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朧月夜

「朧月夜は春の歌なんだ!」

ある夜、家人が夜の空を見上げながら口ずさんでいた『朧月夜』の歌詞にあらためて気付かされたようです。家に帰り着くなり呟きました。

そう今宵は朧月が出ておりました。

菜の花畠(ばたけ)に、入り日薄れ
見わたす山の端(は)、霞(かすみ)ふかし
春風そよふく、空を見れば
夕月(ゆうづき)かかりて、におい淡(あわ)し
里わの火影(ほかげ)も、森の色も
田中の小路(こみち)を、たどる人も
蛙(かわず)のなくねも、かねの音も
さながら霞(かす)める、朧(おぼろ)月夜

ご存知『朧月夜 (高野辰之作詞・岡野貞一作曲/文部省唱歌)』です。

歌詞をみていると

「菜の花畠」

「春風」

と、春の歌であることがわかります。

言葉遣いが現代語よりは古めかしくありますが、情景がありありと思い浮かんでくるような歌詞であることに気付かされました。

小学校の頃、音楽の時間に歌っていた頃はそこまでなにもわからずにおりましたが、それでも素敵なメロディであるとは感じていたものです。


霞始靆

七十二候では、2月23日頃が

霞始靆(かすみはじめてたなびく)

といい、
春霞がたなびき始める頃であり、春の霞んだ月を「朧月」と呼びます。


朧月は春の季語

朧月は空全体が霞んで見える春の夜の月を指しており、この言葉は主に春の季語です。

春の季語は旧暦の1月~3月を指し、新暦では2月~4月を指すのが一般的です。

したがって朧月は春先に使う言葉ということになります。例えば夏や冬などに霞んだ月が出ていても、それをみて「朧月」だとは言えないことになるようなのです。


朧月夜はなぜみられるのか

それは春にこそ見られる気象条件だからです。

春は移動性高気圧と温帯低気圧が交互に西から東へ通り過ぎることにより、寒暖差が激しくなるなど天候も変わりやすくなります。

気温差が大きくなると昼に温まった空気が夜になって急激に冷やされ、空気中の水蒸気が増えます。これこそが霧や靄の正体です。それらの水滴が空に浮かんでいる状態のため、空がぼやけて見えるわけです。

但し、近年は黄砂やPM2.5などによる大気汚染も朧月夜になる原因の1つとなっているというので、先人達が愛でた朧月夜とは少々趣が異なっているかもしれません。


朧月夜〜祈り

実はこの「朧月夜」の歌詞を検索していると、急に現代語の言葉が挿入されているものを見つけました。それは既存の前述の「朧月夜」の歌詞に以下の言葉が続いておりました。

聞いて 聞いて 瞳閉じたら 風の 星の 歌が聴こえる

これは『朧月夜〜祈り』というタイトルで、作詞高野辰之・中島美嘉、作詞・岡野貞一・葉加瀬太郎となっており、中島・葉加瀬両氏によって新たに書き加えられたものになっていたようです。

調べると中島美嘉さんによって歌われていることもわかりました。


植物の『朧月』

多肉植物のグラパラリーフ(学名 Graptopetalum paraguayense)。

以下の写真のものですが、どこかで見かけたことがあるのではないでしょうか?

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この植物は、メキシコ原産で、食べられるサボテンなのだそうです。

そして農林水産省により『朧月』という名前がつけられているのです。

皮ごと生食できるようで、

肉厚でサクサクとした歯ごたえが特徴で、

リンゴ酸を含んでおり、リンゴの風味がある。しかし、リンゴよりはやや酸っぱく、さわやかな味なのだそうです。

国内では、千葉県柏市において栽培されているようです。

これはお目にかかった際に、いつか食べてみたいものです。


おわりに

古来より我々日本人を魅了して来た「朧月」。

観ると惹かれるものがあります。

天体観測としては不向きな夜をも「朧月夜」として楽しんできた先人のDNAは、現代の私達にも綿々と受け継がれていることを実感します。


おしまい

最後までお読みいただきありがとうございます。 いただいたサポートは麦チョコ研究助成金として大切に使用させて戴きたいと思います。