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ファイナンス(企業財務)の基本㉓:「企業価値と資本構成」について、まとめてみた その2

前回から「企業価値と資本構成」について書きはじめ、「全体像のご紹介」と、「企業価値(WACCなど)」を振り返っていきました。
今回は、いよいよ「資本構成」について書いてみたいと思います。

まずは、前回のおさらいです。

「企業価値と資本構成」とは(前回のおさらい)

「企業価値と資本構成」では、企業の資本のうち、何%をデットにして、何%をエクイティにすると、企業価値が最適になるのか?(最適資本構成)ということを書いてきます。

また、企業価値は下記の式で表すことができ、WACCによって、企業価値は変わります

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企業価値の算定式

そして、そのWACCは、「資本構成」で変わるため、今回はそのあたりをみていきます。

最適資本構成

WACCの値は、デットとエクイティの比によって変わることを、以前ご紹介しました。(過去記事リンクは下記となります)

それでは、 企業の価値を高めるという観点で「もっとも適切なデットとエクイティの比」はあるのか?ということを考えていきます。

完全市場における資本構成①

まずは、話を単純化するため、下記条件が成り立つ「完全市場」を想定します。

  • 法人税や株式等の取引の費用は存在しない

  • 投資家は皆、企業と同じ金利で借入れをできる

  • 負債利子支払後の利益は、全額株主の配当に充てられる

  • 営業利益と税引前キャッシュフローは同一で、毎年一定(倒産の可能性なし)

  • すべての投資家は、まったく同一の情報を得ている

上条件が成り立つの完全市場下で、U社とL社はまったく同じ資産をもち、同一の事業を営んでいるとします。(細かい話ですが、UとはUnlevered、LとはLeveredです)

U社は全額株主資本で成り立っているのに対し、L社は株式の発行の他、社債も発行しています。

U社は事業活動によって得られた利益を全額株主に配当するのに対し、L社の利益は株主への配当の他、債権者に負債(借入れや社債)に対する利子として使われます。

ただし、法人税が無い(完全市場の条件)ことから、両社の資産は同じ利益、キャッシュフローを生みだすため、債権者と株主を合わせた投資家全体へのキャッシュフローは、両社とも同一となります。

両社は同一の事業を営んでいることから、投資家全体が負うリスクは同じであることも鑑みると、キャッシュフローの現在価値である企業価値は、両社ともに同じと考えられます。

これは、上記で想定した完全市場である限り、L社の株主資本、負債の比率がいかなる場合でも当てはまり、下記のように一般化できます。

完全市場下では、企業価値はその企業の資本構成に影響を受けない

すなわち、企業価値はB/S の左側である資産のうみだすフリー・キャッシュフローによって決められ、右側の負債・資本構成にはよらない、との結論が導かれます。

株主と債権者(銀行など)が、パイをどのように2つに切り分けても、パイのトータル(企業価値)は変化しません。これを「MM(モジリアーニ & ミラー)理論」の第一命題といいます

完全市場における資本構成②

次に、「資本構成が変化することによって、株主資本コストはどのように変化するか」をみていきます。

法人税がない場合、加重平均資本コストrWは、株主資本コストrEと負債コストrDの加重平均で下記のように表せます。

加重平均資本コストrW = (D/(D+E))×rD +  (E/(D+E))×rE

「MM(モジリアーニ & ミラー)理論」の第一命題より、完全市場下でのrW は、負債の有無にかかわらず、資産が生み出すキャッシュフローのリスクに見合った利回り(rA)に等しくなります。
rW =rA として、式を展開すると、次式となります。

rE = rA + (D/E)×(rA - rD)

この式より、株主資本コストは、負債比率 D/Eに比例して増加することがわかります。

これを「MM(モジリアーニ & ミラー)理論」の第二命題といいます。

完全市場下では、株主資本コストは負債比率に比例して増加する

負債の利用によって、株主資本(=株式の期待収益率)のリスクとリターンがともに高まる効果のことを「財務レバレッジ」といいます。

ちょっと長くなりましたので、ここまでのまとめを書いておきます。

ここまでのまとめ

  • 「法人税がない」などの条件を満たす完全市場下では、企業価値はその企業の資本構成に影響を受けない

  • 完全市場下では、株主資本コストは負債比率に比例して増加する

今回は、ここまでにします。
次回、法人税などを考慮したリアルな条件下において、資本構成が企業価値に与える影響をみていきます。


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