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【1958年の黒】 #679


僕は赤ちゃん

僕は赤ちゃんだから頭の中は真っ白

いや違う真っ白どころか透明だ

だから言葉も分からないし

感情の起伏も感覚だけで表している

言葉は無いけど「好き」「嫌い」「痛い」「お腹空いた」「眠たい」「楽しい」そんな感覚はあると思う

「恨み」「嫉妬」「憂鬱」「切ない」「劣等」「誇り」とかの感覚は無い

こういうものは成長するに従って大人たちが教えてくれるものだ

他の赤ちゃんも皆んな一緒だと思っていた

外へ出るようになった

新しく違う生き物を知った

鳥や犬や猫

それに草や木

上の方には空と雲と太陽

僕とそれがどう違うのか分からない

公園やスーパーマーケットに行った

色んなのがいた

一緒なのに違う

どこが違うんだろ

もう少し大きくなった

僕の周りは肌が黒い人ばっかりだ

たまに白っぽいのもいる

僕は小学生になった

学校のお友達と呼ぶクラスメイトはほぼ黒い

学校全体が黒が多い

ある日休みの時に公園で遊んでいたら

「あっち行け」

そう言って白っぽい子供の集団に石を投げられた

僕たちは人数も少なかったし小さかったので怖くて逃げた

家に帰ってお母さんに抱きついて泣いた

お母さんはギュッてしてくれた

その後
僕のためにアップルパイを焼いてくれた

僕は小学生の高学年になった頃
教会のゴスペルグループに入った

歌を歌うのはとっても楽しい

神はいつも言ってくれる

「自由だ」「平等だ」「ハレルーヤ」

テレビのニュースでブラック・パンサーというのと警察官がケンカしてるのをやってた

中学生になってブラック・パンサーが何なのか分かった
それ以外にもキング牧師やマルコムの事を知った

僕は他の友達とは考え方が違う

黒とか白とかあまり興味が無かった

イジメられるのは嫌だったけど

仕返ししようとかは思わない

だからと言って平等になれるとも思っていない

きっと神様は意味があって黒いのやら白いのやらそれ以外の色やらの人を作ったんだと思う

でないときっと一緒の色しか作らないよ

同じじゃ無い良さを知れば良いんだ

やがて僕は高校生になりバンドを組んだ

ジミー・ヘンドリックスに憧れて

下手くそだったけど楽しかった

相変わらず僕の周りは黒ばかり

バンドは下手くそだったけど勉強はできたから大学を目指した

親も応援してくれた

けれどそれが間違いだった

大学は遠かったので寮生活になったのだが

その寮で壮絶なイジメに合い

僕は寮の2階から飛び降り車椅子生活になった

僕は「後悔」「怒り」「悲しみ」「恨み」で頭が一杯になった

大学はやめ家に戻り殆ど部屋から出ない生活になった

朝起きても何も楽しい気持ちにはならなかった

何故自分が生きているのかさえ分からなくなっている

これからどうなるのか

これからどうしたいたのか

何も頭には浮かばない

今生きているのは
もし死んだら悲しい思いをする両親の為

そうならないように2人のために
辛うじて生きている

部屋ではだいたい本を読んでいる

何度も同じ本を読んでいる

好きだから読んでいる訳では無い

時間が通り過ぎるのを稼いでいる

そしていつしか
お父さんとお母さんが死んだら
僕は死ねる

それまでは死ぬわけには行かない

黒い車椅子の僕はまともに仕事に就くこともできない

だからペンを使った

沢山沢山書いた

色んな出版社に送った

全てボツになったがある出版社の人が家に訪ねて来た

話をした

どうやら僕の書いた文には心が無いそうだ

逆にそれがビックリで話をしたいと思ってくれたようだ

そしてひとつのアドバイスをもらった

今の心境で書かなくて良い

赤ちゃんの頃の感覚で書いてみてはどうかと言われた

よく分からなかったけど
一所懸命に赤ちゃんの頃の感覚を取り戻そうとした

そしたら不思議な事が起こった

目に留まる物すべてがキラキラと輝き出したのだ

そうか初めてってこんな感覚だったのかもしれない

そんな気持ちで作品を書いてみた

そしてあの出版社の人に見てもらった

「オーマイガット素晴らしいよ君」

そう言って僕にハグしてくれた

僕の本は出版され売上も上々になった

4作目でベストセラーになり本格的に作家の仲間入りになり

新しい家族も出来た

あの出版社の人が僕の人生のパートナーになった

僕は悲しませてはいけない人が増えた

僕はもう当分死ぬわけには行かなくなった

その日が来るまで





ほな!

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