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キミは何故会社を辞めたのか?#5「アウトレイジA社編」

転職は人生の大きな転機となりますが、自分を振り返る好機でもあります。

今回はA社編です。これまでの会社は何やかんや言っても、何かしらちゃんとした仕事をしてきたつもりですが、ここでは誇れる仕事がほとんどありません。全く何も出来ずにお客様にも迷惑をかけてしまいましたので、本当に申し訳なく思っています。
実態はそんな感じなのに、公式プロフィールでは偉そうな雰囲気を醸し出しています。ありのままを話すのはかなり恥ずかしいのですが、これで笑ってもらえたり、何かの参考にしてもらえたりするなら、しくじり先生として本望でございます。


入社翌日に買収?

A社入社初日は本社での研修で始まりました。世界各地から新入社員が集まってきてガイダンスを受けております。朝から晩までかなり専門的な内容がレクチャーされますが、ほぼ理解できず、白目になりそうなところを必死に我慢しておりました。(お約束のパターンです)
翌日、個別ミーティングをしていたら、突然上司のBが入ってきて、
「ちょっと散歩しよう。」
と私を連れ出します。
「こういうのなんか昔読んだことあるぞ、そうそう、スティーブジョブズがよくやる、人を散歩に連れ出すやつだろう、、、俺もいっぱしのアメリカのスタートアップな人になったやないか。」
と、少し喜んでいましたが、昨日居眠りしてたのがバレてクビ?という不安も脳裏をよぎります。
外のベンチに座り、Bが私に言いました。
「実はF社がA社を買収するという話があるんだ。」と。
「え、それは何%位の確率なの?」
と聞くと
「99%。」と答えが返ってきました。
「おいおい、それってほぼディールダンな状態じゃないですか。入ったばかりで買収されるなんて、なんかD社でもそんなことあったよ。マジか!」
と思っておりましたが、Bは
「で、どうする?」
と聞いてきます。
ここで「どうするか考える」とか、イケてない返答をしても仕方がないので、
「Bがやるなら、俺もやる!」
と一瞬にして素敵な回答を考え付き、謎のドヤ顔で言っときました。

その後、落ち着いて考えて
「自分のストックオプションはどうなるんだっけ?」問題に気付いたのですが、ちゃんと買収前のValuationで付与されるということを確認し胸を撫で下ろします。
一方、「君は3年いたらこんだけもらえるよ」という金額がほぼ確定してしまい、なんのゲーム性もなくなってしまいました。ストックオプションなんてモノはいくらになるかわからないから面白いのであって、最初からいくらになりますなんて言われてしまうと、ギャンブルで味わうあの高揚感とか全くなくなってつまらないのです。

F社は「流石にもうないやろ」というくらい昔に流行った会社だったんですが、何と日本法人も存在していました。A社の業態とはかなり違う分野なので、いきなり吸収されるという事にはならなかったのですが、日本法人に関しては、まだA社日本法人が設立されていなかった為、F社日本法人の中の一部門となります。A社日本法人代表の名刺を作っていたのに、いきなりお蔵入りです。F社日本法人にも代表が既にいたのですが、本社の指示で私もF社日本法人の代表となり、登記上は二人代表体制となりました。何だか最初からややこしい話です。

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採用してすぐクビ?

最初の半年のミッションはオフィスを構えたりチームを作る事です。
F社には日本のパートナーと合弁で作ったG社という関係会社がもう一つ東京にあり、私の担当するビジネスはG社の方に業態が近かった為、F社日本法人ではなくG社のオフィスを間借りする事になります。
ゴタゴタしつつも盛大なローンチイベント(担当N)を実施するなど、いろいろな仕掛けでローンチ早々、大手放送局や、大手メディアから契約が貰えました。仕事そのものは、少しずつ立ち上がってきたのですが、少しずつ暗雲も垂れ込めてきます。

まず「一緒にやる」と信頼していた上司のBがあっと言う間に辞めちゃいます。
またF本社が合併前のA社の全世界の顧客向け請求書を発行するとかいいつつ、全くオペレーションがまわらず、未収金が何百万ドルも積み上がるということが起こっていました。困り果ててF本社の経理担当にメールしても一切返事は返ってこないし、電話しても留守電で、もちろん折り返し電話は永久にありません。「どんだけ末期的なお役所仕事しとんねん」と切れても無駄です。

PMI(買収後の統合プロセス)に苦しめられつつも、何とか5人のメンバーが揃ってやっと最初のミッションが完遂できた2ヶ月後、一本の電話が掛かってきました。
珍しく神妙な口ぶりでBの後釜の上司が
「F本社からのオーダーで今から気まずいことを伝える。」
と前置きしてきます。

「リストラしてくれ。」
「え、なんて言ったの?リストラってこの前やっと採用ができたばっかりなんだけど、、」
「いやそれはわかっているんだけど、ダウンサイズしろとの命令なんだよ。」
「え、ダウンサイズって何人にしろって?」
「5人を2人に」
「おいおい、3人クビにするということ?」
「そうだ。」
「いや、それでそのクビにされる人の中に俺は含まれるのか?」
「いや、Qzは含まない。」
「それじゃ自分以外に1人しか残せないじゃないか?自分もクビならまだわかるが、自分は残るとかどの面下げて言うんだよ?」
「とにかくそういうことだ。」
「どういうことか全くわからんので、はいそうですかとは言えないな。」
という返事で電話を切りました。

その夜、同級生のY弁護士に相談をします。
「こんな事になったんだが、どうしたらこの事態を避けることができる?」
という質問に対してYは
「そんなロクでもない会社辞めたら?」
Yは普段はしっかりアドバイスしてくれるんだが、時々あっさり身も蓋もないことを言ってくる。
「いや、俺は世間にこういうことをやるとコミットしたんで、ここで辞めるという選択肢はない!」
となぜかYに向かってムキになっていました。

更に2週間ほど経過して、今度はF社グローバル人事と打ち合わせが入ります。本社の人事担当者は
「とりあえずリストラする3人を選べ。」
と言ってきますが、
私の方は
「今リストラすると日本での評判が地に落ちてしまい、乗り越えたとしても回復させて成長曲線に再度持っていくのに数年ロスしてしまう。それにどういうビジョンでこういうことをするのかそれを教えてもらえないとできませんね。」
と抵抗し続けました。
しかし、あまりにも人事担当者がしつこいので、最後には


”If I can’t follow your order, tell me what will happen to me!”
(あんたらの指図に従わなかったら、俺にどういうことが起こるか言ってみろ!)

とアウトレイジな啖呵を切るはめに陥ります。

プレジデントと決裂

その後しばらくの間こちらの協力者を見つけて何とか部下のクビを回避しようとしますが、大元で指示を出したA社プレジデントのXと話ができないので、埒ががあきません。
2ヶ月後、とうとうA社本社への出張が入ります。プレジデントのXと1対1で話をする場がやってきます。
開口一番Xから
「儲かってないのでみんな辞めたがってるだろ?だから別に構わないんじゃないか?」
と言われます。
「スタートアップの苦しい時期に仲間を鼓舞しながら乗り切るのがリーダーの仕事じゃないのか?俺はそのつもりでやっているのに、何て事を言うんだこの男は!」
と心中呆れつつ、
「では将来のビジョンはどうなってるんだ?」
と質問したところ
「明日のことは誰もわからないよ。」

怒りに打ち震え、絶句してしまいました。汚い言葉で罵るのを1mmだけ残っていた理性で何とか我慢して席を立ちました。

Xの部屋を出て直ぐ、一緒に出張してきていた部下のKに
「辞めるぞ!」
と言い放ったのです。

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辞めるに辞められず

Kと2人で辞めるつもりでしたが、他の3人をそのまま残していく訳にはいきません。リストラされないようにF社の他の組織に異動させる等の根回しをしておりました。同時にせっかく種まきしたビジネスを残す為に、Fの本社ファイナンス幹部と話をしておりました。うちのチームをG社に吸収させるのがコスト効率もよくシナジーも発揮するという提案です。但し実際に吸収された場合には、明らかにポジションを失う者がいます、それは私です。まぁ辞めるつもりだったからいいですが、、、

粛々とその計画を進めながら私も転職活動をしておりました。あるベンチャーの日本法人代表ポジションです。その最終面接でまたアメリカに飛ぶ事になります。いつもの弾丸面接ツアーです。しかし今回は私以外にも最終候補者がいました。まさか負けるとは思っていなかったのですが、私はボーンヘッドをやらかします。
午前中の連続面接を切り抜け、日本担当役員とのランチで、雑談で盛り上がり少しリラックスしておりました。最後に彼から
「昨晩のディナーで一緒だった同僚のZは優秀なんだけど、あまり周りの意見を聞かず独断タイプなんだ、、、、、君はどういうタイプ?」
とさりげなく聞かれたのです。
完全に油断していた私は
「割とそういうタイプかも。」
と答えたんですが、、、その後相手の表情が曇ったのです。
午後の面接を受けながらもあの回答はよくなかったと気づくのですが、まさに後の祭りです。長い連続面接が終了し、最後彼が見送ってくれたのですが、かなり冷たい感じになっていました。そもそもそういうタイプだから落ちて当然だったのかもしれませんが、転職することもかなわなくなったのです。

なぜかG社に

Xと決裂後完全にやる気を喪失していたのですが、そうこうするうちにG社のNo.2が辞める事になりました。あまり気が進まなかったのですが、直近他の選択肢もなく、少しお手伝いしてもいいかなという気持ちもあったので、そのままG社の再編プロセスにどっぷり足を踏み入れる事になりました。しかし吸収される立場だったにもかかわらず、やはりいつも通り下手に出ることができません。
F本社の管理体制の緩さもあり、組織としては吸収されるのに、私のチームのP/Lポジションは別系統で残されておりました。それに乗じて自分の経費精算も別系統でG社の代表ではなくF社の上司にできる状態をキープしていました。見かけ上は上司のG社の代表がプレミアムエコノミーで出張する時も自分はビジネスクラスで行っておりました。G社の代表からすると経費精算もしてこないし、直接評価査定もできない私はコントロール不能な厄介な存在だったと思います。表面上は仲良くしてましたが、こんなやり方では信頼関係を築くことはできませんし、ろくな仕事もできません。
結局F本社自体もさらに巨大な企業に買収される事になり、そこでとうとう辞めることを決心したのです。

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どうするべきだったか?

本当にロクでもない話で恥ずかしいですし、時間の無駄でした。何も残らなかったし、これはいらない経験だったかもしれません。自分なりに途中までは精一杯やったんですが、Xと決裂した瞬間から風船の糸は切れてしまったのです。
そのまま辞めれず、安易にG社のNo.2のポジションを選択したのも問題ですが、1番の問題はそこでベストを尽くさなかったことです。それが一番恥ずかしいし、後悔しています。あそこでベストを尽くしていればこんな嫌な気持ちにならなかったでしょう。本当にいい仕事をするには、No.2として協力する姿勢、横向きではなく前向きにやる姿勢が必要だったのだろうと思います。たとえそうしたとしてもビジネスは上手くいかなかったかもしれませんが、自分に恥じることだけはなかったと思います。本当に私にとって苦い思い出です。

X再び

P.S. クビの指令を出していたXはその後すぐにパタニティリーブ(育児休暇)を6週間もとり復帰したと思ったらF社とのロックアップ条項が切れたのかあっさり辞めていきました。みんなで呆れていたのですが、その数年後今度は私が落とされたあのスタートアップの雇われCEOとなるのです、そして就任翌月には、早速大規模なリストラをしていました。あの時落ちていなかったらXに2度煮湯を飲まされるところでした。あれは落ちてよかったんだなと今では変に納得しています。


次回フィナーレのキミは何故会社を辞めたのか?#6「総合商社C社編」こちらになります。

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