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ブランドになるための価格戦略

Voicy「コテツのブランディングと商売の話」コラム
読めばブランディングができて商売が上手くなる

このコラムは、コテツがVoicyのブランディングと商売の話で語った内容を文章化し加筆したものです。
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Voicyもお聴きください。

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Voicy No.0047 2021年9月29日収録
ブランドになるための価値戦略


原価から売値を決めるのは、大量生産品の考え方

価格をどう決めるか。これはブランドと、そうじゃない商売のやり方で違っています。俺は高級ブランドのことをブランドと言っているわけではないので、コテツのブランド論におけるブランドがどんなものかは、コテツラジオの他の放送で「ブランドって何」というのを説明していますので、まず1回それを聴いてほしいです。

ブランドといわれたときに想像するものは人によって全然違います。ある人はヴィトンだと思い、ある人はナイキだと思い、ある人はスタバだと思いますが、ブランドは別に有名であることでも高級であることでもありません。ブランドが何かを踏まえた上で、それを理解してもらっている前提で話を進めます。

ブランドになるものの価格の決め方と、そうではないものの価格の決め方があります。価格の決め方でベーシックなものは、原価から売値を決めるというやり方です。原価があって売値があって上代がある。それが一般的な商売において、よくあるやり方です。

積み上げ原価計算方式は、材料、工賃、配送費、倉庫保管費などの、この製品をお客様にお届けするまでの原価を全部積み上げ、その20%とか40%というのは分野や製品によって違うけれど、そのパーセント内に抑えるという約束事があって売値が決まります。

トランプを流通させようと思ったら、紙の金額、デザイン費、箱の金額がある。それをまとめて仕入れる場合は、仕入れてどこかに置いておかなければいけないので倉庫保管費があり、ネットショップで売るためにベースとか使うのであれば販売したときに取られるマージンがあり、送料を想定しています。

これに関して人が動いている金額をある程度上乗せして、全部でトランプ1つをお客様にお届けするのに300円かかりました。それに対して売値は30%とうちの会社は決めているので、売値は1000円です。1000円プラス消費税で売りましょうみたいなやり方が、本当に多いです。

しかし、これは基本的には高度経済成長、大量生産、量産品を売るときの値段の決め方です。大量につくるから仕入れや製造原価は下げられ、大量生産だからお得に買えますよというやり方で、広く買ってもらうやり方です。薄利多売型とも言えますよね。数を売る前提だから。

ブランドの価格は、相手が認める価値をプライスに反映させます。ファンの方が認めてくださる価値が先にあって、原価から決めるわけでもないというのが、ブランドのプライスの決め方です。ファンが認める価格でご購入いただく。それがブランドを信じているファンの方とのコミュニケーションの一貫だということです。

適正価格というのは日用品とか大量生産品における言い方です。適正価格って、そもそも売る人と買う人の間で合意した価値に対する値段付けで、納得していれば売る側と買う側で成立するわけです。

これもアートや骨董の世界でよくある表現だけど、ほかの人から見たらただの茶わんでも、ある人が見たら数千万円の価値みたいなことがある。ほかの人は「茶わんはご飯食べるだけで、こんなの100円ショップで売っている茶わんと何が違うんだ。適正なのは100円か500円だ」みたいなのに対して、骨董品でちゃんとした窯元でつくられたとか、ある先生がつくったものは数百万するのです。今の時代の存命の方でもね。

すると、これには適正価格ってないことになる。適正価格は生活必需品とか大量生産品においては言うべき話だと思うけれども、ブランドはそもそも、そこから外れているものだから、適正価格という概念とか、原価から考えるのをやめることになります。

例えば、コンサートやライブやグッズといえばタオルとかうちわです。ジャニーズのうちわは有名だと思うんですが、ジャニーズのコンサートで、うちわにはルールが決まっています。大きすぎてもダメだし、使い方にもマナーがあって、ほかのお客様が見えなくなるので、頭の上で大きく振るのはタブーだったりします。

うちわは原価いくらだと思いますか。よく家電量販店がお店の前でエアコンフェア開催みたいに、キャンペーンで夏場に配っています。うちわを無料で配るぐらいだから、無料で配れる原価ですよね。エアコンフェア開催のうちわもアーティストのグッズのうちわも、原価が仮に違うとしても、そんなに変わらないでしょう。

ジャニーズのうちわとか、矢沢永吉さんのライブで売っているタオルとかの原価をしっかり確認して、これが原価から適正なのかというのは本当にナンセンス。永ちゃんがコンサートで首から提げているタオルとエアコンフェアのタオルは同じものです。しかも、そのコンサートツアーのファイナル武道館でしか売っていなくて、矢沢永吉さんが首から提げて、目の前のステージで歌っていることに対しての価値なので、それに数千円という金額が付いていても買いますよね。思い出代ですから。

今のコンサートやライブは、ゲート収入やチケット収入という、お客様が入るときに払うお金よりも、グッズ収入が上回るアーティストは少なくないのです。オシャレなパーカーをつくってグッズもすごく工夫を凝らしているので、そこを提案する専門の会社もあるぐらいだから。

ブランドは、原価を感じさせない価値を持っている状態をつくっているのが必須の条件の1つでもあります。グッチとかヴィトンの鞄に「原価いくらなんだ!」とお店で怒っている人はいないものね。ワインもそうです。ワインはブドウじゃないですか。なぜ1本で70万とかになるのという。ブドウは種ですからね。

自分がやっていた高級チョコレートの価格もそう。よく高級チョコレートをやっていたときに説明を必ずしていたんです。コンビニで売っているチョコが100円~200円で買えて、なんで高級チョコレートが1粒300円とかするのというと、カカオをちゃんと使っているかどうかで、そもそも値段の大本が違うから。

カカオ味の砂糖菓子みたいなものも、コンビニでチョコレートとして売っています。カカオがちょっとしか入っていない、基本的には甘いお菓子というチョコレートと、カカオでつくっている高級チョコレートでは、もともとのつくり方も違えば、原価も違うというのは事実。それでも1粒300円ですからね。

ワインでいえば、買う側が、高い年代物の、この年のブランドワインを飲んでいるという気持ちとか、大事な方におつぎする大事な席で、すてきなレストランで記念日に高いワインを開けて、ついで差し上げて乾杯をするというセレモニー代ですよね。


ファンの方が価値を感じることが大事

何が言いたいのかというと、ブランドになっていったら、臆することなくファンの方に認めていただくプライスをちゃんと付けたほうがいい。というのは、日本人はこういうことをやりたがるし言いたがるんだけど、「採算度外視で」というのが好きだからです。

もちろん「採算度外視で」とか、利益が全然出ない売り方をするものがあってもいい。けれども「利益を取っている人はあくどい」みたいなのは違います。日本人はお金アレルギーだから、「儲けを出している? えー」みたいなことがあります。

でも、ビジネスとしてブランドをやっていく中で、クオリティーはどうやったら上がると思いますか。どうやったらファンの方を大事にできると思いますか。

これは全部、利益があるほうができるのです。利益がないとファンを大事にできない。「お客様を大事に」もできない。クオリティーも上げられない。なので、利益をきっちり取りながら、それを「これからのファンの方との関係を、もっと良好な状態につくるために使います」でいいのです。

グッチはブランドの展開として二面性があります。1つはトレンドをうまく取り込むこと。今のアレッサンドロ・ミケーレというクリエーティブディレクターが、例えばドラえもんとかとコラボをして話題をつくったりする。今のグッチは完全にストリートと、ハイブランドとして昔からアーカイブで持っているブランド固有の魅力をくっつけて、今の時代っぽくしています。

今のお客さんを引っ張ってくると側面と、もう一つ、今はコロナだからあまりやっていませんが、アルチザンイベントを結構手厚くやっていた時期があるのです。

アルチザンイベントというのは、イタリアからグッチの革小物とか靴とか財布をつくっている職人さんを呼んで、日本の銀座とか表参道のフラッグシップ店で、職人さんが革小物をつくっているところを見せること。そのためだけに職人を5人も6人も呼んできて、靴を縫ってくれたりするのです。

俺はアルチザンイベントに呼ばれて行ったときに、靴をその場でオーダーしました。だって職人さんが縫ってくれているんだもの。もちろんその場で言って、その場で縫うことは無理だから、靴のように手間が掛かるものは3~4カ月先に送られてきます。

そのときにいろいろ話を聞いたら、グッチに仕えている職人さんが代々住んでいる村があったのです。そこの村で次の職人を育てていかなければいけないから、こういう価格でもらっている利益の中から、職人さんが住んでいる村で次世代の職人を育てていくところにもお金を結構使っているんだよ、みたいな話をしてくれました。

それはそうだろうと思うわけ。靴をつくるのが仮に原価2万円だったとしても、靴を売るときには20万という、原価の10倍とかで売ったりしている。それはグッチというブランドが続いてきた歴史に対する信頼の金額と、すてきなデザインに対して敬意を表する金額と、職人さんがこれから100年先も、こういうものをつくり続けられるだろう金額が含まれています。また、そんなブランドを持っていることで、自分のライフスタイルを周りに表明するというお金も含めて払っています。無形のものにも払っているのです。

ブランドになっていこうと思ったら、無形でもファンの方と共有できる価値を持っていることがとても大事。無形なものというのは荒唐無稽なものではないですよ。ファンの方が求めているものを、ブランドがきちっと答えられる部分をつくり込んだ上で、そこにプライスをきちっと乗せていくのがブランドの価格の付け方です。

2~3日前にコテツラジオは収録しているのですが、ディズニーランドの価格改定が出ていました。9400円。

ダイナミックプライシングというのは、顧客の増減とか需要によって金額を上げたり下げたりすることです。9400円はダイナミックプライシングほどではないですが、繁忙期・閑散期、雨が降ったとき、人数が少ないときはぐっと値段を下げて、めちゃお客さんが増えてくると高くするまでいかないけど、土日と金曜日と平日でディズニーランドの金額がかなり変わっています。一番高い土日が9400円になったんだよね。それでも今コロナがあって赤字です。

ディズニーリゾートの価格で原価が気になる人はいますか。1日の思い出代みたいなところがあるじゃないですか。そういうふうにご購入いただくことを目指して、ファンの方に認めていただける価値をめいっぱい出すことを前提に、原価を抜きにして、原価積み上げ型ではない値付けをしていくのが、ブランドのプライシングのやり方です。

以上、久々野智小哲津でした。


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