とんかつゼミナール
全ては唐突に始まった。
「ハンバーグみたいなコロッケ食べたい」
ハッキリとした意志に裏付けられている言の葉ではあるが、少々難解であり時としてそれは「謎解き」でもある。
我が子は我が家の君主であり、ほぼ全ての献立を決める権限を有している。
今宵、君主の欲するそれは、どうやら「メンチカツ」であったようだ。
私は急ぎ馬車ならぬ電動自転車を走らせ、君主を乗せてとんかつ屋さんへと向かった。
今のご時世、家計(というよりお小遣い)逼迫の折、決して余計な支出はしないと強く心に誓っていたのだが、気づくと言葉巧みな君主の手には1冊の絵本が握られている。
それでも
「(個人的トラウマとなっている)アイスクリーム屋での出費へと繋がらなくて、トータル的には少なくて済んだ…」
と胸をなで下ろしている私がそこにはいた。
(そのように考えている時点で完敗というか、戦意自体が皆無である)
おそらく君主はそれを全てお見通しなのではないか?とすら思う。
予め申し上げていた「今日はアイス屋さんには寄りません」という約束を守ったうえで、新たな交渉案を持ち出してきたのだ。
相変わらず食えない君主である。
家に帰り、調達したメンチカツ、ロースカツ、ヒレカツを御前に並べ、説明差し上げる。
一同いざ食べようとすると
「ロースってなに? ヒレってなに? メンチカツはどこ?」
と君主。
私は蔵書のなかから1冊の本を引っ張り出して、図を用いて御説明させて戴いた。
結局、君主はメンチカツだけを召し上がった…。
そして口周りをコントの泥棒の如く彩りながら好物のチョコレートアイスに舌鼓を打っている。
今日は家にアイスがあることを知っての「本屋へまっしぐら作戦」だったようで、またもや黒星を喫した私であった。
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