【教師と探究学習】プロセスに学びがある。生徒に伴走した1年(東葛飾中・後編)
「我々教員の仕事は、生徒の内なる可能性に光を当てることかもしれない」
千葉県立東葛飾中学校で探究学習を担当する山元洋先生は、そう話します。
同校で探究学習に取り組む生徒たちは、どんな探求の道のりをたどっているのでしょうか。教員はどう関わるのでしょうか。2021年度の中学2年生(中学5期生)の1年を振り返り、見えたものを語ってもらいました。
後編は、生徒たちが企画を発表する「中間発表」や、大会エントリーなど、アウトプットに向けた様子を報告していただきます。(敬称略)
※前編はこちら
【10月】企画をカジュアルに伝え始める
企業からの「ミッション」は多種多様です。「『キミの疑う力』から世界をつくり変える新しい教科を提案せよ!(博報堂)」「『未来を生きる人々の疲れ』を解消する大正製薬の新商品を提案せよ!(大正製薬)」といった、抽象的なテーマをどう解釈し、独自性のある企画にするか、生徒たちは練ってきました。10月、その内容を周りの人に伝えていく段階に入ります。
山元 10月22日、生徒たちが企画を発表する「中間発表」の前に、2コマほど使って「プレ中間発表」を行いました。
プレ中間発表では、きっちりした発表をするよりも、他のチームがどのようにしているかを知ったり話し合ったりすることを重視しました。より多くのチームを回って、とにかくカジュアルに話そう、と生徒たちに伝えました。
山元 ソファに寝転がる生徒がいれば地面に座る生徒もいたり、姿勢や座り方も自由で、雑談に近いスタイルです。お行儀は別の場でいうことで、この時間は存分に発想を出せるよう、自由に話してもらいました。
【10月】企業の人も来る「中間発表」
山元 プレ中間発表の1週間後の10月29日が中間発表です。ここまで考えてきた企画を、初めてきっちりしたかたちで発表しました。企業の方々も「授業訪問」というかたちで、オンラインで見にきていただきました。
山元 中間発表に至るまでに「コーポレートアクセス」で標準とされているよりもだいぶコマ数をかけた分、企業からのミッションを丁寧に解釈することができたと思います。
抽象度の高い、いかようにでも解釈できるミッションを噛み砕き、自分ごととしてどれだけ引き付けられるかが、企画内容を左右すると思います。
また「正解のない問い」に対して、自分たちなりの答えを出すために考え続けること自体に、意味があると考えています。
何気ない日常の中で発生する小さな問題が、実はミッションと繋がっていると気付いた時に生徒の顔は輝きます。
たとえば、三菱地所のミッション「未来を生きる私たちが、『そこに集う喜び』を感じられる場と仕組みを提案せよ!」に取り組んだあるチームは、『そこに集う喜び』について、「集うこと」は特定のコミュニケーションをする必要はないのではないかと発想しました。
そして『そこに集う喜び』は、「完全に同じではなくても向かう先は一緒、そうした人たちと共に歩むことである」と解釈をし、それを実現するために多種多様な活動ができる公園作りを提案しました。
山元 また、中間発表を終えたあとは、より大きな部屋へボードを運び、場所を変えてブレーンストーミングを行ったりもしました。
管理職の先生方も興味を持ってくださって熱心に質問し、生徒の言葉に耳を傾けてくれていました。
【12月】大詰めの最終調整
中間発表で他チームの発表に刺激を受けたり、他チームや先生、企業の方々から質問を受けて改めて考えたりして、生徒たちは自分たちの企画を磨いていきます。
山元 12月は、クエストカップ全国大会のエントリー前の最終発表です。オンラインで企業の方に、リアルで目の前の同級生に、自分たちの企画を提案しました。
ここから校内のエントリー締め切り日まで2週間ほど残っています。この2週間で同級生からもらったフィードバックや企業の方からのアドバイスを参考に、最終調整します。
最終発表からエントリーまでの最終調整の期間には、企業の方にリアル授業訪問もしていただきました。
大会エントリーの際の工夫
山元 さて、大会エントリー当日です。
エントリーの際には少し工夫し、エントリーできたチームからホワイトボードのチェックボックスにチェックを入れていくことにしました。
こうすることでお互いの進捗状況が一目瞭然となり、生徒たちは競い合うようにデータをアップロードしていきました。おかげで大きな遅れもなく、無事全チーム全国大会にエントリーができました。
【1月】生徒が投票「校内グランプリ」
クエストカップ全国大会が始まる前に、東葛飾中学校では、毎年校内発表会を開きます。
山元 エントリー前の最終発表、大会エントリーが無事に終わり、その後は1月に校内最終発表を開きました。
校内発表は大会向けのオンラインでの発表とは異なり、体育館で聴衆を目の前にして発表します。
この場を、異なるスタイルで同じ内容を伝えるトレーニングと位置づけ、頑張ろうと生徒に伝えました。
スタイルが変われば、話す内容の調整、それから構成も当然変えなければなりません。しかし伝えたいコアの部分はぶれずに伝えられるようチャレンジするということは、きっと将来にわたって彼らの大きな武器になるはずだと信じて行いました。
山元 リアルですので、写真のように小道具もふんだんに使えますね。これを経て改めて生徒達はリアルパフォーマンスが自分たちの最も得意とするスタイルだと再認識したようです。
パソコンやビデオカメラを駆使して、生徒たちの発表の様子を保護者に向けて生中継もしました。
校内発表会では、生徒たちが相互投票して「校内グランプリ」を決定します。興味深いことに、全国大会とは異なる順位がつくことが多いです。
もしかしたら、できあがった作品だけで評価するのと、ゼロから作り上げる過程をお互い見ていることで、作品をみる観点が異なり、結果が違って出てくるのかもしれません。
【2月】グランプリはみんなで勝ち取った
そして2月にオンラインで開催された「クエストカップ全国大会 2022」。全国の中高154校の4098チームが応募、審査を通過した261チームが参加しました。
山元 大会では、コーポレートアクセスのファーストステージに3チームが進出、セカンドステージに2チームが進出し、1チームがグランプリをいただきました。
山元 全国大会に向き合う姿勢ですが、生徒たちには結果を求めずに「目の前のことに全力を尽くそう」「みんなで協力し、その瞬間瞬間を楽しもう」と言ってきました。
しかしながら、ファーストステージから先は「この半年の頑張りへのご褒美をいただいたと思ってそのことに感謝し、ここからはちょっと上を狙ってみよう」「せっかくなので全国に東葛中の名をとどろかせようじゃないか」と、本番までの2ヶ月ほど頑張ってみました。
また生徒たちには同時に、選ばれた人たちがすごかったというよりも、5期生みんなで助け合った結果であり、5期生みんなで勝ち取ったものだから、全員でお互いに感謝し合うのが筋だろうという話をしています。
1年を振り返って
山元 東葛飾中学校では、教育目標に「世界で活躍する心豊かな時代のリーダーの育成」を掲げ、これを具現化するため、各教科の授業で「input-share-output」を実践しています。
改めて振り返り、「コーポレートアクセス」は、こうした各教科で培われた力を統合し、また活用する場だったと感じています。
山元 活動は、ほぼ生徒の成長の過程の一部であり、自己表現の得意、不得意、好き嫌い関係なく、5期生みんなで頑張ったことそのものが尊いと感じています。
「生徒が探究学習を通してどう変わりましたか」とよく聞かれるのですが、私は生徒が変容したというよりも、次のように受け取っています。
生徒は自分自身の力で可能性の扉を開いた。生徒が自分の内にあるものを外に出し、表現する手助けが、「クエストエデュケーション」を通してできたのではないか、と。
そして我々教員の仕事は、生徒の内なる可能性に光を当てることかもしれない、という思いを大会が終わった後、抱いています。
最後に
山元 最後に、「学校での勉強/授業のこと」に続いて、三つの文を作ってみたいと思います。
学校での勉強/授業のことが、共通の話題の友達がいるー必ずしもそれは“仲良し”ではない
学校での勉強/授業のことで、友達になることができるー“マジメな話をカジュアルに”できる
学校での勉強授業のことを、話題にして話すと楽しい友達がいる
そんな環境が作れる可能性があるのが「クエストエデュケーション」ではないかと私は考えています。
また、私たち学校と社会の関係を考える時、次のような議論が常にあると思います。
山元 ビジネスと学校は別モノ、ビジネスと研究は別モノ、仕事と学校での勉強は別モノ。
さてこうした状況下で「クエストエデュケーション」を学校の教育活動に加える目的は何かと考え、何を目指すとき「コーポレートアクセス」が効果的か?
そう問われた時に、私はこのように思います。
学校と社会をシームレスにつなぐためにある。
これがクエストを学校に取り入れる目的であり、また目指すべきこれからの学校の役割ではないかと考えました。
ーーーーーーーーーーーーーーー
東葛飾中学校のチーム「CM(centimeter)」の発表内容も、下記からご覧いただけます。