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超短編小説「灯」

あれも捨てた。あれも、あれも。
運が良くなると聞いたから。
あれもあれもあれもあれも。

本当に欲しくて持っていたものなど
何ひとつなかったことに驚いた。

古いアパートの二階の小さな部屋が
広くなった。
自分のために、素敵な間接照明がほしいと
思った。
休日のたびに買いに出かけた。
一つ二つ三つ四つ…
部屋が灯でいっぱいになった。


ある夕暮れ、窓の外で灯がともった。
カーテンを捨てたばかりだった。
こんなところに街灯があっただろうかと、
部屋いっぱいの自分の灯をよけながら窓に近づき外をみた。
黒い服を着た大柄な男が街灯の横に立って、
こちらを見上げている。
窓を開けると
「ここがいつも最後なのですよ」
と男がやさしく言った。
自分の灯が一つ増えたようでうれしくなった。
近くでお礼を言いたいと思い、急いで玄関を出て男を探した。

…黒服の男どころか、街灯さえなかった。
裸足が、冷たかった。

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