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【入店拒否】 #656


よく盲導犬を連れた人や
車椅子の人なんかを
入店拒否するお店があると
報道などのメディアで紹介されているのを観たりする

まさか僕がそこに遭遇するとは思ってもみなかった

つい先日の事だ
僕は友達と人気の居酒屋で酒を飲んでいた
そしたら入口の所で
なにやら言い合いをしている声が聞こえた
なんだろう?

とっさに友達が
トイレに行くふりをして見てくるわ
そう言って入口の方へ向かった

数分後
帰ってきた友達は

「気分悪いわ
この店出ようぜ」

「えっ
やっぱりなんかあったん?」

「ああっ
車椅子のお客を
店に入れんかったんや
入店拒否っちゅうやつや
最低やでこの店
気分悪いわホンマに」

「マジか」

「おうっ
ちゃんと動画も撮ってきた」

「マジかやるなぁ
ちょっと見せてよ」


僕は友達の動画を見せてもらった
そこには


「お客様お帰りください
以前来られた時にも
そう申し上げたでしょ」

「なんでや
ワシが車椅子やからかっ」

動画はそこまでだった

僕は友達にこの動画を送ってもらい
すぐにSNSにこの動画をアップした
すると瞬く間にシェアされ
一気に「いいね!」が1万を超えた

次の日
朝起きて見ると
5万を超えていた

それはネットのニュースでも取り上げられ
関連した投稿も次々と現れ
お店のSNSには悪質な書き込みも一気に増え
ホームページはストップしていた

数日後のニュースでは
その居酒屋は当面営業を取りやめる事となったが
怒りの炎は消えなかった

だが
ある事がキッカケとなり
事情は180度変わった

それは
あの居酒屋の近くにある
別の居酒屋の投稿であった

それには

あの居酒屋はとても素晴らしいお店です
あのお客様はこの界隈でも有名な人物で
入店すると酔っ払って
他のお客様
特に女性のお客様に迷惑行為をします
こちらが注意をすると
障害者を差別するのかっと大声でわめきちらし
コップや食器類を破壊した事もあります
ですので当店もあの居酒屋と同様に
入店を控えてもらっております
不謹慎かもしれませんが
これが当店でのその時の動画です

プライバシー保護の為顔はボカシを入れております

この文章と動画が貼り付けてあった

そこには紛れもなく
あの車椅子の人が
汚い言葉でわめき散らし
店主と口論になっている動画でした

この動画も瞬く間に拡散された

ただ困ったのがそこからだった

あの居酒屋は名誉を回復して
再開した訳だが

今度は矛先が
僕とあの車椅子の人に向けられた
僕のアカウントには
沢山の嫌がらせの書き込みが殺到し
酷い人は「死ね」とまで書き込み
それに沢山の「いいね!」が付き
僕は頭がおかしくなりそうになった
怖い恐ろしい
このままでは身元も分かるのも時間の問題だ

僕の方でも
謝罪文とあの動画の削除を行ったが
なんら役に立たなかった
僕は僕のアカウントを閉鎖した
それでもかつての動画はSNS内で周った
あの動画には車椅子の人の顔がバッチリ映っている

僕は何とか逃げ切った形になったが
最悪の幕切れとなる事件が起きた

車椅子の人が見つけ出され
数人でリンチする動画がSNSで拡散

ニュースでも改めてこの一連の出来事について報道
車椅子の人は命は取り留めたが
重体で病院で入院しているそうだ

僕はあるテレビ局の人から電話がかかってきた
どうして分かったの?

向こうが言うには
プライバシーは必ず保護するので
インタビューさせてもらえないか
という申し立てだった

そもそもの始まりは僕の投稿なので
渋々だが受ける事にした

テレビ局の報道番組スタッフは早いもので
承諾した1時間後にはタクシーで家の前まで迎えに来て
その夜そのまま生出演となった

その流れの中で新たなる展開もあり
車椅子の人を襲撃した少年グループが逮捕された
そして番組の途中で
中継であの居酒屋のオーナーとも繋ぎ
僕は番組を通して謝罪した

居酒屋のオーナーはとても寛大な人で
あの時そう見られてしまうのは理解できる
一時は閉店に追い込まれるのではと
心配したが周りの仲間に救われた
もし良かったら
またいつでも遊びに来て下さい
大歓迎します

そうおっしゃってくれた
情け無い僕は
テレビなのに泣いてしまった

アナウンサーの方が上手く話をまとめて下さった

収録が終わって僕はタクシーチケットをもらいテレビ局を出た
時計を見たら10時半だった
あの居酒屋はまだ営業している
今からだとまだ間に合う
タクシーに乗り
運転手さんに居酒屋を伝え
向かってもらった

居酒屋に到着した
店の前まで来たら足が震えた
でもちゃんと面と向かって謝らないと

勇気を振り絞って中へ入った
1人だったのでカウンター席に通された
まだ僕が誰だか店のスタッフは分かっていない

カウンター席の目の前では店主が
料理をさばいていた
僕はビールを注文し
生ビールをひと口だけ飲んで
目の前の店主に話しかけようとしたら

「よく来てくれたね
今日はココで水に流そう
来てくれて嬉しいよ
乾杯しよう」

そう言って店主も自分にビールを入れ
乾杯して飲んだ

「どうして僕ってわかったんですか?」

「そりゃこの商売してたら
お客様の顔は忘れないよ」

「ホントですか」

「そーよ
さっコレはウチからのサービスだ
これからは良いのをジャンジャン投稿してくれよ」

「はい」


安心と楽しい夜は過ぎて行った


盲導犬と入店拒否
車椅子と入店拒否

それは残念な事

でも今回のように
そこに一方的な思い込みの正義感で
間違った行動を起こし
色んな人を傷付けるキッカケを作る場合も可能性としてはある






ほな!

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