【誰かの交差点】 #758

前が向けない

何年経ってもクヨクヨしている

前の晩夜更かししなきゃ良かった
寝坊しなきゃ良かった

僕はあの日朝起きれなくて急いで家を出た
朝ごはんも食べず自転車を走らせ学校へと向かった



ヤスシは小さい頃からモテた
特に中学生になってからは上級生から告白されたり
他校の生徒がわざわざ見に来るくらいモテまくった
容姿もそうなのだがサッカー部での活躍が彼をより目立たせる事となった

まるでJリーガーだ

それでいてとても良い奴で優等生ともヤンキーとも目立たない生徒たちとでも分け隔てなく仲良く接していた

周りの人は皆んなプロになるだろうと期待した
彼自身もそれを望んでいた



自転車を立ってこぎ大きな交差点に差し掛かった時
目の前の信号は黄色から赤に変わろうとしていたが大丈夫だと判断しそのまま走った
クルマにクラクションを鳴らされたが何とか渡りきり安心した次の小さな交差点でそれは起きた

クルマが狭い道路にも関わらず猛スピードで横から現れヤスシを吹っ飛ばした
クルマは止まらずそのままヤスシを巻き込んだままブレーキもかけず
その後電信柱に衝突し止まった
運転していたのは60代の女性で助手席には小さな子供が乗っていた

すぐにパトカーと救急車が来た
女性も子供もヤスシも全く動かない

3人とも助け出され病院に搬送された
この事故はテレビでも報道された
子供は搬送先の病院で亡くなった
女性とヤスシは命は取り留めたものの2人とも集中治療室におり
まだ意識は回復していない

この女性は孫を幼稚園まで送ってた
普段はバスで送迎してもらっているのだが支度が間に合わずバスは行ってしまった
お母さんは仕事だったので祖母である女性が送る事となった


女性は意識を取り戻し数カ所の骨折だけで済んだ

ヤスシはまだ意識がない

ヤスシは両足の骨折
脊椎の骨折
脳挫傷
顔面を強く地面に擦ったようで見るも無惨な姿になっている


女性は病院内で警察から事情を聞かれている
記憶が飛び飛びで今ひとつ分からない
女性はブレーキをかけたと言ったが道路にはブレーキ痕は無かった
恐らくアクセルとブレーキを間違えたのだろう

ヤスシは意識を取り戻したがまだ話したりはできない



女性は退院した
実況見分を警察官と行った
女性は罪を認めた
裁判で実刑判決が出た


ヤスシは回復したのはしたのだが
もうサッカーはできない
顔も賢明な治療により人間らしい顔にはなったがかつてのヤスシとは程遠いものとなってしまった

リハビリにもあまり前向きになれず車椅子生活が続いた
休校していた高校も退学し家に籠る日々が続いた

ヤスシは女性を憎んだし自分も憎んだ

どうして夜更かししたのか
寝坊さえしなければあの時間にあそこを通らなかった

クヨクヨし後悔し塞ぎ込み
どうしてもどうしても
前を向く事ができなかった

時々友達からLINEが来る
でもあまり返さない
健康な彼らに怒りを感じてしまう



ヤスシはいつものように目覚め
普通に朝ごはんを食べて
いつものように自転車に乗って
高校へ向かった

大きな交差点は赤だったので止まった
その前を幼稚園バスが通過して行く
沢山の子供たちが乗っていた
信号が変わり自転車を走らせ
いつものように学校に到着した

教室に着いて友達とわちゃわちゃしていたらチャイムが鳴り先生が来た
先生から報告があった

今朝クラスメイトの山田が交通事故に合い病院に搬送された
入院したのでいつ回復するか分からない
お母さんと今後の事は話し合って分かったらまた報告する

皆んなざわついた
心配する者も居たし
キョトンとしている者も居た

その後
山田は回復したものの学校には戻らなかった
ヤスシは山田にLINEを送ったが返信は無かった





ほな！