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十九、二十(原田宗典)

私がいままで読んだ本の中でランキングをつけたとすると、この本はかなり上位に食い込んでくるに違いない。

この「十九、二十」という本は読んでいる読者をくぎ付けにし、裏切ったり衝撃的な展開や、一生忘れることのできないような運命的な出会いや心を引き裂かれるような涙を流すような悲しみを物語ったものではない。だが、ここには確実に心を動かす何かが描かれている。もしかしたら劇的な展開を好む人には向いているとは言えないだろう。例えるなら水溜りが揺れるような、タンポポの綿毛が風に吹かれるようなそれくらいの勢いでしかない。だがたしかにこの物語は私の心を震えさせた。

では、なにが描かれているかというと子供から大人になる瞬間がゆるりと書かれている。決してばっちりとではない。答えを教えるようなものではなく、背中を押すような感覚に近い。子供から大人になる瞬間は人によっては来ない人もいるかもしれない。レベルが上がる様なものでなく、成人になったとしてもそこからが大人の始まりでは決してない。しかしこの本ではそれが描かれている。


私がこの本を読んだタイミングが良かったのかもしれない。私はちょうど19歳だったころにこの本と出会い、あっという間に読んでしまった。尾崎世界観がこの本を紹介していたからこの本を知ることができた。クリープハイプに「二十九、三十」という曲がある。あのモチーフはこの二十九、二十なのである。

巻末の解説で解説の方が、人生を年齢で二分するなら十代と二十代だろうと言っていた(たしか)0~9歳は数えるにはあっという間すぎるし、30代からの人生は進んでいるというよりは終わりに向かっているようであるとしたら内面のアップデートくらいである。つまりいかに十代、二十代で感じられるかということは30代から先を生きていくうえで必ずかけがえのないものとなっていくはずだ。そのようなことをこの本が語っているようにも私は思えた。

ティーンエージャーにはぜひともこれを読んでほしい。なんなら高校の現代文の教科書に載せてもよいくらいだと思っている。この本はどこか心に引っかかる。そのひっかかりが気づきを与えて自分を見る機会になるのかもしれない。また今夜も読んでしまいそうだ。

https://www.shinchosha.co.jp/ebook/E640811/

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