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【映画のようには行かない】 #805


僕にはお父さんが居ない
というか物心ついた時にはもう居なかった
お父さん事はなんか聞いちゃダメな空気になってて
お母さんにもおばあちゃんにも聞けなかった

そんな僕が高校一年の時に突然お父さんが誕生した

「ヤスシ
お父さんが帰ってきたよ」

「お父さん?
何処から?」

「フランスよ
フランスから帰ってきたの」

「フランス?
何してたの?」

「フランスでエンジニアの仕事をしていたのよ」

「フランスでエンジニア?
そんな事今まで何も言わなかったじゃない」

「あらぁ
そうだったかしら」

「ねぇねぇおばあちゃん
おばあちゃんも何にも言わなかったよね?」

「あらそーかしら」

「なんかおかしいよ」

「この人
ホントにお父さんなの?」

「そーよ
何を言ってるの
ホラっ目元なんかヤスシにソックリじゃない」

「こんなロボみたいな目してないよ」

「ロボだなんて
お父さんに謝りなさい」

「いや
どー考えてもおかしいよ

何処からどー見たって
人じゃないよ
ロボじゃん

ロボなのにお父さんなんて
変過ぎるよ」

「変なのはヤスシよ」

「いやだぁ〜っ」



ここで目が覚めた

なんだ夢かよ
ビックリした
しかしロボのお父さんって
無茶苦茶な話だな

確かに僕にはお父さんは居ないけど
どうして居ないのかはちゃんと知ってるし
僕はまだ中学生だ


お父さんは今
刑務所に入っている
僕は犯罪者の息子なんだ
だから生まれた街からは遠く離れた
地方の中学に通っている
離婚して苗字も変わった
だから此処では僕が犯罪者の息子である事は知らない


お父さんは工具で人を殴って死なせてしまった
相手の男はお父さんの先輩で
お父さんの同僚をいびっていて
それがエスカレートして
イジメにまで発展した

お父さんの同僚はおとなしいタイプの人だったんだって
止めに入ったところ喧嘩になって
カッとし工場の工具で頭を殴ったら
そのまま倒れ救急車を呼んだけど
亡くなっちゃったらしい

裁判では同僚の人が
これまでの経緯を話
殺人としては軽い判決になった


そんなお父さんがもうすぐ出所するらしい
僕はお父さんの記憶が薄い
幼稚園の頃だったのでホントに薄らとしか覚えていない
写真があるから顔は知っている
でもどんな人だったのか知らない


お母さんは最近機嫌が良い
もうすぐお父さんに会えるからだろうな
今朝見た夢ではおばあちゃんが居たが
僕の家にはお母さんと僕しか居ない

お母さんは毎日パートタイマーで働き
そのお金で僕たちは生活している
貯金はあったらしいんだけど
そのお金は全部殺された人の遺族に渡したんだって

お母さんの給料だけだから贅沢はできない
だから僕は早く大人になってお金を稼ぎたいよ
お母さんに楽させてあげたいし
僕も好きな物を買いたいしね


お父さんが出所したらしい

お母さんは迎えに行ったんだけど
お父さんには会えなかったらしい
行き違いかなと思って帰ってきたけど
お父さんは此処には居ない

お母さんは首を傾げている

電話もかかってこない

数日しても帰ってこない

1週間後警察に相談した
警察は冷たかったみたい
元犯罪者だからだろうなぁ
それに言われたのが
離婚していて家族では無いからだそうだ


お母さんは落胆した
可哀想…

お父さんは何処へ行ってしまったんだろう


それから月日は流れ
僕は大人になり会社員として働いている
お母さんとは今は一緒に住んでいないけど
月に一回は泊まりに行く

あれ以来お母さんは元気が無い
笑ったりする事もあるけど
あんまり嬉しそうじゃない


僕はお母さんに言った

「ねぇ探偵に依頼しない?」

「なにを?」

「お父さんだよ」

「ああっ
もう良いよ
今更現れられても…」

「どうしてだよ
お母さんの為だけじゃないよ
僕だってお父さんに会いたいんだよ」

「そう…

なら良いわ
あなた自分の為に探しなさいよ
私は会わなくて良いから」

「そんなぁ…」


話はここで終わった

結局僕は探偵に頼まなかった

その出来事からまた数年が過ぎ
僕には彼女ができ
結婚する事となった

相手のご家族にはお母さんは離婚をしたとだけ伝えてある


結婚式の当日
お母さんからこう告げられた
最近お父さんと連絡を取り合っていると
結婚式の話をしたら
迷惑になるから遠慮しておく
そう言ってたと聞かされた

どうして連絡取り合えてるのか
どうして連絡取り合えてるなら教えてくれないのか
どうして来てくれないのか


結局僕はお父さんに二度と会う事なくこの世を後にした

人生映画のようには行かない


僕は子供2人を授かり
孫もでき
それなりに幸せに過ごした
けど心残りはお父さん

ロボでも良いから帰って来て欲しかった




ほな!

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