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【ある親子】 #525


街を歩いていると
中学生にボコボコにされているオッサンがおった


「オラっお前ら何やってんだ
警察呼ぶぞっ」


そう言ってスマホをかざしながら
近づいて行った


「お前には関係ないだろ
このオッサンがフラフラと歩いて
俺たちにぶつかって来たんだよ

ナメたマネしやがったんで
ヤキ入れてるんだよ」


関係ないだろ
という割には
キチンと説明してくれる
律儀なヤンキーだ


「まぁ
とにかく
そんくらいで
許してやってはくれないか」


そう言いながら
リーダー格の
説明しようヤンキーに
1万円を手渡した


「次ボコってんの見かけたら
今度は本当に警察に連絡するからな」


ヤンキーたちは
ブツクサ言いながらも
一応素直に応じてくれた


「オッサン大丈夫かっ?
具合悪かったら
救急車呼ぶぞ」


「ニィさんすまんな
オレは大丈夫だ

いや助かりましたよ」


「そうですか
しかし
どうしてわざわざ
ヤンキーに突っ込んでったんです?」


「いやね
ちょっと立ちくらみして
フラフラっと」


「立ちくらみねぇ
気を付けて下さいね

では僕はこれで」


「いやニィさん
ちょっと待ってくれ
助けてくれた
お礼がしたい」


「いや良いですよ」


「そんなコト言わずに」


「いやぁ…そんなつもりじゃ」


「頼むよ」


「そうですか?
じゃあ…」

「良いかい?」


そういうと
オッサンはニコッと喜んで
僕をある場所に連れて行った

そこは今では珍しい
長屋が連なる一角


「さっ
狭いですが
入って下さい」


正直言って
そんなにキレイだとは言えない
しかもさっき知り合ったばかりの
オッサンの家
やや
ちゅうちょしていると
中から声が聞こえてきた


「お父さん
誰か連れてきたの?」


なんてキレイな声なんだ


「ああ
ナオちゃん
さっきそこで助けてもらったんだよ」


「助ける?
どうかしたの?

あらっ
お父さん
鼻血出てるじゃないの」


「いや
大したコトは無いんだ

さっ
上がって下さい」


正直言って
遠慮しておこうと思ったが
出てきた娘さんが
超可愛いく
超好みのタイプだったので
家にお邪魔してしまった


「ナオちゃん
この人には
さっき世話になったんでな
何かご馳走を出してくれんか?」


「お父さん
ご馳走?」


「そう
ご馳走」


「ううぅ〜ん

何とかやってみる」


「あのぉ
お気遣いなく」


「大丈夫ですから
あの子はね
ああ見えて
結構料理は得意なんだよ」


「恐縮です」


「リラックスして下さいよ
おっ
そうだ
リラックスにはやっぱり酒ですね
飲める口ですか?」


「まぁ人並みには」


「そりゃ良かった」


そうやって料理が出てくるまで
ビールを飲みながら待った


間も無くして
料理が出てきた
肉じゃがや魚の煮付け
お浸しやだし巻き卵といった
馴染み深い家庭料理がたくさん並んだ


「さぁ食って下さい」


「ありがとうございます
というか
ナオさんは
今これを全部作ったんですか?」


「お口に合うと良いのですが」


ひと口食べた
美味しい
こんなに美味しい家庭料理は
なかなか食べられない


「美味しいです」


「ありがとうございます」


「いや良かったです

そー言えば
お互い名乗ってませんでしたね
オレの名前は亀吉ってんです
でこっちが娘のナオミです」


「私はヤスシと言います」


「そうかヤッさんか

ヤッさん
どんどん食って飲んでくれ」


すっかり
料理もたんのうし
酒にも酔い
良い感じになった

時計を見ると
良い時間になっていた


「もう
こんな時間だ
すみません
長居してしまいました
僕はそろそろ帰ります」


「まだ良いじゃないですか
ゆっくりしてって下さい

なっナオちゃんもそー思うだろ?」


「そうですよ
ヤスシさん
もう少しだけ
ゆっくりしていって下さい

こんなにお父さん喜んでるの久しぶりだし
私もお客さんが来てくれて
それがヤスシさんで嬉しいわ」


酒に酔っている僕は
ナオさんの言葉にトロけてしまい
更に飲んでしまった



気がつくと
朝になっていて
僕は布団に寝ていた

サッパリ覚えていない
頭が痛む
そりゃそうだろう
あれだけ酒を飲んだら
二日酔いにもなるわなぁ

良い匂いがしてきた


「あっ
ヤスシさん起きたのですね

朝ごはん作っていますので
それだけは食べて下さい」


「ありがとうございます

お父さんは?」


「お父さんは
ええっと

あっ朝の散歩です
もうすぐ帰ります」


食卓には
ご飯と味噌汁
焼き魚に大根おろし
と温泉玉子


「ありがとうございます」


「お父さん
じきに戻りますから
冷めるといけないので
先に食べて下さい」


「じゃあ
せっかくなので
ナオミさんも一緒に食べませんか?」


「あっ
ヤスシさんごめんなさい
私もう先に食べてしまったの

分かりました
横で私
お茶飲んでます」


そう言うと
お茶を片手に
横にちょこんと座ってくれた

もう
可愛いくて
メロメロだ

とは言うものの
あまり長居するのも迷惑なので
朝ごはんを食べたら
帰ろう

ご飯を食べている途中でオッサン
いや亀吉さんも帰ってきた


「いやぁ
昨日は久しぶりに楽しかった
これもヤッさんのおかげ
うちは大歓迎なので
いつでも遊びに来て下さい」


「こちらこそ
ありがとうございます」


朝ごはんをいただき
帰り支度をしていると
ナオミさんから
メモを渡された
そこには
ナオミさんの
携帯電話番号とメールアドレスが書いてあった
ナオミさんはニッコリ微笑んでいる

嗚呼っ
帰りたくない

がそういう訳にもいかないので
帰り支度をし
2人に別れを告げた


いやぁ
まさか初対面の人の家で
ご馳走になりひと晩泊まるとは
ナオミさんがいなかったら
家にお邪魔もしていないし
こんなコトにはなっていなかっただろうなぁ



それから半年ほど過ぎた
結局ナオミさんには
連絡できず仕舞いだった


テレビのニュースを見ていると
親子の泥棒が捕まったと言っている
犯人の名前と顔写真が出た

あっ
亀吉さん
ナオミさん

僕は仰天した
なんと2人は泥棒だったんだ
他にもスリなんかも働いていたそうだ

ひょっとしたら
あの時も
フラフラって言ってたけど
スリを働こうとしていたのかもしれない

僕は
なんとも言えない気分になった

このニュースを見ると
一般の人は
悪の親子に見えるんだろうな

僕には
気さくて優しくニコニコした
善人親子にしか見えない

報道はどうして
こうできるだけ
悪い面構えの写真を用意するのだろうか
亀吉さんはもっと目尻が下がり
優しい顔なのに
ナオミさんもこんなに暗い顔してないし

というか
それにしても
泥棒だったとはビックリだ

次の週末に
何となく
あの長屋に行ってみた
そこにはもう
報道の時に映っていた
警察の黄色いテープもはがされ
人の気配の無い空気が漂っていた
試しに玄関を開けようとしたが
当然カギがかかっていて開かない

今頃になってなのだが
ナオミさんに電話をしてみた
当然ながら
つながらなかった
そりゃそうだわな

空を見上げた

晴天とも曇りとも言えない空

まるで
浦島太郎になった気分だ




ほな!

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