見出し画像

【カタチが無いから幸せ】 #682


ある日ネットニュースを見ていると
死亡記事があった

それにはこう書いてある
昭和の大女優も最後はひっそりと亡くなる

女優全盛期の頃は中目黒に大きな豪邸を建て
結婚は2度したが2度ともそう長くは続かず離婚
それ以外にも数度のスキャンダルがあった
日本作品だけでは無くハリウッド映画にも数度出演しアカデミー候補にもなった事があった
しかし晩年は引退宣言こそ聞かなかったが芸能活動からは遠退き
あの立派な豪邸も売り払い
最終的に住んでいたのは
これがかつての大女優の住む場所とは考えられないアパート住まいであった
遺品も少なく数着の洋服とバッグと財布
後は少しばかりの細々した物だけだぅた

この報道に対してかつて共演した俳優たちが取材人に対しお悔やみを伝えている

日本国民もある一定以上の人しかこのニュースには関心を持たなかった

イメージとしては
一時期はブレイクしたが
最後は寂しい人生を送ったんだ
という空気感になっていた




しかし
実際は大きく違っていた 



彼女は50歳を過ぎた時
突然事務所を退所した
個人事務所という程でも無いが
独立という報道があったが
本人はもう女優も含めた芸能活動はするつもりは無かった
女ひとり生きていくには充分過ぎるお金もあった

キッカケはある映画に出た時にブッダのシンプルな哲学に触れた事によって
考え方が180度変わった

そのキッカケで彼女はこの先の自分の人生で本当に必要な物以外は捨ててしまおうと決心した

中目黒にあった豪邸も売り払った
家で使っていた家具や調度品や食器や台所用品など売れる物は全て売り払い
洋服や靴帽子などはNPO団体に寄付した
ネットも解約し
当時流行り出したスマートフォンも解約し
全く新しいガラケーに変え
電話番号も変わり電話帳も消した

新しく入れ直したのは
実家の電話番号と幼馴染2人の連絡先と長年お世話になっていた社長の連絡先だけ

とても身軽になった
最初は不安感もあったけれど
数年経つととても面白くなって来る
働かないといけない
から解放されているし
仕事上のお付き合いとその延長上にあるプライベートのお付き合いという営業接待からの解放
物欲からの解放
人からの解放
見栄からの解放
肩書きからの解放

全ての執着が自然と減り
とてもココロとカラダが楽になり
ハッピーな気持ちになった

時間が沢山できたから
色んな所へ旅をし
人に出会い話し笑い
でも関係はそこに置いて帰る
持っては帰らない
背負わない為に

世界中を回った

不思議に思った
貧しい国の人々の方が
何故か生き生きしているように見えた
それぞれの人間が個人で独占するのでは無く
皆んなで共有し分かち合い助け合っていた

どうやら背景にあるのはイスラームの教えらしい

女優を続けていたらこんな事
絶対に肌で感じ知る事ができない
とても感動する

ココロとカラダの荷物が少ないから
何処へ行くのも楽になった
おまけにオシャレからも遠退き
すっかり男前なカジュアルしか着ていない
だから訪問した国によっては私をアジア系の移民と勘違いされた事もあった

それから
思いがけない出会いも沢山あった
こんなにも世界中に日本人が居た事にビックリさせられた

ある程度世界も回ったので
日本を楽しんだ
観光では無い日常の日本を色々と回った

日本はとても美味しい国だ

それも10年ほど続けると
同じ事の繰り返しになり
やめてしまった

その後は実家の側を散歩したり
現在住んでいる東京の下町をブラブラしてみたり

公園のベンチに座って空を見た

生まれた時からずっと彼女上には空と雲と太陽と月があった

今日見る空と太陽
アフリカで見た太陽も
同じ太陽だった筈なのに
まるで違う

世界中照らしている太陽なのに

同じ物でも何処へ立ってそれを見るか
それによって
全てイメージは変わってしまう

最晩年は流石にカラダは不自由したが
とても楽しい
月が出たら布団を敷いて眠り
太陽が出たら起きる
ただそれだけなのに
幸せを感じる

彼女は思った

もうそろそろ自分の身体も手放そうと

「来月くらいが良いかしら」

丁度1ヶ月後彼女は亡くなった






ほな!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?