて退職した

治らない
そうお医者さんは言う

うまく付き合って行くしかない

夜中に居なくなって
スマホも持たず
必死に探したら
公園のベンチでボォーッとしていた

注意すると
元気良く

「こんにちは」と言われた

帰ろうと手を引いたら悲鳴をあげられ
それを聞いた公園の近くの人が110番して
警察官が駆けつけた

事情を説明し
パトカーで家まで送ってくれた

施設に入れた方が良いのだろうか

悩み続けた

双方の両親に相談して施設に入れる事に決まった

僕の事を忘れてしまった妻は
僕を先生と呼ぶ

僕を忘れていても
大好きなバナナは
ちゃんと覚えている

そんなバナナも
いつか忘れてしまうのだろうかと思うと
切なくなった

忘れる以外は元気だから
見ていて不思議な気持ちになる

また来るね

妻はニコニコして手をふってくれる






ほな！