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「航海」と「登山」。探究学習のスタイルをこう解きほぐしてみる

探究学習プログラム「クエストエデュケーション」を導入校の先生が意見や情報を交換し、これからの学校現場を共に考える「オンライン交流会」(2020年9月)を開催しました。そのなかから、学校コーディネーター佐藤瞬による「探究学習についてのお話」をお届けします。

探究学習で深い学びが起こる瞬間

今回は探究学習について、「探究学習で深い学びが起こる瞬間」というテーマでお話させていただきます。

普段みなさんが弊社(教育と探求社)とのあいだでよく聞かれている探究学習のお話は、エピソードや誰かの物語として語られることが多いかと思うのですが、今回はそれを少し、文献や研究などアカデミックから紐解く試みとしてお話しさせていただければと思います。

ただ、これは私自身の見解であるということを最初にお伝えさせていただきます。これが答えだとは思っていなくて、私なりにこんなことを考えています、ということだと聞いていただければと思います。

先生方は現場のことを私より断然ご存じかと思いますので、その中でどういう風に見れるのか、どう考えるのかというところを、一つ共有の投げ込みとして受けとっていただいて、これからの議論に活かしていただけたら嬉しいです。

まず最初に、簡単に自己紹介させていただくと、私は教育と探求社で、学校部として学校の担当をさせていただいていると同時に、開発部で新しい教材の開発や、既存の教材のブラッシュアップを担当しています。

読書がとても好きで、本を読まないことがほぼありません。あるとすれば、お金がなくなって本が買えなくなることくらい、それくらいの活字中毒ぽい人間です。また、夜中の道路にひとりで立って、この世の中でひとりしかいない感覚を味わうのが好きです。

そもそも探究学習とはなにか

さて、「そもそも探究学習とは何か」という話について、まずはお話していこうと思います。

今私個人として少し課題と感じていることがあるのですが、それは、「探究学習といったときに何を指すのか」がバラバラだなあということです。

PBLや、コンセプトベースドラーニング(CBL)、IBなど、いろいろなところが様々な形で「探究」のような言葉を使っていますが、その言葉が指す内容が何かというとあいまいで、人によって使い方も違うということがありますよね。そこでまずは大まかに、探究学習について捉えていきたいと思います。

探究学習といったときに、おそらくどの探究に関しても外していないだろう本質的な部分として、私は「答えのない問いに対して、私として対峙すること」があると考えています。

そして、この探究学習を比喩を用いて、おおまかに二つに分けて考えてみたいと思います。一つは「登山型の探究学習」、もう一つは「航海型の探究学習」です。

探究学習の2つの捉え方

「登山型の探究学習」というのは、科学的な探究や研究型のアクティブ・ラーニングとしてよく言われていることに近いものです。

問いを自分たちで作って、それを科学的に検証していく。そうして新しい知識を生み出したり、知見を生み出す。「未知から既知へ」と書いているのですが、今わかっていないことを明らかにするようなイメージで探究学習というときに、この登山的なイメージがあるのではないかと考えます。

この「登山型の探究学習」で強調されるのは、「問題をどう解決するか」「どう科学的な手順に基づいて明らかにしていくのか」といったところです。

一方で、「航海型の探究学習」というものもあります。こちらは科学的なものに対して、哲学的な問いに関わるものです。

つまり、自分が今まで当たり前だと思っていたものが揺るがされて、「あれ?実はわかってないかも」と気づくところから探究が始まっていきます。航海型の探究学習では、上り詰めていく、突き詰めていくというよりは、「どんどん世界が広がっていく」というイメージです。

登山型が「どう手順にのっとって解決していくか」という、問題解決に重点を置く一方で、航海としての探究においては、問いに出会うこと、「あ、自分は知らなかったんだな」と気づくことそのものに、価値が置かれていると考えます。

このように2つにわけて探究学習をとらえてみましたが、これらのイメージが食い違っていると、同じ「探究学習」といっても成果物のイメージがだいぶ違うのではないでしょうか。

登山としての探究をイメージされてる方だと、おそらく学術論文に載せられるようなものだったり、どれだけ精緻に自分たちの内容を論文としてまとめられるか、発表としてまとめられるか、ということに気を使われることが多いのかなと思います。

一方で、航海型の探究に関しては、そのアウトプットがどうなるかということよりも、探究によってどれだけ自分が分かってなかったことに気づけたか、どれだけ世界が広がったか、ということに価値を置くと思います。

この2つの捉え方を考えてみたときに、皆さんが「自分はどのように探究を捉えてるのかな」「おおまかに自分はどこら辺にいるのかな」ということを考える材料になればいいかなと思います。

ちなみに、その整理に立った時に弊社の「クエストエデュケーション」はどちらかというとこの航海型、航海としての探究に近いものだと私は考えています。つまり、「自分たちで問題を発見する」「問いを持つ」、そしてそれによって「どう世界が広がっていくのか」ということに重点を置いているものですね。

登山型と航海型は単純に対立するものではなく、どちらも必要になる学び方だと考えています。また、たとえ同じ教材を使っていたとしても、使い方によってはどちらの探究にもなりうるものだと思います。そのため、二つの学び方をどう使い分け、連動させていくのかが重要になるのではと思っています。

どのように探究は始まるのか

図は、藤村宣之・橘春菜・名古屋大学教育学部附属中・高等学校編著(2018)『協同的探究学習で育む「わかる学力」』ミネルヴァ書房を参考にして作成。

次に、「探究はどのように始まるのか」というお話をしていきたいと思います。

ここでは、現在東京大学大学院教育学研究科教授で教育心理学・発達心理学を専門としている学者、藤村宣之(ふじむらのぶゆき)氏の提唱する「協同的探究学習」を参考にみていきましょう。

簡単に説明すると、探究は以下のような順序で進むと考えられています。

1.経験知
まず、人はそもそも何かしらの知識を持っています。今まで生活経験をしている中での様々な知識、いわば「経験知」を持っています。

2.問い
そしてその経験知が、「問い」に出会うことによって揺さぶられます。「今まで知っていると思っていたけれど知らないな」とか「そう言われてみればわからないな」ということですね。こうして問いに出会うことによって、探究が始まっていきます。

3.個別探究
さらに、私はこれが面白いなと思ってるのですが、問いに出会ったあとには「個別探究」を行います。つまり、問いに出会った時に、まずは自分の中の生活経験や自分が今まで持っていた知識を、どう結びつけるのかということを、個人で考える時間が必要だということです。

これはオンライン上で探究学習を行うときに抜け落ちがちだけれども、とても大切なことだと私は考えています。問いに出会ったあとに、いきなり「みんなで話し合おう」となると、友達の意見に流されてしまったり、自分の経験を振り返ることなく何かを言わなければならなくなってしまうみたいなことがありますよね。探究学習するときには、この個別の時間を確保することを意識できるといいのかなと思います。

4.協働探究
そして個別で経験を振り返ったり自分の知識と問いをつなげていった後、「協働探究」があります。グループワークなどで他の人と意見を交わしたりします。

5.個別探究
協働探究をしていった後、再び「個別探究」ということで、さらに展開課題や発展課題として問いに向き合います。

ここで、先ほど言っていた「航海としての探究」の視点で見たときに、何が探究を駆動させているのかということを改めて考えてみましょう。

まずは「問い」との出会いですよね。「知ってると思ってたことが実は知らない」ということへの気づき、無知の自覚だったり無知の知ということです。そうした問いとの出会いから探究というものが始まります。

「知らなかった」「なんで知らないんだっけ」というように、情動や感情が刺激され、「もっと知りたい」という風になっていくことが探究学習を駆動させていくんじゃないかと言われています。この一連のプロセスの中で、探究学習というものは進んでいくのですね。


【参考】
探究学習はじめの一歩!【実例】探究学習のテーマ16種
「探究学習」の最先端 教育と探求社の総合パンフレット
教員向けイベント情報

学校コーディネーター 佐藤 瞬

しゅんさん

上智大学大学院総合人間科学研究科教育学専攻博士前期課程修了。大学院在学中に、青年海外協力隊として中米・ベリーズに小学校教員として派遣。2年間の勤務後に、公立の小学校にて4年間勤務。現在、よりよい学びを実現していくことに全力を尽くしたく、学校コーディネーターとして活動を行なっている。


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