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@cosme TOKYOという「メディア」の本質

1月10日、原宿駅目の前のGAP跡地に@cosme TOKTOがオープンした。店舗はその名の通り、@cosmeが運営している。

遅まきながら先日店舗に足を運んだところ、『これこそがまさにメディアとしての店舗である』と感銘を受けたのでそのポイントについて整理しておきたい。

「とりあえずここに行けばいい」という第一想起としての店舗

@cosme TOKYOの売りは、通称「デパコス」「ドラコス」と呼ばれる高級ライン・カジュアルラインが一気に購入できる点だ。

百貨店のコスメフロアでしか取り扱いのないデパコスと、ドラッグストアで気軽に購入できるドラコス。
デパコスの価格帯は3000〜1万円、ドラコスは500〜3000円と桁がひとつ変わるほどの違いがある。

美容雑誌ではこの2つを区別せずに「ファンでの中で1位はこれ」「コスパで選ぶならこれ」といった打ち出しをすることもあるが、売り場は明確に分けられてきた。

しかし一般的にどちらかだけで揃える人は少なく、ほとんどの女性が2種類の売り場を使い分けているのが実情だ。
特に最近は美容ブームによって女子高生向けの雑誌でもシャネルのリップやMACのシャドウが紹介されることもある。
リップや単品のシャドウであれば3000円前後であり、女子高生でも背伸びをすれば、もしくは洋服を1枚諦めれば、十分手の届く価格帯だからだ。

しかしデパコスとドラコスが分かれている以上、店舗に行く際はそもそもどちらで買い物するかを決める必要がある。

女性たちはコスメを買おう/見に行こうと思ったとき、無意識のうちでデパコスかドラコスかを選び、その中でブランドやアイテムを絞り込んでいるのだ。

一方、すべてデパコスで揃えられるほどお金が潤沢にあるのはほんの一握りで、大抵の人はコスパをみながらドラコスも活用している。

つまりどちらか一方を見ただけで決められる人は意外と少なく、『今度あっちも見てみて考えよう』と保留にする人も多いはずだ。

実際、@cosme TOKYOに関する口コミをみているとこの2つが一気に見比べられることへの感動の声が多い。

そしてこれこそが@cosme TOKYOがメディアである理由だと私は考えている。

コスメがほしいと思ったら、とりあえずここに行けば一通り見られるという網羅性。実はこれがメディアとしての店舗にもっとも必要とされる要素なのではないかと思うのだ。

もちろん店内には@cosmeならではのランキングもあり、それもひとつのメディアとして機能している。
しかし若年層のほとんどは事前にインスタやYoutubeでお目当てのアイテムをチェックしており、ランキングの棚から新たな情報を得ようとする人はそう多くないはずだ。
私が訪れた際も、棚をじっくり見ているのは年上の層がメインで、若者たちは各ブランドをじっくりと眺めていた。

情報はいくらでもオンラインに溢れているため、メディアとしての店舗に求められるのはその情報を深める/確かめる役割なのだ。

おそらく想定される@cosme STOREの使い方は以下のような流れなのではないかと思う。

①SNSで情報収集
②収集した情報の中からリストアップ
③リストをもとに@cosme STOREで実物を探す
④実物を確かめた上で購入or保留

これとは別に下記のパターンもありえる。

①ふらりと来店
②ブランドやアイテムを見て周り、気になったものをメモ
③あとからSNSや@cosmeで評判をチェック
④再来店orEC購入or別店舗で購入

この2パターンは両方とも間にオンラインでの行動を挟んでいる。
もちろんその場で見つけてその場で買うケースがないとは言えないが、買う前にその場で口コミをチェックする人が多いはずである。

化粧品は洋服と違って自分に合うかどうかが判断しづらく、特にスキンケアやベースメイクは成分なども含め本当にいいものかどうかを判断したいという欲求が強くなりやすいからだ。

また各社ともにスキンケアからメイクアップまでフルラインナップを揃えているため、例えばファンデーションひとつとっても1店舗の中だけで数十種類の中から選び取らなければならない。

だからこそ絞り込みはオンラインで行い、目星をつけた上で店舗に行く、もしくは店舗で見つけたものを自分の中のリストにいれておいて後日比較する、といった行動が起きやすい。

こうした行動の変化はコスメだけでなく洋服にも起きている。

ユニクロやGUが根強い人気を誇っているのはその値頃感や商品の品質もさることながら、SNSで見た商品を実店舗にチェックしに行き、比較検討するのが容易だからではないかと私は考えている。
商品数がもともと絞られている上にひとつあたりの在庫数が多いため在庫切れになっていることも少ない。
しかもユニクロやGUは店舗数が多いため、ちょっと空いた時間に立ち寄るのも容易である。

こうしたことを鑑みると、メディアとしての店舗の役割はオンラインで見つけたものを確認しやすくすることとも言えるのではないだろうか。
@cosme STOREの場合は、それをデパコスとドラコスの統合によって成し遂げた点が女性たちの心を掴んでいるのだと思う。

しかも確認の場である実店舗はそのまま購入にもつながりやすいため、その場でモノも売れる。これが@cosme STOREの強みである。

@cosme TOKYOが百貨店と競合しない理由

しかし、@cosme TOKYOにはなぜデパコスが出店できたのだろうか。
それは@cosmeがどちらも横断的に扱っている口コミサイトだからという理由だけではなく、最終的に百貨店フロアに送客する装置として@cosme STOREを活用したいデパコスブランド側の思惑が感じられる。

店内のデパコスエリアには百貨店フロアと同じように座ってカウンセリングやメイクアップを受けられるカウンターがいくつか設置されている。
しかしそれらはブランド横断で使用する前提で作られており、美容部員もブランド専属ではない。

また通路の途中にあるため落ち着く空間とは言い難く、私が店舗を訪れた際も店内自体は混み合っていたにも関わらずカウンターに座っている人はほとんどいなかった。

友人に感想を聞いてみた際も、「せっかくデパコスを買うならやっぱり百貨店のカウンターでちゃんと相談して買いたい」という返答だった。

ではなぜデパコスブランドが出店したかというと、逆に百貨店フロアでは来店客がひとりでゆっくり見ることができないからではないかと思う。

百貨店のコスメフロアには常に美容部員が待機しており、少しでも足を止めると「お試しだけでもしていきませんか?」「肌診断もできます」といった声をかけられる。

もちろん購入をある程度決めている場合はありがたいが、単に見比べたいだけだったり、商品の雰囲気を確かめたいだけだったりする場合にはなかなかゆっくり見られず、結果的に販売機会を逸してしまうこともある。

だからこそデパコスブランドにとっては、@cosme STOREで商品を自由にさわって/見てもらい、その結果的として購入意欲の高い顧客がコスメカウンターに訪れてもらうことが出店の目的なのではないかと思う。

これもコスメだけではなくファッションやインテリアなど他の分野でも言えることで、高い商品はフル接客がセットになっているからこそハードルを高め、結果的に販売につながらない場合があるはずだ。

商品やブランドのよさを理解し、より深い体験をしてもらうには、まず「浅い興味」を持ってもらわなければはじまらない。
小売店の存在意義は、そうした顧客のブランドへの誘導にあるはずなのだ。

テクノロジーさえあれば店舗がメディア化するわけではない

今回私が店舗に行って一番感じたのは、@cosme STOREには大仰なテクノロジーは(表向きには)使われていない点だ。

こうした新店舗には今流行りのテクノロジーが使われ、それがひとつの目玉になることも多いが、入店から購入までの体験は通常の店舗とまったく同じだった。

それでもいち消費者としてこの店舗が新しいと感じたのは、前述のとおり「メディア」として機能しているからである。

以前ダグ・スティーブンスは「顧客はテクノロジーを体験したいのではない。その店舗、そのブランドを体験したいのだ」と話していた。

まさに@cosme STOREはテクノロジーではなくお店の仕組み、機能自体を変化させたことで顧客体験を一新した例だと私は思う。

もちろんテクノロジーを活用すること自体は悪いことではない。
しかし最新のテクノロジーを導入したことで安心してしまい、顧客体験自体を構築することを忘れ、結果として何ら新しい体験を提供できていない店舗が存在するのも事実である。

テクノロジーはあくまで全体の体験を補助する役割でしかないのだ。

これから店舗がメディア化していくことは確実だ。
だからこそテクノロジーや最新情報に惑わされず、何が本質的に顧客に求められる価値なのかを考え続けることが成功の鍵なのではないだろうか。

(カバー画像出典:@cosme STORE公式HP

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