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2022年の読書記録

2022年も終わるなあというところで、今年も年末に何か書こうかなあと思っていたところもあったが、最近、友人に「文章書いてて脳汁出るんですか?」と聞かれて、即座に「出ないです」と返答する、という出来事があって、それで、「あ、そういえば自分は文章を書いていてもそんなに気持ち良くはならないんだな」と自覚して以来、ちょっと書くことを止めていた。

脳汁が出る、という意味ではアプリなんかつくってるほうが出るわけだが、今年は例年以上に仕事で苦しんだ年だった。幸い、業績みたいな意味でも、活動の広がり、みたいな意味でもうまく行き過ぎるほどにうまく行っているのだが、まあ、やってて楽しいことと、求められて喜ばれるものの乖離が進んだ。日本での業務が増えたことでの逆カルチャーショックもかなりあったのだと思う。

夏くらいには、もう、自分のモチベーションがどこにあるのか、どころではなく、そんなものが存在するのかよくわからなくなってしまって、もうこれは無理だ、となって一度ショートしてしまった。

ショートした結果、秋くらいからはアフリカに行ったり、実開発の仕事を振ってもらったり、ひたすら調整モードに入って、寒風が吹く頃にはどうにかこうにか、ああ、一応自分はまだ何かつくる気はあるんだ、と確認して、ポジティブな状態で2023年を迎えることができそうではある。

一緒に仕事をしているいけこうさんが、さっき、「2022年に読んだ本・印象に残った本」という記事を公開されていて、ああ、これは自分も書きたいなあと思った。仕事でお世話になっている方と近所の蕎麦屋に行って、「蕎麦焼酎のそば湯割り」という、なんかすごい悪魔的な飲み物を飲んで、多少酩酊してしまったものの、年が変わる前に書いてしまいたい。

自分にとって文章を書くことは、ゾーンに入って没入するような行為ではなくって、自分が日々自分の内部に巻き散らかしている考え事を整理整頓することだ。

このタイミングで、今年の自分の生活や仕事と重ねて、主たる読書記録を残しておくのは良い整理整頓になりそうだな、と思ったので書いてみることにする。いけこうさんのように、大量には読んでいないので、6冊だけにしてみる。

失われた川を歩く 東京「暗渠」散歩 改訂版

リモートワークで、どこでもオンライン会議に参加できる日々。自分の場合、特に年の前半は、ほとんど会議しかやっていない会議廃人と化してしまって、そうなると、数時間オーダーで歩き続けて会議するとかも可能になってくる。どうせ作業はできないし、歩いているくらいのほうが会議に集中できる傾向すらある。座っていると別のことを考えてしまうし。

そんな中、今年ハマったものの1つが暗渠散歩だ。東京にはもともとたくさんの川が流れていたが、明治〜昭和の近代化に伴い、川には蓋がされ、「暗渠」化した。

暗渠がある道には、いろんな特徴がある。猫が多い、とか、クリーニング屋が多い、とか、道の方に建物の入口がない、とか。

この本を読むと、そういう暗渠を通して、過去の痕跡を読み取り、昔の町並みに思いを馳せながら散歩する上でのコツだったり、喜びだったりを、東京の様々な暗渠の紹介を通して感じて実践することができる。

この本には、「都心暗渠地図」「広域暗渠地図」という、東京の暗渠が詳細にマッピングされている非常に便利な付録がついているのもでかい。
暗渠散歩は、会議廃人だった今年前半の自分に少なからぬ喜びをもたらしてくれた。

小説家になって億を稼ごう

そんな感じで、毎日会議と資料作成ばっかりやっていたわけだが、自分は元来人とお話するのが得意なわけではないゆえに、そういう仕事を持続的にやっていくとすごく疲れてしまう。

資料づくりも、話すこと・伝えることをサポートするためのものなので、使う脳はどうしても同じになってしまう。

ゆえに、そういう仕事は、自分にとってはエネルギー効率が悪い仕事ということになってしまうが、逆に経済効率的には良い仕事だったりする(つまり、他の仕事よりも高い経済価値を出せたりする)。

この本は2部構成になっていて、前半が、いわゆる「シナリオ入門」的なものとは全然違う、非常に独特な物語の創造手法について書いていて、そのやり方が、ある種、勝手に動き回るキャラクターが勝手に紡ぎ出す世界で一緒に遊びながら物語をつくる、というもので、「あーこういうものづくりは、人としゃべらなくっても良いし、楽しそうだなー」ととても感じた。

後半は、「小説家としてデビューして、ベストセラー作家になってから心がけるべきこと・注意すべきこと」という、非常にニッチな人々に対するマニュアルになっている。

しかし、私のような「クリエイティブ業界である程度うまく行っている人」としては、この2部目も非常にうなずくところが多くて面白かった。「評論家にはなるな」みたいな教訓は、私のような仕事の人にも通じる教えのような気がする。

ヤクザときどきピアノ

パンチドランカーみたいな状態で日々を送る中で、救いになったのは音楽だった。

というか、わりとずっと音楽に救われ続けている人生を送ってきているので、特段珍しいことではないし、救われようが救われまいが音楽は聴く。

ただ、毎朝必ずピアノの練習をする、という習慣を中年もたけなわになってからの2020年4月から続けていて、この毎朝の練習は、いったん正気に戻って1日を始める上で非常に有効だった。

この本は、中年を迎えてから、ABBAの「ダンシング・クイーン」を弾きたくてピアノを始めた、有名ヤクザ専門ライターの著者が、本業と並行してピアノを練習する、というプロセスを描いたものだ。その中で、著者が体験する感動と喜びは、プロとかアマとか年齢とかが関係ない、表現することの面白さと自己肯定感と一緒に描かれていく。

「遅くに始めたからといって、俺たちはなんの損もしていないのだ」

という言葉は、ピアノに限らず、何にでも通じる何かだ。

秋になって、仕事を少し整理して、タンザニアに行って、現地の村の子どもたちとデジタルコンテンツを囲んで遊ぶ機会があった。単にiPadのホーム画面をスワイプするだけでキャッキャ言っている彼らの姿を、毎朝ピアノを弾いている自分と重ねて見たりもした。

史上最大の木曜日 クイズっ子たちの青春記1980-1989

もはや「アメリカ横断ウルトラクイズ」を知らない若い人も多い。日本テレビで毎年秋になると毎週木曜日に放送されていた、アメリカ各地を旅しながら繰り広げられるチェックポイント脱落型のクイズ番組だ。

チェックポイント脱落型、というのは、「サバイバー」とか「バチェラー」みたく、毎回だんだん挑戦者が減っていくような構造を持った視聴者参加型の番組のフォーマットで、「アメリカ横断ウルトラクイズ」は恐らくその走りとも言えるし、日本の80年代を代表するコンテンツだ。

何かの取材とかで「清水さんの原点は何ですか?」とかいっちょまえに聞かれることがあって、私は必ず「アメリカ横断ウルトラクイズ」と答えるほど、子供時代に夢中になって観ていた。

本書は、その中でも、一番の熱戦と言われる第13回アメリカ横断ウルトラクイズのドキュメンタリー小説、という非常にニッチな内容の本だが、野球でもサッカーでも音楽でもなく、「クイズ」に青春を捧げた若者たちが、日本のクイズ文化を何もないところから構築していくさまは、こう言ってしまうとアレだけれど、自分にとってはflashを中心としたインタラクティブコンテンツに血道を上げていた自分たちに重なってしまうところすらあった。

当時、番組をリアルタイム視聴していなかった世代でも、たぶん楽しめる内容になっているし、Netflixとかで実写作品にしたら絶対に流行ると思うし、その影響でウルトラクイズ復活したりしてくんないかなーと思う。

コンサル一〇〇年史

新卒でアクセンチュア(当時はアンダーセン)に入って経営コンサルタントになった、学生時代からの親友がいる。同じジャズのビッグバンドサークルで、同じトロンボーンセクションで楽器を吹いていた。そんな、近い存在である彼が、耳慣れない「コンサル」という業界に入った。

当時、「コンサル」って何なの? と彼に聞いてもあんまり要領を得なかったし、自分とは全く関係のない仕事だと思っていた。同時期に私は大学をドロップアウトして、バーテンやったりデザイナーになろうとしたり、30くらいまで迷走する。

30くらいでデジタルの制作会社に就職して、テクニカルディレクターという技術監督の仕事を始め、クリエイティブの会社をつくったりニューヨークに渡っていろいろ経験を積んだりしているうち、いつのまにか、アクセンチュアや、他の会社のコンサルの人たちと打ち合わせで同席することが多くなり、挙句の果てに、「テクノロジー・コンサルタント」的な立ち位置で仕事をやるケースすら出てきた。

ようやく、「コンサル」がどんなことをやる人なのかがわかり、全く違う仕事に就いたと思っていた友人がやってきた仕事とニアミスすることにもなった。

しかし、当然ながら彼と違って「正規ルート」でそうなったわけではないので、「コンサル」という産業の成り立ちと根底にある考え方、現状抱えている課題なんかについては全く知らなかったし、知ろうとも思っていなかった。

最近、ご紹介を頂いた「コンサル」の方と意気投合して仲良くなった。なんで仲良くなったのかというと、「中年になってピアノを始めた仲間」だったからだ。今の私はもう、「中年になってピアノを始めた人に嫌な奴などいない」ことを知っている。

そんな「中年ピアノ仲間」に、これ読んどけ、と言われて紹介されたのが本書だ。

この本は、仕事の中で「コンサル」と呼ばれる人たちとすれ違う人は必ず読んでおいたほうが良い本な気がする。コンサルタントという業種の歴史だけではなくて、業界が培ってきたやり方、それが生んでいる課題、みたいなものまで全方位的に丁寧に説明してくれている。

コンサルっぽい仕事を(やりたいかどうかは別として)やらせて頂く上で、知っておかないと文字通り損をする知識ばかりだし、コンサルな方々と一緒により良い仕事をする上でも、有用な情報が詰まっている。

何より、古い友人が何を思ってどういう仕事をやっているのか垣間見ることができて良かった。

アメリカ分断の淵をゆく 悩める大国・めげないアメリカ人

年明けは、しばらくぶりにアメリカに行く。ラスベガスのCESに行くのでニューヨークではないが、感覚的には帰る、みたいなところもある。

アメリカでずっと暮らしていて、幸いというか、たまたまというか、アメリカという国の闇にニアミスすることは多かった。FoxNewsから路上でインタビューされて全米が差別的な論点で炎上したこともあった。

ラスベガスで、アメリカ史上最多数の死者を出した銃撃事件があったとき、近くのホテルにいたこともあった。

この数年は、ニューヨークでコロナ禍とBLMとアジアンヘイトの渦中を体験した。去年のだけど、下記の記事も併せてご覧ください。

そこから垣間見えるどころか、思いっきり見えた、「ややこしいアメリカ」は、それでもしかし、都市という断面に切り取られたアメリカで、断面にまだら状に表出している「ややこしさ」は、断面の奥深くまで彫り込まれたものなんだよなあというのを実感させられてしまうのが本書だ。今年、一番人にお薦めした本はこれだと思う。


そんなこんなで、まあ2022年は、どちらかというと「苦難の年」で、それに伴う自分の拒絶反応と戦った年でもあったかと思う。こうして見ると、ここに載せなかった本も含めて、自分の読書履歴も、適応と拒絶の履歴だなあと思える。

来年もよろしくお願い致します。

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