かりそめの coffee break?

……ンガッ。

肘が滑りバランスが崩れて、頭が勢いよく机にぶつかる。

うーん……。

……んあ、寝てたのか。重い体を机から起こし、くーっと伸びをする。……もう12時か。眠いわけです。

コーヒーブレイク中に突然仕事をクビになってから1ヶ月。

ついこの前やっと職探しを終え、別の仕事についています。しかし情勢のため、相変わらず家でノートパソコンと対峙する毎日です。でも今はちょっとだけ休憩。眠いときに仕事はできません。なので、今はアニメのネット配信を見ています。魔界に行くやつです。……なんて名前だっけ……まあいいです。

それにしても最近、急に冷えてきました。特に夜は尚更です。コーヒーだけではどうも耐えられません。

しかし……私には、いや、我にはこいつがァ……ある。

漆黒の断頭台(座卓)に魔の業火(電熱線)を放ちcloth(おふとん)をかけただけの代物だァ。そういえば魔界小学校の工作でそれっぽいものを作った阿保がいたなァ。
だが、そんなシンプルな奴は、我々悪魔族の越冬を全力で支えるどころか、返って冬眠を、いや永遠の居眠りをも促してしまう、面従腹背の象徴ッ……。

こいつの名は……そうだ……こたつだァ。(きらーん)

電熱線のジジジジというちょっと焦げた音が部屋に響く……一人でやる中二ごっこは物悲しさ以外何も産まないですね。やめましょう。

こたつ……漢字で書いたら炬燵。今にも火傷しそうな雰囲気です。

しかしそんな漢字の見た目とは裏腹に、こたつは私の足全体をじんわり温めてくれる。足の中で温められた血液が全身を巡り、寒さにふるえる体が、なんとなくほわほわしてきます。両手もこたつの中に突っ込んでみると、ますます温かい。とろけてしまいそうです。

「ほわわわあ」

つい声に出してしまいました。

それに加えて、あったかいコーヒーを用意しておけば、もう向かう所敵なしです。寒さなんてへっちゃら。コーヒーの芳しさに包まれ、こたつに身を委ねれば、もうそこは人間界に舞い降りた天からの恵み、冬のオアシスです。

フッと目の前が暗くなる。ああ、パソコンの画面が消えたのですね。

しかし何だか、こたつの中で安らかに眠る手を起こして、パソコンをつける気にはなれません。

机に頭をごろんと寝かせます。パソコンのキーボードにちょうど乗り、ボタンの反発力が適度に頭を支えてくれます。……なんだか、また眠くなってきました……仕事……まあいいや……ひとやすみ……ねむ……

……むぅ……すやぁ……むぅ……すやぁ……


その瞬間。

キーボードから突然針が飛び出してきた。
「ああああっ」
頭に刺さる衝撃で思わずバッと起き上がって目をかっ開き、頭の左側をさする。

あれ……血が出てない……


「……!、おい○○!居眠ってんじゃねぇ!」

目の前のノートパソコンに注目。あれ、なんで先輩が映ってるんだ……?さっきまで魔界にいたはずなの……

右を向く。窓が眩しい。直射ではないけれど、それでも寝起きの目には刺激的すぎる明るさ。時計を見る。

……なるほど。12時か。昼の。

冷めたコーヒーからわずかながら香ばしい匂いが漂っているような気がします。妙に落ち着いているのはそのせいでしょうか。

目の前で先輩が怒声をあげる中、私は冷めたコーヒーを一口……やっぱり温かい方がいいですね。

「おい、さっきから飄々としやがって、何とか言ったらど」

びちゃびちゃびちゃびちゃびちゃ

……私は何をしているのでしょうか。寝起きなのであまり頭が回りません。

とにかくわかることは、先輩にコーヒーを分けようとしたら、先輩が突然消えたこと。

それと……


今をもって、このこたつが、会社員としての私のクビを落とす漆黒の断頭台になったこと。

ふう……

……また仕事探しますか。

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