見出し画像

【愛しい人との1ヶ月】 #685


僕は癌のステージ4と診断され余命は6ヶ月であると申告された

これは早まる事もあるし
もう少し長く生きれるかもしれないけれど
そんなには長くは生きられないだろう

初めて宣告を受けた時は頭が真っ白になったし
なぜ自分がとパニックになり普段は感謝も祈りも捧げた事ない神に八つ当たりしたり
だからと言って現状が変わるわけでも無い

最初の1ヶ月間は前向きと後ろ向きの連続で自律神経がおかしくなりそうになっていたが
慣れたというわけでは無いが少し落ち着いて向き合えるようになってきた

さて死ぬまでにどうするのか
何をするのか
今はまだ体力がある
なのでどこか行きたい場所や会いたい人が居たりするのなら先に済ます方が良いだろう
そしてだ
家の中にある大量の漫画とフィギュアとDVD
これをどうするかだ
時間に余裕があればオークションにでもかけるのだが
これに時間を費やすのも時間の無駄だしどうせ死ぬのだから高値で売れるとか関係ない
という事でこれらは全てリサイクルショップの出張買取に引き取ってもらおう
会社はどうする
続けても良いんだがこれももう良いだろう時間の無駄だ
将来とか出世とかそんなもん無くなったわけだから
よし退職しよう
貯金は充分にあるから大丈夫だ

数日後
リサイクルショップの出張買取が来てくれて買ってくれる物は全て売り払った
家電なんかも引き取ってくれたので粗大ゴミを出す苦労も無くなった

物が無くなると意外と部屋が広い事に気付くのと咳なんかをすると反響する

スッキリしたけど寂しい感じになったな
残ったのは布団と数枚の着替えと普段使ってるカバンと旅行用の大きめのリュックと腕時計と財布にスマートフォンと後ちょっとした細々した物

会社は社長のご厚意で通常より早めに退職させてもらえた

計算上では後残り3ヶ月とちょっと

僕は何処へ行きたい?

改めて考えると思いつかない

とりあえず
通っていた幼稚園と小学校と中学校と高校には行ってみた
大学は行く気持ちにならなかったので行かなかった
回ったけど思ったほど感動とかは無かった
多分こういうのって同窓生とかで感動を分かち合わないと楽しく無いんだろうな

さぁ何処へ行きたい?

海外はこのカラダなので怖いから行かない
ホントはピラミッドとかマチュピチュとか万里の長城とかそんなやつを見たい気もしたけどビビりなのでやめにした
じゃあ国内は?
行った事ない場所に行くか
それとももう一度訪れたい場所に行くか
ってどっちでも好きなので良いか
行った事無い場所も懐かしい場所も行けばいい
という事でこの1ヶ月は旅を中心に行動しよう

僕はスマホのメモ機能に行くところリストを作った
こんなに回れるのか?
とりあえず優先順位の高い所から行く事にした

数県回ってみたものの
あまり楽しく無かった
結局半月もしない内に旅はやめてしまった

これからどうするよ
両親は既に亡くなってるし
ひとりっ子だし
独り者だし

とりあえず遺言的な手紙くらいは残しておくか

僕は近くのファミレスに行き
遅めのランチを食べて
ドリンクバーで珈琲を入れ
席に戻った

さて死んでからのお願いを書くわけだがどういう感じで書けば良いのだろうか

先ず通夜や葬式に関しては要らないと
それからお墓の住所を書いて此処に埋葬してねと書く
財産はどうする?
誰かにあげるのか
それとも寄付するのか
誰かにあげたら
また別の誰かが妬むか
よし寄付にしよう
何処に寄付するのよ
分からん
どうしよう
これは一旦保留だな

ここだけ空白にして決まったら書きたそう

で名前を書いて印鑑を押すと

よしよし寄付以外は出来上がった
後でコレをカラーコピーしよう
勝手に書き換えられたら困るからな

珈琲を飲みながら
チラリと窓の外を眺めた

どうって事ない風景だったが
何故だかとても感動していた
学校よりも旅よりも感動しているのは何故なんだろうか
分からないけれど感動しているのだからそれはそれで良しとしておこう

次にやりたい事としては友達と飲みに行く事だな
数人しかいないし皆んな同じグループだから一回で終わっちゃうけどまぁそれも良しか

そこで我にかえったのだが
あまりにも早回しで片付けし過ぎたような気がする
割とヒマ
というかやる事が無い
会社ギリギリまで辞めなかったら良かったかも
家の物もギリギリで良かったかも
日中も夜もやる事が無い

困ったなぁ

インターネットカフェでも行くか

散々漫画を読み倒したら夜になっていた
腹が減ったな
ご飯でも行くか

行きつけの居酒屋に行った
カウンターに座って大将とバカ話しながら酒の肴をつっつき日本酒をチビチビやりチェイサー代わりにビールを飲む
これがいつものスタイルだ

知らない間に店はお客様で満杯だった
だから大将はあまり相手をしてくれなくなったが
隣の女性から話しかけてもらえたのでヒマは潰れた
お腹も膨らんだし他のお客様の為に空席を作ってあげないと
お勘定を払って外に出たら
後ろから

「もう一軒行きません?」

隣に居た女性だった
普通だったら断るのだが
この女性もあの店の常連のようで大将から名前で呼ばれてたし
多分変な人では無いだろうと判断し二軒目に行く事にした
二軒目は立ち飲み屋さんでなかなかイカした店を知っているのだなと感心した
僕は酔っ払ってき始めている
日本酒はセーブして酎ハイに切り替えた

二軒目を出て流石にもう帰るだろうと思っていたら
今度はカラオケに行きたいと言い出した
大丈夫なのか?

僕は断るのが下手なのだ

そしてサザンを熱唱していた

女性の名前はナオさん

ナオさんは酒が強いのか全然酔ってる感じがしない
喋りもサバサバしていて話しやすい
クネクネ女では無いので疲れない

でも気付いたら彼女のペースだった

どうしてなのか
こんな事は初めての経験だが
数時間前に出会った人とラブホテルに居る

そして恐ろしいほど気持ち良かった

話を聞いてみるとナオさんもこんな事したのは初めてだったらしい

彼女は話し始めた

「私ねもうすぐ死んじゃうの」

「えっ‼︎それってどういう事?」

「癌なのよステージ4の
先生にはもう手の施しようが無いって言われたの
だから死ぬまで好きな事やってやろって思ったの」

「僕と同じだよ
僕も先生に手の施しようが無くて余命6ヶ月って言われて後1ヶ月半なんだ」

「本当に?キツい冗談ならやめてね」

「ホントさ
ちょっと待って」

そう言ってファミレスで書いた遺言的な手紙を見せた

「うわっ本当なのね
なんなのこれ運命?」

「分からないよ」

「ねっヤスシさん独身でしょ
彼女はいるの?」

「いないよ」

「私も
だからさぁどうせ死ぬんだし
私たち結婚しない?」

「えっ!」

「困る?」

「いやっ突然だったから…
そうだな結婚しちゃお」

次の日婚姻届を役所に出した

保証人は適当に友達の名前を書いて三文判を100円ショップで買って押した

突然家族が出来た

残りは後わずかだが2人で色んな所へ行き色んな体験をし感動を分かち合い
時間があればあの居酒屋にも頻繁に行った
夫婦になったと告げたら大将は驚いていたが祝福してくれた

そして1ヶ月と経たない内にナオさんは亡くなった

彼女も僕同様親族が居なかったので先に両親の墓に入れてやった

その後
僕には驚く事が起きた

僕の癌が消えて無くなったのだ

死なないのだ

多分彼女が僕の癌も持って行ってくれたんだ

そう思うと涙が出てきて止まらなくなった
最高の時間をありがとう



そして僕は今日も生きている






ほな!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?