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映画 安城家の舞踏会 感想

元ネタが有名な古典なので、ネタバレ含みます。画像はwikiから。

山藍紫姫子の「花夜叉」から歌舞伎「鳴神」に興味がわいて、
映画「歌舞伎十八番 鳴神 美女と怪龍」を見たら思いもかけず今時の邦画より全然面白かったので、
同じ吉村公三郎監督作品「安城家の舞踏会」をレンタル。
そうしたら、一緒にスティーブン・キングとかも含めて10枚くらい借りたけど、ダントツに面白かったんですよ。

チェーホフの「桜の園」が下敷きなので、確かに大筋同じです。
ただ「桜の園」は有名だけど、あらすじ読む限り何が面白いのか、昔からさっぱりわからなかった。たとえ吉田秋生がそのタイトルで漫画を描こうとも。
でもこの映画を見ると何か得も言われぬ言葉にできない引力というか魅力がありました。

大筋は、家を売らねばならなくなった没落華族が、「華族として生きるのはこれで最後」と開いた舞踏会の話。
でもそれが、お開きになるまでに、家族としての面子や体裁が根底から破壊されていく話なんです。

お父様の忠彦は、借金した成金新川を銃で撃ち殺しそうになる。
長男の正彦お坊ちゃまは、遊びで手を出した女中に殺されそうになり、成金新川の娘の強姦をたくらむ。
長女の昭子お嬢様は、今は成功し、成りあがった元運転手の遠山に真剣な告白をされ、動揺し拒絶する。
ふられた遠山は、ショックで飲んだくれながら、安城邸を買い取って新川を追い返し、傷心の中「この家を買い取った」宣言を招待客の前でする。
お父様は、最後に妾だった芸者との結婚をこれまた招待客全員に宣言。客を絶句するが、長男正彦は拍手喝采。

2時間の間にドラマつまりまくりでした。

成金の新川以外はみんな真剣。いや新川もふざけているわけではない、現実的なだけですね。長男の正彦お坊ちゃまはグレ気味で、何か昏い情熱を感じさせる。お坊ちゃまなのに。原節子や映像の美しさもあいまって、最初から最後まで目が離せなかったです。

どこまでチェーホフ作のセリフかわからないんですが、無駄なセリフもない。

色々ありすぎた宴のあと、夜明け前の広間で、拳銃自殺を計るお父様。それをとめた主人公の次女敦子お嬢様(原節子)が、お父様を「踊りましょう」とワルツに誘い、二人で格調高く華麗に踊って終わる。

「桜の園」には踊るラストはどうやらないみたい?ですが、この全部終わった、切羽詰まった、後がなくなった状況で踊る発想。「ええじゃないか」イズムというか。
平凡な発想だと、慰め合ったり細々と違う職に就きました的な展開とかになるところを、華麗に誇り高く終わる。あれだけ色々晒してもう体裁も面子も家も失くして終わったのに。でも踊るしかない。踊ってまた違う明日を生きていけばいいじゃないのというラスト。
この華麗さにやけに心を打たれる。華族だから華麗なのか、でもこの「踊ってしまいましょう」は日本人のDNAのパーツの一つなのか。
破滅の後でタフな生命力を感じさせるラストなのが凄かったんです。

下敷きの「桜の園」が凄いのはやっぱりあるんでしょうけど。
何を描写してるのか、この物語の何に感動したのかを言語化するのって、すごく難しい。でも凄いインパクトで残りました。
脚本の新藤兼人の力もあるんだろうな~。新藤兼人も漁りたくなってきた。

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