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"D2C"がダイレクトに届けているもの

この1、2年でD2Cという言葉が急激に広がり、注目されるようになってきた。

と同時に、D2Cの定義に関する議論も増えてきている。

もともとは中間マージンをなくし、メーカーから顧客に直接商品を届ける『ダイレクト・トゥ・コンシューマー』がD2Cの語源だが、プレイヤーたちの規模が大きくなるにつれて小売店への出店や卸を行うブランドも増えてきた。

EC専売だったブランドが小売店に出店したり卸に展開するのは成長戦略としては当然のことで、どの国もEC化率が10%前後に止まっている以上、事業規模を大きくしようと思ったらリアルに進出するしかない。そして百貨店や商業施設にはすでにトラフィックがある上に什器なども揃っているためポップアップストアも開催しやすい。

日本の場合はD2Cブームの前からSPA(製造小売)が台頭していたが、ユニクロにせよ無印良品にせよ商業施設への出店が多いことを考えれば、規模を拡大する上で完全にダイレクトでやることは限界があるということがわかる。

しかし、本来中間マージンをなくすことでいいものを安く顧客に届けるのがD2Cの革新的なポイントだ。誕生当時は言葉通りダイレクトに商品を販売していたブランドが小売店への出店や卸売をはじめた場合、それはD2Cと呼び続けてよいのだろうか、という疑問が湧き上がる。

一方で、直接販売ではないチャネルができた瞬間に従来のブランドと分けて表現する新しい呼び名がないこともD2Cの呼称を複雑にしている原因ではないだろうか。

例えば海外メディアでは最近、ユニコーンかそれに近いD2Cのビッグブランドたちを『デジタル・ネイティブ・ブランド』と表現するメディアが増えてきている。D2Cというビジネスモデルの問題のみに矮小化せず、顧客との関係性やブランディングの面で従来とは異なるアプローチをとるブランドをまとめて『デジタル・ネイティブ・ブランド』と定義しているのだ。

では、『デジタル・ネイティブ・ブランド』はこれまでのブランドと何が異なるのか。

私は、その鍵は『顧客とダイレクトにつながっているか』にあるように感じている。

それは単にSNSを活用しているとか、自前の店舗を持っているといったことではなく、顧客と相互にやりとりをしているか、相対的ではなく絶対的な基準で選ばれているかにあるのではないかと思う。

言い換えれば、思想の一方的な押し付けではなく、顧客とのコミュニケーションの中で商品を開発したりキャンペーンを実施したりしているか?ということだ。

海外にはこうした相互コミュニケーションがうまいブランドが多く、Instagramでタグ付けすれば即座にDMが返ってくるし、ユーザーの投稿をストーリーズで紹介する施策も当たり前のように取り入れている。

これまではメディアを通して自分たちの言いたいことを一方的に伝えるしかなかったのが、現代はSNSによってダイレクトに顧客とやりとりできるようになった。

そうした時代の変化をうまく読みとき、顧客と直接関係性を築いているブランドこそが現代的な『デジタル・ネイティブ・ブランド』といえるのではないかと思う。

さらにこうしたベースがあった上でモノを作って販売するとしたら顧客にダイレクトに届けるブランドが多いため、ビジネスモデルとして『D2C』にカテゴライズされることが多いというだけなのではないだろうか。

D2Cというビジネスモデル自体が注目されるようになったことで顧客に直接商品を届けることが善だとされがちな時代だが、重要なのは顧客にとって最高の体験を作ることであり、商品をどう届けるかはそのための手法のひとつでしかない。

ただ、自分たちの考え方や美意識を自分たち自身の言葉で伝え、顧客と直接関係を作ることは、これからどのブランドにも求められていく要素なのではないかと私は考えている。

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