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小さなすいか

こころの幸せレシピ⑪


シェフ :梯 真由美 

【材料】
 ・自分をいたわる気持ち カップ1

【調理法】
 ・五つの味と性質を意識します。

夏の代表的な果物といえば、
私の頭にまっ先に思い浮かぶのが『すいか』です。

すいかは、天然の白虎湯(びゃっことう)と呼ばれ
夏の、暑気払いに優れた働きがあるといわれています。

昔のように、井戸や谷川の水で冷やす程度が、
甘味も増して一番美味しいようです。
現代の環境では、自然の水で冷やすのは難しいかも知れませんが
からだを冷やす寒の性質がありますので、
冷蔵庫での冷やしすぎには注意が必要です。

東洋医学は、陰陽五行の理論を基にした医学です。
医食同源という言葉がありますが、
『食べること』は、こころとからだを健やかに保ついしずえです。

もちろん、食は楽しみのひとつですので、
美味しくいただくことで、明日の活力になり得るのですが
安易なストレス解消として、
毎日、好きなものを好きなだけ食べていたり
体質にあわない食事の組み合わせをしていると
徐々に心身を痛め、病気へとつながってゆきます。

東洋医学では、食材を五つの味に分類します。
酸(さん)・苦(く)・甘(かん)・辛(しん)・鹹(かん)
の味のものを、季節や体調にあわせてバランスよく食べる。

また、食材には体をあたためる性質と
からだの中にこもる熱を冷ます性質があり
熱・温・平・寒・涼に分類します。

五つの味と五つの性質の調和を大切に
食事を楽しみながら、病気にならないこころとからだを
育んでゆきたいですね。

       ・・・・・・・

小学生になる前、私は二階建てアパートの二階で、
道路端の角部屋。
6畳2間と、小さなキッチン付きの部屋に、
家族4人で住んでいました。

お風呂がなかったので、近所のお風呂屋さんに行くか、
小さな子供の足なら、20分くらいはかかったでしょうか。
おじいちゃんの家へ、もらい風呂に行っていました。

専業農家の長男だったおじいちゃんは、私の記憶の中では、
いつもタオルでほおかむりして、
つばの広い麦わら帽子をかぶっていました。
がっしりとした大きな自転車に乗っていました。
畑か田んぼか、庭で野菜の掃除をしているかで、
いつも働いていました。

夏、お風呂をもらいに行ったあと、
必ずすいかをもらって帰りました。
子供にはとても抱えられないほど大きいのから、
広げた両手に何とかおさまりそうなほど小さいものまで、6畳の部屋いっぱいに足の踏み場がないほど、
すいかがゴロゴロ転んでいました。

大きいのは、おじいちゃんが野菜と一緒に自転車で運んでくれていました。
いつでも食べきれないほど、家にはすいかがありました。

それでも、姉ちゃんと一緒にすいか部屋に入って、
おじいちゃんのまねをして、
指ですいかをポンポンつついて、
「これがおいしいかな~。」
「あっちの方が、いい音するな・・・。」
と、品定めをしたものです。

その上、20分の道のりを自分で抱えて歩いて帰れる重さを
あれでもない、これでもないと考えながら、
その日のお土産を決めていました。

あの橋を渡ったら、もうすぐ家に着く!!という時、
ご近所さんにあうと、
「家にたくさんあるので、食べてちょうだいね。」
と、胸に抱えた私のすいかを
母が、事もなげにひょいと取り上げて、あげてしまう。
「え~~~っ!!」と思いましたが、口にはだせませんでした。

「今日は、誰にも会いませんように。」
と願いながら重いすいかをかかえて、
橋をみつめていた幼い私を思い出します。

誰にも会わずに、無事に連れて帰れた小さなすいかを
真ん中ですっぽり二つに切ってもらい、
スプーンですくって食べるのが、何とも嬉しかったのです。

姉ちゃんの持ち帰ったそれよりも、
おじいちゃんが運んでくれる大きなものを
何等分にも切って食べるのよりも、
自分で持って帰ったすいかは、おいしいような気がしたものでした。

おじいちゃんが亡くなって36年が過ぎました。
すいかは私にとって、ゴロゴロ転がっているような
いつでもあたり前にあるものではなくなりました。

まるまる1個のすいかを見ると、
やっぱり指でポンポンしたくなります。
そして、鼻の頭に汗をいっぱいかきながら、
自転車でやってくるおじいちゃんの姿を、懐かしく思い出します。

【調理のコツ】
  調和を大切にしよう。

サポートいただきまして、本当にありがとうございます。 どなたかご縁のある方のこころの奥に、私の言葉が届くとうれしいな~。と思って 書いています。とっても励みになります。こころから感謝をこめて。                              板橋真由美