気に入った場所で仰向けになった。 夕空に星が見え始めていた。 ビールが飲みたいと思ったが、 それは一瞬で消えた。 私は目を閉じた。 ただ漠と積み重なった、 私の生まれる前からの色々と 私が生まれてからの色々、 私と関係ない色々と関係する色々、 カルマとか怨念とか愛とか幸福とか、 それらが皆 かさかさになって、 ぼろぼろになって、 こなごなになって、 こんなふうになってしまえば清々しいのに… そんなことを思いながら砂を撫でた。 風がやんだ。 さっきまであんなに吹いていたのに
あれも捨てた。あれも、あれも。 運が良くなると聞いたから。 あれもあれもあれもあれも。 本当に欲しくて持っていたものなど 何ひとつなかったことに驚いた。 古いアパートの二階の小さな部屋が 広くなった。 自分のために、素敵な間接照明がほしいと 思った。 休日のたびに買いに出かけた。 一つ二つ三つ四つ… 部屋が灯でいっぱいになった。 ある夕暮れ、窓の外で灯がともった。 カーテンを捨てたばかりだった。 こんなところに街灯があっただろうかと、 部屋いっぱいの自分の灯をよけながら
夜風にあたろうと宴会を抜け出した。 故郷のひなびた温泉宿での同窓会は、良くも悪くもない。月が出ている。 満月だろうか、ずいぶん明るい。 宿の前の川のせせらぎに誘われて、河原へ向かった。 護岸整備はされていなく、 石と砂の岸はしっとりと、流れは戯れるように月のひかりを受けている。 月夜のこの川が、こんなにも美しいとは思ってもみなかった。 今日いちばん、いや、ここ何年かでいちばん 心が躍った。 向こう岸に髪の長い女性がいるのに気がついて驚いた。 突然現れたように感じたからだ。