ファイナンス(企業財務)の基本⑪:事業価値評価で使う「割引率」について、少し掘り下げてみた
前回は、事業(企業)価値評価で使う「残存価値」をご紹介しました。
今回は、以前から紹介している「割引率」を少し掘り下げて、事業(企業)価値評価で使う「割引率」をご紹介したいと思います。「割引率」は奥が深いので、何回かにわけて書いてきます。
まずは、これまでにご紹介した「割引率」の大まかな概念を振り返ります。
割引率とは?
「割引率」とは、将来手に入るであろうキャッシュを「現在価値」に換算するときに使う、「利子の逆のようなイメージの数値」です。
「割引率」には、下記2つの特徴があります。
将来生み出されるキャッシュフローのリスクが高いと判断すれば、割引率は高めに設定される
リスクとは「将来のキャッシュフローがばらつくこと」
(バラツキの大きさ = リスクの高さ)
ここで、ファイナンスでいう「リスク」という言葉について補足しておくと、
「バラツキの大きさ = リスクの高さ = 不確実性の高さ」となります。
ここで、前回までにご紹介した「事業(企業)価値評価」をする際に、「割引率」は、具体的にどのように考えれば良いのでしょうか?
そこで登場するのが、「資本コスト」という考え方です。
資本コストとは?
原則としては、「その事業のリスクに応じた割引率」を「資本コスト」と呼び、それが「事業(企業)価値評価をする際に使う割引率」です。
では「事業のリスクに応じた割引率」をどのように求めるのでしょうか?
この問に対する、ひとつの有力な考え方として、自社が仮にその事業のみを持つとしたら、債権者および株主(すなわち自社に対する資金提供者)は、自社にどれくらいのリター ンを期待するだろうかという視点から求める方法があります。
これは、「投資家の期待リターンは、投資対象のリスクを反映しているはずだ」という考えを前提としています(詳細は、また後日、書いていきます)。
この考え方自体は、「ハイリスク・ハイリターン」(逆は、「ローリスク・ローリターン」)といい、感覚的にも自然な感じがします。
一般に、企業は債権者・投資家から、借入れ(銀行借入や社債の発行)や株式発行などを行って資金を調達します。
このとき、債権者や株式投資家は、その企業に一定のリターンを期待するからこそ、資金を提供するわけです。
もし、その企業が株主の期待するリターンを満たせないことが続けば、株式を売却されるか、株主総会において経営陣の更迭を要求されることになります。
債権者の期待リター ンを満たせない(決まった利息を支払えない)となれば、借入金が回収されるか、場合によっては破綻処理につながります。
これは、企業を経営する立場からみれば、自分の会社が行う事業や保有する資産から得られるリタ ーンが、債権者・投資家の期待するリターンを上回っているかどうか、常に注意しておく必要があることを意味します。
言い換えれば、資金調達には、満たさなければならない相応の費用がかかっているということができます。その意味で、債権者・投資家の期待するリターンのことを、経営者の視点から「資本コスト」と呼びます
企業にとって資本コストは、自らの事業からこれだけのリターンを得る必要があるという意味で、 ハードル・レートだとも考えられます。
そこで、事業価値評価の際の割引率として資本コストを用いるわけです。
今回は、ここまでにします。
次回、資本コストの中身を、もう少し詳しくみていきます。