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湖の価値を伝え、日本に本物のレイクリゾートを。「湖畔の時間」から広がる白樺湖の地域開発

2021年7月以降、quodはもともと目指していた「地方の在り方」「地域への関わり方」に対して気持ちを新たにし、チームとして一歩踏み込んだプロジェクトを進めている。

quodが拠点とするのは、福岡県糸島市、富山県西部地区、長野県茅野市・立科町の3つの地域。具体的にどのような取り組みをしているのか、地域ごとに深く関わるメンバーに話を聞き、進めているプロジェクトを深堀りしていく。

長野県では、茅野市・立科町にまたがる白樺湖を中心とした高原レイクリゾート構想を進めている。目に見えて盛り上がったイベント「湖畔の時間」の裏で、実はquodがやっている仕事は多岐に渡る。地道な関係構築力を武器に、コツコツと進めているquodならではの地域づくりの例として、白樺湖エリアでの取り組みを聞いた。

「日本にも本物のレイクリゾートをつくりたい」

プロジェクトのはじまりは、今からおよそ8年前。飯塚の大学の先輩であった、現・池の平ホテル&リゾーツ代表取締役社長・矢島さんら数人の経営者たちと、フランス、ドイツ、イタリア、スイスと4カ国を巡るヨーロッパ視察ツアーを行った。その中で訪れたスイスの山岳リゾート・ツェルマットが、白樺湖でのプロジェクトの原点となった。

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(スイス・ツェルマットの風景)

飯塚「ツェルマットの人たちは本当の豊かさを知っているように見えて、リゾートの在り方を考えさせられた滞在だった。日本にもこういう本物の高原レイクリゾートをつくりたいんだよね、という矢島さんの話に僕が共鳴して、その数年後に僕はquodという会社を立ち上げて、改めてあのときの話を実現しようと取り組みがスタートしました」

それから日本のリゾートを見て回ったり、北欧のデンマークやフィンランドに行き湖の周りを視察したりする中で、“家族や友人との居心地の良い時間や空間”という意味をもつHygge(ヒュッゲ)という北欧の言葉に出会う。白樺湖をこうしていきたいという方向性の輪郭が、この言葉をきっかけに少しずつはっきりしてきた。

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(quodの社員旅行として訪れた北欧視察)

そして、矢島社長の自筆メッセージの公開と共にプロジェクトがスタート。2018年頃からquodとしてチーム化し、湖の価値を伝える言語化やコンセプト図への落とし込み、海外レイクリゾートや日本の水辺の分析などを水面下で進めてきた。

構想や言語化には惜しまず時間をかけた。目指したいものも固まってきた2020年、まずは自分たちが考えているこのコンセプトやビジョンを地域内外に示してみよう、ということに。この世界観は世の中に受け入れてもらえるのか? を確かめるために、まずは手弁当でイベントを開催することにした。

イベント「湖畔の時間」の開催で流れが変わる

イベント会社というわけではないquodだったが、手探りながらもたくさんの人の力を借りて形にし、それが予想以上の反響を得たのが2020年秋のこと。「東京や他の地域からお金を払って白樺湖に来てくれる人がこんなにいるんだ」とチーム一同驚き、自分たちの目指していた方向性が間違っていなかったことを確信した。同時に、イベント前と後では、地域内の流れが大きく変わったことも実感した。

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(2020年秋に行ったイベント「湖畔の時間」は大盛況だった)

飯塚「初回は地域内の有志だけで小さく開催したけど、地域の人たちから『なんで最初から巻き込んでくれないんだ』と怒られたんです。怒られながらもチャンスだと思いました。それから、白樺湖観光まちづくり協議会、信州たてしな観光協会、といった地元の公的な団体が主催となってくれる形になり、2年目からは地域が主語のイベントへとアップデートできたと思います」

イベントという形を取ることで、実際に足を運んで湖畔で思い思いの時間を過ごしてもらい、湖畔の心地よさやそこで過ごすことの価値を体感してもらうのがねらいだった。白樺湖にとって一番の閑散期である11月に行うことで、観光で成り立つこの地域に多くのお客さんを呼ぶことができ、地域の人たちにも喜んでもらえる結果に。

1回目のイベントの前には知りもしなかった人たちが、成功を見て向こうから声をかけてきてくれることも増えた。地域内での輪が広がっていくにつれて、新たな動きができるようにもなってきた。quodは「湖畔の時間」を単発のイベントというより、エリア全体の長期的な開発計画の中で、コミュニケーションツールのようなものとして捉えている。イベント開催に至るまでの経緯はアフタートークでも語っている。

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「レイクリゾートによる観光地の再生」を目指す事例として観光庁補助事業に採択

そして2回目の開催となった「湖畔の時間2021」では、観光庁の補助事業に採択されたことが大きなパワーになった。既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業というもので、地域として短期間で面的な再生を行うための再生計画を作成し、それに基づき全国約100カ所が選ばれ、短期集中でサポートを受けられるというもの。新しいレイクリゾートを作っていく白樺湖の構想が「レイクリゾートによる観光地の再生」を目指す事例として認められ、「湖畔の時間2021」もその再生計画のひとつの実証実験としてサポートを得ながら開催することが可能になった。

quodはその再生計画の企画立案を担当した。こういった取り組みは、仮に補助事業に採択されなかったとしても、地域としてのビジョンの見える化の役割を果たすとともに、地域開発における戦略となるという地元の方々からの評価をいただいた。また、実際に補助事業に採択されたことで、地域がやりたいことを実現するためのファイナンスを提供できた。

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飯塚「今回の補助金は茅野市のDMOから申請したので、quodとして茅野市が考える地域構想と白樺湖のレイクリゾートとしてのビジョンを接合していくような動きをやってきました。茅野市が白樺湖のレイクリゾート構想を地域づくりの核のひとつに据えてくれ、より大きな地域単位での動きができるようになりました」

補助金の主な用途は、バブル期の名残として地域に残る廃屋の撤去を中心としたハードの整備とそれに付随するソフトな取り組み。コンセプトやビジョンといったソフト面を掲げるだけでなく、ハード面も変えていける手立てを用意することで、多面的でスピーディーな地域開発をサポートしている。

quodがこの1年やってきたことを大きく分けると、この補助事業に関連する再生計画の立案や地域内のコーディネート、イベント「湖畔の時間」の企画、湖畔の利活用に関わる許認可や規制緩和の交渉、の3つ。補助事業に採択されたことで地域内で関わってくれる人が増えた手応えを感じ、会話すべきだった人やしかるべき責任者と話ができるようになった。これにより、「湖畔の時間2021」も初回以上にたくさんの人たちを巻き込み、レイクリゾート構想を前に進めてくることができた。

飯塚「許認可や規制の部分は、表には出ないけれど重要なところです。たとえば『湖畔の時間』でサウナ上がりのお客さんが湖へ入水することは、昨年までは規制により禁止されていました。しかし今年は、あらかじめ指定した時間・場所限定で許可してもらうことができたんです。丁寧なコミュニケーションを心がけてきちんとルールを決めることで、白樺湖をもっと楽しんでもらえるようにしていきたいと思っています」

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(2020年はサウナの横に水風呂を設置したが、2021年から湖への入水が許可された)

これは地域の人たちの理解と協力がなければ実現しなかったこと。補助事業の獲得も後押しとなり、今年はさらにパワーアップしたコンテンツを提供することができた。まだまだ白樺湖でやりたいことはたくさんある。そのために立ちはだかるさまざまな制約を、時間をかけて地域と対話しながらクリアしていくのもquodの役目だ。

「白樺湖」という湖だからこそできること

日本にはたくさんの湖がある中で、「白樺湖」ならではの特長も見えてきている。元は個人的な繋がりから接点をもったこの地域だが、結果的には「ここだからできた」ということも多い。

飯塚「白樺湖は"規模感がちょうどいい”んです。これは湖自体の大きさという意味もあるし、地域開発をしていく上での規模感の話でもあります。まず単純に、湖のサイズがけっこう小さい。だから開放感と包まれ感のバランスがちょうどよく、涼しくて爽やかな高原地帯ということも相まって、矢島さんと一緒に描く”レイクリゾート”というものが作りやすいんじゃないかと思っています。

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そして関わるステークホルダーの数という意味でも、人数が多すぎないのでスピーディーに話を進めていけます。白樺湖はもともと農業用の溜池なので、『財産区』という特別な行政団体が湖自体の所有権を持ち、周辺の土地も4〜5つ程度の事業者によって管理されています。白樺湖で何かしていきたい、となったときに話をすべき人たちが見えているので、『湖畔の時間』のようなイベントも実現できたと思います」

地域に暮らす人のほとんどが観光事業者か農家(地主)であることで、しっかりとした話し合いを進めていけば地域として目指すベクトルが揃いやすい。みんなが同じ未来を見て進んでいけるという点で、スモールモデルを早く作れるのではという可能性も感じている。

人間と人間の関係構築からはじめる白樺湖での地域づくり

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白樺湖での取り組みは、表に見えるイベントなどを見ると「地域PR」とも捉えられかねないが、このようにquodでは上流から設計したものを人々に届けるまでの活動を地域に入り込み一貫して行っている。具体的なアクションを起こすために、ファイナンス面の基盤づくりも担う。

それができる大きな理由のひとつは、アクションの裏に時間をかけた構想やビジョンがしっかりと流れていること。プロジェクトのはじまり自体が8年前だが、それからさらに3年かけて地域に通いプランニングに費やした。地域全体として目指したい姿や進みたい方向性を地道に示し続け、それを落とし込む形でPRへと結びつける。

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地方での仕事は、都市のように「この人はこんなスキルがあって貢献してくれそうだ」からは始まらない。まずは「お前のことを信頼するかしないか」で判断されることが多いこそ、顔を見せて一緒に汗をかき、体感として信頼できると思ってもらえるように努めてきた。quodという会社の者というよりも、ひとりの人間としてまずは地域に入り込む。時間はかかるがそうするうちに話ができる人が増え、一緒に地域のことを考えていける関係性が築けてくる。

飯塚「もう何年も白樺湖に通っているけど、行くたびにこの土地のことがよくわかるし、同時にまだ全然わかっていないなとも思うんです。違う人の視点を通して地域を見ると新しい見方ができて、通えば通うほどこの土地への理解が進みます。最近知ったのが、白樺湖を囲む八ヶ岳エリア全体は、5000年前に日本で一番人口が多い地域だったということ。やはり人が住みやすい環境なのだなと納得しました。関係者が増えていくことで、そうやって聴ける話に深みが出ていくと、より多面的に地域を見て考えられるようになってきます。それをプロジェクトに落とし込みながらコンセプトデザインをしていくこともquodが担える役割だと感じています」

じっくり時間をかけて、たくさんの人の力を借りながら進めていく、quodの地域づくり。まだまだやれることが盛りだくさんの白樺湖エリアでは、地域事業者を巻き込んだ新しい取り組みも始まっています!

これからの動きにもご注目ください。


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