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【記憶と記録の阿弥陀クジ】 #725


目撃者からの背格好が似ているという証言と一人暮らしでアリバイが無かったのと殺された老人との不仲という3点の理由だけで逮捕された

確固たる証拠も無いまま警察での圧力のかかった取調べで頭がおかしくなった私は疲れ果てて「私がやりました」と証言するに追い込まれた

人殺しなんてした事が無いし怖いしそんな感情になった事なんて一度も無いのに

私は殺人犯人として起訴され執行猶予無しの懲役20年となり刑務所へ投獄された
私は無罪を主張した

私の事件をニュースや新聞で知った人が立ち上がってくれ弁護団を作ってくれた
この人は冤罪に苦しむ当事者とその家族を支援する団体の理事をやっている人でありご本人も冤罪により17年が刑務所に投獄されていた人であった

彼自身もこの弁護団の活躍により冤罪が証明され無罪となり出所し
その後国を相手取り訴訟をも起こしている
その最中に私を見つけてくれた

弁護団の代表である弁護士と何度も面会をし当時の経緯を話した
やはり矛盾点が多く私が殺人を起こす動機も無く殺人に使われた凶器では女性である私には使用困難であり無理矢理な証言のみの提訴での判決というのはかなり無理がある

私の居ない現場では何度も殺人の再現や周りの住人に改めて目撃や当時の状況などできる限りの調査を行なってくれた

そこでひとつ引っ掛かる証言が得れた
老人にはひとり息子が居たのだが母親を若くして無くし父親である殺された老人と2人暮らしであったのだが
この親子は何かにつけて衝突しちょうど事件から7年前に家を出たっきり戻らなくなったらしいのだが
事件の前後でこの息子を見かけたと言う人が数人現れた
そうであれば恐らく泊まっていたであろう駅前のビジネスホテルを訪ねた
宿泊履歴には彼の名前は無かった
恐らく偽名を使っていたのだろう
彼の写真を見せたが事件当時の1年前とは従業員が入れ替わってしまいその時を知る者は居なかった
1年前にフロントの係をしていた人間の住所を聞いたのだがフロントをしていた責任者1人と従業員2人も引っ越しをしており行くへが分からなかった

ホテルは諦めざるを得ないと思った矢先
ホテル近くの食堂で昼食をしながら話をしていたら店の奥さんが知ってると言い出した
彼女の出身は老人と同じ集落で息子さんの事も知っていた
事件があった頃に此処にも来ていたそうで久しぶりだったので何処で何をしているのか聞いたら東京で土木関係の仕事をしていると言ってた
情報としてはそれだけだったが充分である
彼が犯人かどうかは分からないが殺人動機があるとすれば彼の方が可能性は高い
後は彼が左利きであれば更に可能性は高くなる
殺人に使用されたのは斧である
老人は前方の右肩の方から首にかけて大きく切り付けられている
もし右利きならば右肩ではなく左肩の方から振り落とす方が自然である
わざわざやりにくい右肩にしかも重たい斧を振りかざし正確に当てるなど女には難しい
男でも左利きで力仕事をやっている人間ならばそう難しいことでも無い

逮捕から5年後にようやくやり直し裁判が決まりこれらの証拠や数人の証言により私は勝訴し無罪となった

真犯人の可能性の高い息子はまだ捕まっていない

私は出所後集落を出て東京に住まいを移し弁護士事務所に勤務し彼らと共に冤罪に苦しむ人とその家族を支援する団体に所属し時には講演などもしたりメディアの取材を受けたりもしている

令和の現在では昔ほど冤罪は発生していないがまだゼロという訳ではない
今後も私はこの活動をし日本から冤罪という罪を無くして行きたいと思っている


そして私の誰も知らない秘密は墓場まで持って行く決意である





ほな!

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