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【心が必要だった人】 #727


彼女はIQが高いらしい
どうも人を見下している所があり自分より劣った人間たちとの交流は嫌がる
そのくせに専攻は知的障害者支援について学んでいる
高卒の僕たちを馬鹿にする

彼女はある報道バラエティ番組にゲストで呼ばれた
大学生でありながら既に会社を立ち上げ経営しており
知的障害者支援の現状と改善について話した

それはもう素晴らしい内容であった
瞬く間に彼女のTwitterやInstagramもフォロワーが増えた

活動をけなすつもりは無い
彼女のような人が出てきてくれるので守られなければならない人々のサポートが更に発展発達が期待できる

しかし僕たちの存在も忘れてほしくない
現場で働く僕たちのことも知ってほしい
彼女は僕たちが働いている施設の所長とは話をするが僕たちとは話はしない
挨拶をしても聞こえていないのかフリなのか無視される

どこか見下されている気持ちになってしまう
だから同僚の中には
「アイツは偽善者だ」
そういう者も居る

僕はそこまでは言わないが知的障害者では無いが社会的弱者である僕たちの職場環境改善にも目を向けてほしい

どうしても彼女のサポート体制は施設にとっては素晴らしい
しかし仕事のしわ寄せは最下層である無資格の僕たちに来る
これは他の施設でもよくある
それが嫌で転職したけど結局の所は同じような待遇だ


僕は彼女の事は知っているが彼女は僕の事は知らない


私は完璧とまでは行かないが限りなくそれに近いと思っている
東大合格したもののあまりその時の自分とはフィットしないモノを感じてアメリカに留学した
スタンフォード大学で地球科学部を選考
その時に重い障害を持ちながらも勉学に励む友人と出会った
これがきっかけで私は何かしら障害を持った人の為に何かできないか
それを強く思うようになった

私は卒業後すぐさま日本へと戻り日本福祉大学の大学院で社会福祉研究科に入りその後また東大に入り直し経済を学びながら今の組織を立ち上げた

私には沢山のやるべき事があるのでお友達を作ったり
そのお友達とカフェに行ったり
時にはコンパに行ったり
彼氏を作ってデートしたり
そんな時間は無いし無駄だ

そんな事をしている時間があるのならビジネスに没頭したい
どうやって知的障害者がより良く生活でき社会貢献ができるのか
そのサポートとシステムの構築が私の使命なのだ

父はそんな私の姿を見ていつも応援はしてくれるものの心配もしていた

「ナオちゃん
あまりこん詰め過ぎないだぞ
もっとほら女の子なんだからお洋服とかお友達とか彼氏とか
そんなのも楽しめよ
どうも見ていると視野が狭いような気がするんだよ」

「お父さん
私にはそんな時間は無いの
こうしている間にも障害者はより良い生活や社会貢献をしたいと渇望しているのよ
そんな時に私がヘラヘラ遊んでる訳には行かないの」

「そうかぁ…?
ほら車でもアクセルやハンドルに遊びという物があってな」

「もういいって」

「そうか…」


父は私と違って天然で天才な芸術家なので私のやってる事がちんぷんかんぷんなのだ
私のDNAはどちらかと言うと母の家系だと思う
そんな母はもう他界して居ない
そのせいか母方の祖父母や親戚とやや疎遠気味だった
父はとても優しく私のやりたい事は何でもさせてくれた
だから私は好き放題して生きていた

先に伝えたように私にはやる事が多過ぎて遊んでる暇なんてない
アホと付き合ってる時間は無いのだ


彼女は自信過剰であった
会社を立ち上げ運営し始めて5年間は良かった
彼女の提唱するサポートは実に素晴らしく提携会社や施設なども増えた
それにもかかわらず5年を過ぎた辺りから徐々にではあるが人が離れだした

理由は簡単で福祉支援の会社なのに代表である彼女は完全に人を見下しアゴで扱う
使えないと思ったら人でも企業でも施設でも平気な顔して切って行った


理想は高いけれど心が無い
これがホントの福祉支援活動なのか

彼女の貢献は非常に業界でも認められそれを元に業界自体が変わって行った
しかし皮肉な事に彼女の仕事は業界から干され無くなってしまった


人もデスクも何もかも無くなった事務所を見つめ落ち込むどころか只ならぬ怒りで手が震えた


明日から何もする事が無い
というかもう今から何も無い

時計を見ると夜の9時を回った所だ
真っ直ぐ家に帰る気持ちにもならず
私は不慣れな夜の街をフラフラ歩いた
ナンパしてくるクソガキを無視し歩いていたらなんだか引き寄せられるネオン管があった

"Bar-ning"

燃えているのか
燃え尽きそうな私への皮肉なのか
そのまま店へ入りカウンターに座った

店では70年代のファンクがかかっていた
詳しくは知らないがアメリカのルームメイトが好きでよく聴いていた

私はこんな所に来るのはアメリカ以来だからもう10年ぶりくらいだ
ラムコークを頼んでグズグズしていたら隣のひとつ席を開けた向こう側の男が喋りかけてきた

「この店良いんですよ
クヨクヨした時に来ると
元気になって帰れるんです
大して何もしてもらってないんですけど
不思議とそうなるんです」

「そう…」

「お姉さん
ここ初めてでしょ?
何となく引き寄せられて入っちゃいませんでした?
僕はそうでした」

「そう…かもね」

「やっぱりそうかぁ
僕ね福祉の仕事してるんすよ
これがなかなか大変で
でもねあるスーパーミラクルなお姉さんが現れて沢山の革命を起こしてくれたんです」

「えっ‼︎」

「えっ!てどうしたんです?」

「いえ何も無いです」

「そうなんだ
ただねぇそのお姉さんのシステムはとても良かったのにハートが無かったんですよ
あの人にそれがあったらもっと大変な事になってたと思いましたね」

「ハート?
大変な事?」

「そうもっともっと素晴らしい事がね起こったと思うんですよ
ちょっと悪口っぽくてすみませんけどなんかね自己満足の為にやってるようにしか見えなかったんですよね
あの人がもっとハートフルで愛情たっぷりな人だったらああはなってなかったと思うんですよ
僕ねあの人と2回くらい自分の働く施設の廊下で会った事があるんすよ
でね"こんにちはぁ"って挨拶したのに無視されたんですよ
後で聞いてみたら他の人もそうだった
障害者と接している時も優しい顔をされていたけど目が凍ってた
寂しい人なのかなって

あっ喋り過ぎちゃいましたね
すみません」

「いえ
話してくれてありがとう」


私はそれくらいしか言えなかった
何なのかしらこの店のこのシチュエーション

疲れたなぁ

青年にお礼を言って店を出た

月が綺麗だった





ほな!

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