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短歌・俳句 literature

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2019年9月の記事一覧

まるめろ主義

まるめろ主義

アストロノート蒟蒻を食う訓練
春雨や都庁の窓は暗すぎる
立子忌のサラダボウルに盛るひかり
声あげて笑ふをんなの春炬燵
豆の色うつすらさせて大福は
つちふるや刺繍のつぼみまたたいて
淡水魚専門店や水温む
たつしえんと鞄を落とすイースター
万愚節おとのおおきな鳩時計
眠かつた世界史(ロマノフ朝の転機)
ナイターのメガホン売りも春の風邪
焼き網の焦げを落としている春夜
まるめろや主義があるんだかないんだ

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真鶴岬/睫毛を伏せる

真鶴岬/睫毛を伏せる

ほっかりと口をひらいてしまったら溢れ出るのは潮水だった

潮水を吐き出し続けながらでもひとは笑っていられるようだ

吊り橋を走って渡る水神のまなこに涙こぼさぬように

おこないのまえにかかっている橋のどちらの岸も見えなくなった

岩礁に近いところは青過ぎてそこから黒が深過ぎる海

誰の声だかもうわからない潮騒が喉の奥からさわぐのだった

ハンカチの青い四角を掌におさめてわらう ことのほかやわく

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2005 夏

2005 夏

言ってみたいすべて言ってみたい特大のグレープフルーツを絞る手つきで

空豆を莢からはずし待てど待てど方舟乗船案内は来ず

サーカスに行きたいこども鳥の名をすべて憶えてしまったこども

湖の深いところに落ちていく夢の内より持ち帰る貝

薄情な手をしていつか銀河から迷い海月を掬っています

『日々短歌』(2005)掲載:ポプラ社web「ポプラビーチ」

空中庭園

空中庭園

薄明の空と海とを切り分ける翼はきっと冷たいだろう

まっしろな飛行機雲の先端の機械が超える黒い森(シュヴァルツヴァルト)

ゆうらりと四月の魚を泳がせて未だ芽吹かぬ空中庭園

なんどきの光によって刻まれる山岳地図の詳しい影は 

風景のいたる所にどうだんはややうつむいてましろき炎

五本目の庭木の下に愛犬の骨を埋めたい空中庭園

イコールも アクサンテギュも使えない我の日記に満ちてゆく蟻

六月六

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