ロフトワーク・松井 創さんに聞く、「共創空間の設計法」【後編】
こんにちは。インタビューサイト「カンバセーションズ」の原田です。
カンバセーションズを共創のプラットフォームにすることを目指すインタビューシリーズ、
今回はロフトワークの松井 創さんに、
場/空間としての共創プラットフォームをテーマにお話を伺っています。
前回は、若いエネルギーが集まる東京・渋谷の共創空間「100BANCH」のコンセプトや場づくりにおけるポイントを色々伺ってきましたが、
後編では、3年目を迎えた100BANCHの展望や、
同じく松井さんが担当し、今年11月に渋谷にオープンを控えている新施設「SHIBUYA QWS」についてお話を聞いていきたいと思います。
プロジェクトがドライブする条件
100BANCHでは、共創の空間を運営していくための7つの原理をベースとしながら、
各プロジェクトの進行に関しては、
あくまでも入居者たちの主体性に委ねているということでしたが、
その中でもドライブしやすいプロジェクトには、
何か共通の特徴があったりするのでしょうか。
松井:やはり、トライアンドエラーを何回も繰り返せる人は強いですね。
完全にゼロから社会実装段階まで進めているような人はいち早く失敗し、どんどん変えていこうとする姿勢があるし、
周りを巻き込みながら、プロジェクトを広げていくようなスタートアップ気質を持っていることが多いように思います。
そう聞くと、プロジェクトの成長は、主体者本人の生まれ持ったベンチャーマインドのようなものに左右される部分も大きいように思えますが、
3ヶ月の入居期間中に思うような成果が挙げられなかったメンバーには、
再度目標設定した上で一度だけ3ヶ月の利用延長が許可されているそうで、
この延長期間に一気に伸びる人も少なくないということです。
3年目の100BANCHが目指すこと
すでに100を超えるプロジェクトが採択され、共創の空間をマネジメントしていくためのノウハウも確立されつつある100BANCHでは、
3年目に突入したいま、新たなステップを踏み出そうとしています。
松井:1年目は、入居者たちがとにかく思う存分取り組めるプロジェクトを数多くつくることを目指してきました。
2年目には各メンバーたちの視点が交差し、コラボレーションが生まれるようになり、
2段階方式で価値が生まれる場が醸成されつつあると感じています。
そして3年目となる今年は、100BANCHから生まれた価値が対外的にもインパクトを持ち、
各業界で話題になるような状況をつくっていきたいと考えています。
例えば、100BANCHに入居していた「障がい」をテーマにする4つのプロジェクトの代表によって結成された「未来言語」は、
ダイバーシティー推進の取り組みとしてすでに各界から注目を集めており、
オリンピック・パラリンピック関連の文化事業などを通して、
社会に広がっていく機運も高まっているそうです。
今後、こうしたプロジェクトをさらに増やしていくために、
100BANCHでは対外的な動きを加速させています。
松井:どうすれば個別のプロジェクトが関連業界に広がっていくのかを考えながら、地道な活動を続けています。
例えば、モノを売っていくことが大切なプロジェクトであればそのためのプロモーションを行いますし、
社会のルールを変えていく必要があるような実験性が高いプロジェクトの場合、
行政レベルのロビー活動などを行うこともあります。
プラットフォームの外側にさまざまな舞台を用意する
共創のプラットフォームとして、内部の土壌やアーキテクチャを整備していくことに加えて、周辺の環境を整えていくことも大切なポイントだということですね。
言い換えるとそれは、プラットフォームの外側にさまざまな舞台をお膳立てしていく行為なのかもしれません。
松井:昨年は共に100BANCHを運営しているパナソニックが100周年を迎え、
世界規模でさまざまなお祭りがあったことも大きかったですが、
最近は、プロジェクトのメンバーたちに半ば強引に大舞台に立ってもらうということをしています(笑)。
そうすることで、メンバーたちは背伸びせざるを得なくなるわけですが、
そうやって限界を超えて成長していく機会をつくることを意識しています。
100BANCHが日常の場であるとしたら、
成果を発表できるハレの場をたくさん設計していくようなイメージです。
また、すでに100BANCHを卒業したメンバーたちを対象にした研究員制度をつくり、
入居期間終了後も継続的に100BANCHと関わりながら、
プロジェクトを推進していく施策も始めているそうです。
さらに、クラウドファンディングサイトなど外部サービスとの連携も行うなど、
共創を促すためのエコシステムを内外につくり出そうとしている100BANCHの取り組みには学ぶところがとても多いです。
渋谷にオープンする共創施設「SHIBUYA QWS」
松井さんは現在、今年11月に渋谷駅直結のビル内にオープンする共創施設「SHIBUYA QWS」の立ち上げにも参画しています。
JR、東急、東京メトロの鉄道3社と、東京大、早稲田大、慶應義塾大、東京工業大、東京都市大という5大学による産学連携で運営されるこの空間は、
果たしてどのようなものになるのでしょうか?
松井:大学や企業をはじめさまざまな人たちが、
「問いの感性」をキーワードに混じり合う場をつくりたいというご相談を受けました。
渋谷のど真ん中という立地もあったので、すでに渋谷に点在しているコミュニティ施設と同じようなものをつくるのではなく、
街のさまざまなコミュニティの人たちが一堂に会する社交場のようなものを意識して準備を進めているところです。
基本的には会員制のスペースになりますが、
コワーキングスペースのようにそこに滞在をして各々の仕事をするというよりは、
さまざまな立場や目的を持つ人たちが、
マーブルのように混ざり合っていく場にしていきたいと考えています。
「問い」を軸にした共創空間というコンセプトは、
まさにカンバセーションズにも通じるものですし、
(QWSのパートナーには、以前にこのnoteでもお話を伺った安斎勇樹さん率いるミミクリデザインの名前も!)
100BANCHに加え、このSHIBUYA QWSの動向にも引き続き注目していきたいと思います。
変化の「余白」を残した場の設計
このSHIBUYA QWSについて、「トライアンドエラーを繰り返しながら、1年くらいをかけて場のアーキタイプ(原型)をつくっていきたい」と意気込みを語ってくれた松井さん。
今回お話を伺った2つの空間のどちらにも共通しているのは、
共創を生み出す場の「思想」や「原理」をあらかじめ設計した上で、
利用者たちの主体性に委ねながら変化していける「余白」も残した場の設計になっている点です。
その背景には、新しいものは絶えず流動するコミュニティから生まれるというロフトワークの思想があるようです。
松井:ロフトワーク自体が共創のプラットフォームそのものなので、
僕らは共創が生まれやすい環境づくりというものを常に徹底しています。
共創のパターンというのは無限にあると思っているので、
たとえ共創タイプAがうまくいったからといってそれを使い続けるのではなく、
常にタイプB、Cの可能性を「余白」や「伸びしろ」として担保しておくようにしています。
その背景には、場やコミュニティを停滞させたり、淀ませたりせず、常にフローの状態にしておくという僕らの考え方があり、
共創のプラットフォームというものを固定化させないということを意識しているんです。
松井さん、非常に学びの多いお話の数々、どうもありがとうございました!
前編の冒頭でも触れたように、カンバセーションズの第一期インタビュアーでもあるメディアアーティストの市原えつこさんが、
来るべき新作の制作にあたり、100BANCHに入居することが正式に決定しました。
これを機にカンバセーションズでも100BANCHでのイベント開催など、
コラボレーションの機会を探っていきたいと思っています。
今回のインタビューから学んだこと
最後に、今回のインタビューを通して学んだポイントを以下にまとめておきます。
・共創コミュニティは、多様な人たちが出入りするフロー状態によって醸成される
・共創は、主体者が思う存分に活動できる環境からしか生まれない
・共創プラットフォームとしてのWHY(思想)は強く、HOW(ルール)は緩やかに
・共創を促すために、内外のエコシステムを構築する
・成長機会としての晴れ舞台を、外部に積極的に用意する
・ひとつの型にこだわらず、変化の「余白」を残したプラットフォームを設計する
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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