見出し画像

ロードキルされたアナグマを食べてみた

 3月の終わり頃、電灯もなく暗いアップダウンの激しい帰り道をカブで走っていた時にアスファルトの上でこいつが横たわっていたのです。

ネコ目イタチ科アナグマ属 ニホンアナグマ (Meles anakuma)
全長64cm 体重6.2kg メス

 これが視界に入った時、カブをUターン、停止させた。暫くまじまじと眺めてこう思った。

「味を知りたい、骨を取り出してみたい」

 どうかしている、野蛮と思う人が多いかもしれないが、動物好きと公言している身としては解剖したり標本の類を作ってみたいという気持ちはある。それに肉も気になる。『かちかち山』狸汁が出てくるが、タヌキとアナグマは狸(タヌキ、マミ)や狢(ムジナ)と呼ばれて古くから混同されていた。「同じ穴の狢」の諺もある。どうも多くの伝聞によるとタヌキ肉は固くて脂が臭くて不味い。一方アナグマ肉は美味いので海外でもハム等にして珍重されているという。興味が湧く

 普通なら保健所に連絡するのが適切な処置だろうが、一旦家に帰ってざっと調べてロードキルされた死骸を持ち帰っても問題ないと確認した後、ビニール袋を持ち出す。袋を三重にしてアナグマを入れて運び実家の裏の日の当たらない所に保管する。一日して袋から取り出す。
 以下、解体から調理、加工まで素人の感覚でやっているので真面目には参考にしないで下さい。

 トロ舟に置く。気温がまだ低い夜だったのでウジは湧いていないが元からいたダニが多い。使い捨てのゴム手袋、レインコートを着けて100均の万能包丁で解体する。本来なら血抜きとかしたり逆さに吊るしてやるべきだっただろうが時間もノウハウもないのでやれるだけやる。
 ネットの見様見真似で毛皮を剥ぐ。皮下脂肪が多く剥ぎ取り辛いし毛皮に脂肪がかなり癒着してしまう。時間が経ち過ぎて固くなっていたのもあるだろうし、万能包丁と自分のスキルの限界を感じる。可能な限り取れそうな胸肉を削ぎ取り、赤裸になった頭部と前肢を切り落とす。
 開腹すると臭いがキツイ。腹腔には黒くジュレ状に固まった血が溜まっている。胃と腸は腐敗ガスで膨れ上がっている。下手に処理をしたら破裂して大惨事なりそうなのでノータッチ。
 毛皮も取って加工してみたかったが、下半身から剥ぐことができなさそう。剥ぐことができたとしても脂肪が付きすぎてちゃんと処理をしなければならない。そもそもよく考えたら毛皮製品をファッションに取り入れたことがない。諦める。

 頭部、前肢、胸肉、心臓を約1.5kg、冷凍して保存する。残骸は実家の畑の空いている場所に埋めて弔う。
 一連の行為は傍から見たら犯罪者臭が凄い。

 一週間後、台所に立つ。春のアナグマ祭り

 どう食べるのが正解なのか。とりあえずドライベルモットとレモン果汁で揉んだ後、包丁で叩いて鍋に入れて割下で煮詰める。衛生、安全を最優先させるのでとにかく火を通す。

アナグマ丼

 実食。やっぱり野性味が強い。乳臭くて筋張っている。しかし明らかに割下のものではない脂身の旨味や甘味が感じられて赤身との境目がトロっとした触感。珍味として中々食える。

アナグマの心臓焼きましたッ
(野田サトル,『ゴールデンカムイ 3巻』,2015,集英社)

 自分の地元ではカツオの心臓カツオのへそと呼んで食べたりするがそれに近い、大きさ含め。肉として固いが歯切れがいい。血の味がするが臭くはない。勃起

『遊星からの物体X』感
煮ること小一時間
アナグマの頭の丸ごと煮
(野田サトル,『ゴールデンカムイ 2巻』,2015,集英社)

 本当どうやって食べていいかわからない。ほとんど顎の筋肉とそれに付随する筋肉なので骨にびっちりへばり付いている。とにかく少しずつ齧り取る。可能なら箸で削り取ったりする。傍から見たらグロテスクなクリーチャーの頭に小一時間ディープキスし続ける気持ち悪い奴である。

タン(普通にタンの味と触感)

 とにかく煮詰めているのと少しずつ食べるしかないので肉なのにツナピコに近いような気がする。

(野田サトル,『ゴールデンカムイ11巻』,2017,集英社)

 環椎を外して空いた孔から箸を突っ込んでをほじくり出して食べる。見た目、味、触感全てが魚の白子に近い。

完食
アナグマの前肢の丸ごと煮

 やってみたくてやったが丸ごと煮たので流石に悪ノリ感が強い。山賊気分で食した。

 ここまで雑に好き勝手やったのでちゃんと料理することを意識する。

 脂身と赤身を分ける。脂身は下味を付けた後、玉ねぎとトマトと一緒に炒めて割下、ケチャップ、バジルで煮込んで一晩寝かせる。


アナグマのハヤシライス

 旨いには旨いが肉のクセがどうしても強い。味が濃くてどうやっても乳臭さが抜けないので沢山食べようとするとクドさを感じてしまう。如何せん珍味。少しずつ消費した方がいいと思い、赤身は干し肉にする。

 割下、ドライベルモット、トニックウォーター、バジルに岩塩を飽和するほど入れた調味液に漬け込む。天日干しで乾燥10時間、冷蔵庫で熟成10時間を2回繰り返してオーブンで加熱する。

アナグマの干し肉ジャーキー

 保存と臭みを消すためと極限まで塩辛くさせたので一欠片で一杯飲める。食べ過ぎたら腎臓と肝臓をぶっ壊す。しかし独特の野性味がアクセントになって方向性としては正解な気がする。

 頭蓋骨は重曹で煮る。ふやけた肉や鼓膜や視神経等を歯ブラシとピンセットで取り除く。頭蓋や鼻腔の中身が取り除けないので一週間ほど水に漬けて腐敗させてみたが、臭いがキツイ。昔懐かしい死んだザリガニの臭いがする。流水で可能な限り洗浄する。

 拾った時は下唇を裂傷している程度で外傷が少ないように見えたが、結構なダメージを受けていた。これはお亡くなりになる。下顎はプラモデルの様にパチリとはまる。生き物ってよくできている。後でもう少し洗浄する。

 とりあえずは満足だ。自分の中では凄く意義のあることをした気がする。
 しかし場所を貸してくれと言ったら親は怪訝な顔をしたし、写真を見せた先輩らはエイプリルフールの嘘だと思って笑った後、ドン引いていた。これを読んだそこそこの割合の人も同じような感じかもしれない。衛生面とかそういうのもあるだろうけど。

 じゃあ私が落ちていた死骸を解体して食べたことで感じた意義については…次回


この記事が参加している募集

やってみた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?