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新作が喜ばれる? 消費者とブランドの変化。

Voicy「コテツのブランディングと商売の話」コラム
読めばブランディングができて商売が上手くなる

このコラムは、コテツがVoicyのブランディングと商売の話で語った内容を文章化し加筆したものです。
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Voicy No.0036 2021年9月13日収録
新作が喜ばれる? 消費者とブランドの変化


セーラー服と機関銃

先日、歌うま高校生みたいなのが出ている番組を、たまたまチャンネルを回したら目にする機会がありました。今は高校生の歌うまの人が、昔の曲を普通に歌っていますよね。高校生からすると親の時代でもない歌を。

1981年の『セーラー服と機関銃』という薬師丸ひろ子さんが出ていた邦画があります。角川全盛期をスタートする、すごく爆発した角川映画の1作目です。その主演の薬師丸ひろ子さんが歌ったのがこの歌です。ネットがなかった2000年前後だと、多分この歌を誰も知らないと思います。

この映画と曲が出たのは1981年。俺はもちろん知っていますが、その後2000年前後はちょうどCDのセールスがピークを迎えて、発売日に何十万枚が売れたりするビッグヒット、メガヒットがありました。2000年ぐらいからネットの伸びに対してCDが売れなくなり、思わぬ現象というか、ネットの影響で時代を超えていいものは、見られたり聴かれたりする現象が起こっています。

これは予測しにくかったところで、過去の名作の価値がすごく上がっているのです。しかし過去のものの価値が全部上がるかというと、そうでもなくて、今の時代でもあまりないスタイルやクオリティ、個性がある名作が見られています。芸術とエンターテインメントの世界が、名作に関しては特に恩恵を受けています。

『風の谷のナウシカ』は最初、宮崎駿さんが漫画で描いていて、1984年に映画になりました。けれども『風の谷のナウシカ』が好きだと言う人は、今の20代でも結構います。CDだったときはCDリリースとかアルバムもそうで、映画も初動でどれだけ見てもらえるかが大事だったというか、今も大事だとは思いますが、それが変わってきた。

それはセールス的に大事という意味と、消費者側がとにかく新しいものが一番いいと思っているから。新しいものが出てくると、ネットがないときは古いものは棚から押し出されていってしまう。そうすると二度と手に取る可能性はないという形だったのです。

それがTikTokで過去の名曲が一部切り取られたりして、ラッツ&スターの『め組の人』のサビだけ切り取られて踊ったりしている。ネットとかスマホがなければ、ラッツ&スターは聴かないよね。CDショップに行っても、今、ラッツ&スターの棚は多分ないと思います。これは、新作のみが売れる、新作を聴くこと、手にすることがすごくかっこいいことだという価値観を、完全に変えてしまったのです。

その中で恩恵を受けていないのが連ドラです。『ロングバケーション』『東京ラブストーリー』『男女七人夏物語』、そういうトレンディードラマ全盛期の頃の連ドラを知らない人が多い。長すぎて、公式DVDが出ていないから。あれを再編集版ですごく短くして今の人が見られるようにしたら、おそらく評価されて再燃し、価値が再度盛り上がるものがあると思う。

けれども、過去に出ていた俳優さんの権利の問題とかで、改めて再編集版を出さないでくれという方もいると思うので、なかなか難しいだろう。いいドラマは過去にいっぱいありました。自分なんかよりもっと世代が前だと、松田優作さんの『探偵物語』とか、連ドラですごく若者文化とか今のカルチャーに影響を与えたものを再編集版にしてネットに出してしまうといい。けれども権利的にいろいろ難しいでしょう。

そうすると、今まで持ってきた日本のエンターテインメント、芸術のアーカイブがすごく生きるよね。そういう文化戦略の話が今日のメインではないけれど、消費者心理はこういう世の中のツールの変化とか、使っているものが自然に変わっていく中で変化の影響を受けるので、新作だけが喜ばれるという感じは前より薄れてきています。

新作は喜ばれるムードはあるけれどファッションも同じ。古い雑誌とかは東京神田の神保町の古本屋さんでファッション誌がいっぱい置いてあるところ、小宮山書店は自分が仕事で一緒にやっていて、社長といろいろビジネスをやっている方なのだけど、昔のファッション誌を本当に見たければそこへ行くしかない。けれども、ネットでもPinterestとか画像検索で、1970~1980年代のものを見ようと思えば見られるのです。

さすがにコレクション動画はあまり出ていないけれど、情報としては昔の洋服のはやりは、ちょっと見られます。新作だけが価値があるとなっていないのは、よく使われるCMのタイアップとか、動画とか、番組のBGMもサカナクションの『新宝島』がめちゃ使われている。でも、あれは2015年。フリッパーズ・ギターというユニットがあって、それは1987年。フリッパーズ・ギターもよく使われているし、もっと戻れば松任谷由実になる前の荒井由実さん。ユーミンは1972年にデビューしたんだけど、それがものすごく使われている。

こういうことから見ても、1990年代から2000年前半までの何でも新作がいい。ファッションも映画も音楽も新作が最強で、ちょっと前のを聴いていたら、なんで聴いているのというムードは今なくなったのです。

これには前提があります。日本は世界でもまれに見る最新作大好き文化です。これはコテツラジオのほかの放送のとき、昔の回を遡ってもらえれば、フランスやイタリア文化の話をちょっとしたことがある。そこでフランスやイタリアのコンビニというか商店は、そんなに商品の種類が入れ替わらないのです。だからお菓子の新作がこんなにどんどん出ないよね。日本はめちゃくちゃ新作が出る。スナック菓子にしてもチョコレートにしても、新作を出さなかったら何やっているんだということで、お菓子メーカーの仕事の大部分は新作の開発です。

これは日本特有の傾向で、ヨーロッパのお菓子は結構定番のものが着々と売れています。ただ、自分は中国韓国とかの文化や消費行動に特別詳しいわけではないけれど、日中韓は新作傾向が強いかなと個人的には感じています。


過去の埋もれていたものを


日本はまれに見る新作大好き文化で、それは文化的側面が大きいんだよね。関東大震災になったり、太平洋戦争が終わって焼け野原になってゼロからつくり直したりして、建物を建て直すのもすごく早いから。

ヨーロッパはフランスとかに行くと古い建物がありますが、あれは地震がないのもあります。昔のものを長く使うという根本的な考え方が、商品購入時の思考習慣にもつながっていると思う。とにかく日本は新しいものが好きだったのが、最近ちょっと変わってきた。

では、どう変わってきて、それをどうやって自分のブランドとかビジネスや生活のヒントとしてとらえていけばいいのか。過去のいいものを再編集するとか発掘してきて人にお伝えしてお勧めするのは、結構これからはまることもあると思います。昔に比べれば、セルフコピーとか編集とかリブランディング――これは俺の仕事だけれど、そういうもので過去にあったいいものを別な文脈で説明し直すことが、すごく前よりも受け入れやすいですよね。

特に全世界的に情報のアーカイブをネットに置いておけるので、昔ものの価値を認めて値段が高くなる傾向がやっぱりある。例えば、ロレックスは旧作の値上がり感はすごい。新しいほうも今は値段を上げているけれども、ロレックスはある種、昔からある王道ブランドです。ウブロとかリシャール・ミルは、高級時計の中でも新興のブランドと比べると、古いとまでは言わないまでも王道ブランドです。それが格を上げてきて、過去の名作の上がり具合がすごい。

自動車もスニーカーも古着の文化が日本も昔からあるけれど、唯一靴だけは流通しにくいとも言われていたのね。ちょっと気持ち悪いでしょう、足を入れてというのは。衣類は洗えばいいけれど、スニーカーとか革靴の古い中古品は汗とか付くからなかなか難しいといわれていました。でも、スニーカーの限定モデルの流通に関しては、もう全然そういうのを感じさせません。1回、2回履いたものでも普通に流通するので。これも過去の名作を認める文化ですよね。

こういう価値観の変化は、最初は顕著でそういうのが発揮しやすいところから始まって、徐々に広がっていきます。絵文字とかスタンプで意思を表明するのは、日本の女の子が手紙を送るときにくせ字とか、ちょっと絵を描いて気持ちを伝えていた。大人が絵で気持ちを伝えるなんていうのは昔は考えられなかった。日本の絵文字やスタンプの原型となって手書きのお手紙の絵で気持ちを伝えたりする流れは、もう世界に伝わっています。

最初にそういう恩恵とか勘がいいとか新しいことに抵抗がない人が取り入れたものが、徐々に広がっていって、最後いつの間にか当たり前が変わります。けれども、この流れでいけば次の新作大重視の文化が薄れてきて、さっきのエンターテインメントとか芸術がネットとかYouTubeの影響で古いものが評価されるようになれば、結構いろいろな領域でそれが起こるようになると思います。

それは情報がないと、その価値がわからないので、リテラシーを高めるために教育が必要だけれど、古いラジカセとか古いコンボとか、そういうものでさえもさまざまな情報提供によって価値が上がっていくことがあると思っています。

ハイブランドも今、昔のものを再解釈して出すみたいな、アーカイブをどう新しいデザイナーが解釈して今の時代に合った形で届けるか。もうどこでも当たり前になっているよねというお話でした。

以上、久々野智小哲津でした。

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