見出し画像

【家なき人】 #704


僕は新聞社の社会部に所属する記者だ
まだ自分らしい記事は書いた事が無いし
自分にはどんな分野を記事にすれば良いのかまだ分からなかった
先輩からは休みの日に少しでも時間があるなら頭を小学生に戻して街を歩いてこい
そうアドバイスを頂いたが自分にはサッパリ分からない
もちろん言葉では理解しているがどうしても実際には大人なので先入観がある
多分そう言った先入観を持たずに素直な気持ちで見渡してごらん
そうしたら「あれ?」っていう素直な疑問が出るんじゃ無いかなという事なんだろう

僕はその先輩を尊敬しているし好きなので素直に時間があると街を散策してみた
センスないのだろうか
いつも変わらぬ街並み
沢山の人が行き交う老若男女問わず
駅へ急ぐ者
買い物帰りの者
何人かでご機嫌に歩く者
何処へ何の目的で歩いているのか分かりにくい者
色々居る

そう言えば最近この辺ってホームレス減ったよなぁ
どうしてなんだろ?
他の場所ではどうなんだろ?

気になった

次の日
先輩に話を聞いてもらった

「あのぉ今って話聞いてもらって構わないですか?」

「ああ良いよ
どうした?」

「ほらっ先輩街を歩いてこいって言ってくれたじゃないですか
僕時間があったら街を歩くようにしてみたんです
それで気になった事があって
最近ホームレスが減ったような気がするんです
調査やインタビューなどをして今のホームレスの実態について動いてみたいのですがどう思いますか
大丈夫そうなら係長に直談判しようと思うんですが…」

「面白いやん
やってみぃや
係長と課長には俺から言っといてやるよ」

「そうっすか
ありがとうございます」

1ヶ月後
上司からOKが出て週の半分くらいは取材に出られるようになった

新宿
池袋
代々木公園
多摩川河川敷
色々な所へ出向いた

最初からインタビューはせず俯瞰的にそれぞれの場所と傾向を観察した
見ていると分かってきたのが先ずビジュアルが二極化している
見るからにホームレスですよっというタイプと意外と身なりがキレイなタイプに分けられた
この違いは何だろうか
それから都会のど真ん中を選ぶタイプと公園や郊外の橋の下などを選ぶタイプ
この違いも気になった
ただ言えるのは都会タイプの人は荷物が少ないのに対して公園や郊外の橋の下の人はブルーシートのテントを作り色々と家財道具もたくさんあり
場合によってはペットなんかも飼ってたりする

ホームレスでも実に色々な生活スタイルがあるのだと気付かされた

ある程度場所を絞り
何度も通いホームレスとの距離を詰めて行き
数人の人と顔見知りになれた
これでやっとスタート台に登れた訳だ

Aさんの場合
東北から就職の為に東京に出てきて工場で働いたが5年勤めてゴタゴタがあり辞めた
その後土方やトラックの運転手やら色々転々としたがカラダをいわせて入院
入院費用がかさみ家の家賃を払えず引き払い退院後は仕方なしにホームレスとなった

Bさんの場合
精神的な疾患があり実家であるマンションに両親と生活していたが
両親も亡くなり仕事もできず実家のマンションの家賃も払えず
家を無くし施設に入居するも人間関係でうまくいかず退所し
ネットで仲良くなった男の人の家に転がり込んだが1年も経たない内に追い出されまた施設に入居と退所を繰り返し今は公園の多目的トイレで寝て昼間はウロウロしているか此処にいるか

Cさんの場合
この人が僕が取材した中で一番ホームレス歴が長い
高校卒業後に就職の為にAさんと同じように東京に出てきたのだが結局就職はせずたまたま始めた日雇いが性にあった
家に対するこだわりも若い頃は無かったのだがここ10年くらいは住まいにこり出して色々自分なりに工夫して生活している
ホームレス歴約50年
公園で恐らく一番の豪邸かもしらない

Dさんの場合
この人が一番身なりがキレイでしっかりされている
ホームレスをされたのはまだ1年と少しなのだとか
定年まで転職せず働いて退職したのだが退職金は親の残した借金に消え生活保護も考えたが区役所に相談している内に持ち金が無くなりアパートを出たその後も生活保護の申請をすれば良かったのだがいざホームレスをしてみると色んな支援団体や教会の人々が着る物や銭湯の回数券やお金などをくれるのでまぁ良いかとなり
今は少しだけゆっくりさせてもらって
年金が貰えるようになったら友達に住所を借りて年金貰いまとまったお金ができたらアパートでも借りて老後は屋根付きで過ごすそうだ

他にも色んな人が居た
上手くやっている人もいれば
更にマイナスの方向に進んで行く人もいる
中にはちゃんと持ち家があるのに此処が好きだからと言ってホームレスをされている人もいらっしゃった

ただ取材をしていて感じた事だがなかなか行政とホームレスの溝は深く
最近では色んな支援団体も存在するが中には貧困ビジネス的な団体もあり
改善されているようでまだまだ闇の部分もある

連載は2週間に1回で半年で打ち切りとなった
新人にしてはよく頑張ったと先輩は褒めてくれた

連載が終わってもこの活動は続ける事にした






ほな!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?