空中庭園
薄明の空と海とを切り分ける翼はきっと冷たいだろう
まっしろな飛行機雲の先端の機械が超える黒い森(シュヴァルツヴァルト)
ゆうらりと四月の魚を泳がせて未だ芽吹かぬ空中庭園
なんどきの光によって刻まれる山岳地図の詳しい影は
風景のいたる所にどうだんはややうつむいてましろき炎
五本目の庭木の下に愛犬の骨を埋めたい空中庭園
イコールも アクサンテギュも使えない我の日記に満ちてゆく蟻
六月六日に雨ざあざあ降ってきて無表情なるコックを描かん
わがこころ静まりかえる窓外の庭の嵐の荒ぶるほどに
木琴を叩くには少しやわらかに過ぎないかこの梅桃はも
歳月を言い換えるのに適当なものさしとして差し出す毬藻
もう誰もうつくしすぎてまっすぐに見つめられない木蓮が咲く
きみが湯をポットに移す瞬間の腋下に薄く垂れてゆく影
動かない星という名の孤独あれ 北極星は暗き道標
『路上』№98(2004)掲載
よろしければサポートお願いします!