自分らしく生きるのが、こんなにつらいことなのか
ほんとうに助けてほしいのに、誰も助けてくれない。覚悟していたことだったけど。
身体が落下していく。止まらない。
顔をセロテープで縛られた。あらゆる憎しみがおそってきた。
トランスジェンダーのマリーナが、既婚の男を愛したことからすべてが始まった。
ある夜、男は階段から落下し、死亡した。彼女は、救急車を呼び、家族に迷惑のかからないよう、病院を去った。
女刑事は、マリーナが、病院から逃げ去ったことに疑問を持った。
女刑事は、彼女が男と争い、男を階段から突き落としたと推測した。
争った傷跡がないか、マリーナの全裸撮影を要求した。
彼女は、全裸撮影を拒否したが、無罪立証のために認めさせられた。
女刑事が裸体の隅々まで目を光らせ、カメラマンがレンズを通してクローズアップした。5分が、1時間にも感じる屈辱だった。
彼女は無罪になった。
マリーナが家に帰ると、故人の息子が部屋にいて「出て行け。今日から、ここは俺の家だ」と言った。
彼女は、ローカルのプロ歌手、そしてウエイトレスとして働き、自立していた。
男から1ペソももらっていなかった。家は彼女のものだった。家族や息子はそれがわかっていなかった。
街を歩くと、故人の親戚の不良たちが、罵声を浴びせかけてきた。
とっても大切な人を亡くした人間に、さらに鞭打ってくる人びとがいた。
マリーナは頭が混乱した。
彼女の相談相手、ヴォイス・トレーナーのもとに行き、「愛の意味を教えて」と尋ねた。
「愛に正解はないよ。愛は与えるものであって、与えられるものではない」と
初老の男が答えた。
腑に落ちた。
祝福されるだけが愛ではない。ひっそりと想いを寄せる静かな愛があると思った。
男の妻が、家族の世間体を考え、マリーナの通夜や葬儀参列を猛然と拒んできた。
マリーナにとって、楽しいときを過ごせたパートナーに、最後のお別れを言いたかっただけだった。
葬儀場がダメならと、警備の手薄な火葬場に忍び込んで、惜別を告げた。
ナチュラルウーマンの楽曲が流れている。
♪私の魂が、忘れ物置き場にあったことを、あなたは教えてくれた
あなたのそばでは、ありのままの女性の自分でいられた♪
キャロル・キングのナチュラルウーマンは、溶けて、マリーナの細胞に宿った。
⭐️⭐️⭐️⭐️
映画を離れても、リアルなトランスジェンダーのダニエラ・ヴェガには、差別の日々は少女の頃から続いていた。トラウマになりながら、差別される女を演じたダニエラの演技を讃えたい。
この映画は、トランスジェンダーがどれだけ迫害されているかを教えてくれる。
トランスジェンダーにとっては容赦のないストーリーだった。自分らしく生き抜く権利を守ってあげるダイバーシティを遵守する大切を再認識した。
お付き合いいただき感謝申し上げます。
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