きよか

奇譚、幻想譚、大人のおとぎ話を 超短編小説で静かにお届けします。

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最近の記事

砂漠

気に入った場所で仰向けになった。 夕空に星が見え始めていた。 ビールが飲みたいと思ったが、 それは一瞬で消えた。 私は目を閉じた。 ただ漠と積み重なった、 私の生まれる前からの色々と 私が生まれてからの色々、 私と関係ない色々と関係する色々、 カルマとか怨念とか愛とか幸福とか、 それらが皆 かさかさになって、 ぼろぼろになって、 こなごなになって、 こんなふうになってしまえば清々しいのに… そんなことを思いながら砂を撫でた。 風がやんだ。 さっきまであんなに吹いていたのに

    • 超短編小説「灯」

      あれも捨てた。あれも、あれも。 運が良くなると聞いたから。 あれもあれもあれもあれも。 本当に欲しくて持っていたものなど 何ひとつなかったことに驚いた。 古いアパートの二階の小さな部屋が 広くなった。 自分のために、素敵な間接照明がほしいと 思った。 休日のたびに買いに出かけた。 一つ二つ三つ四つ… 部屋が灯でいっぱいになった。 ある夕暮れ、窓の外で灯がともった。 カーテンを捨てたばかりだった。 こんなところに街灯があっただろうかと、 部屋いっぱいの自分の灯をよけながら

      • 超短編小説 「月」

        夜風にあたろうと宴会を抜け出した。 故郷のひなびた温泉宿での同窓会は、良くも悪くもない。月が出ている。 満月だろうか、ずいぶん明るい。 宿の前の川のせせらぎに誘われて、河原へ向かった。 護岸整備はされていなく、 石と砂の岸はしっとりと、流れは戯れるように月のひかりを受けている。 月夜のこの川が、こんなにも美しいとは思ってもみなかった。 今日いちばん、いや、ここ何年かでいちばん 心が躍った。 向こう岸に髪の長い女性がいるのに気がついて驚いた。 突然現れたように感じたからだ。