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平壌の理髪師。ソウルの理髪師。

 約1か月半に1回。理髪店に行く。なじみの理髪師とコロナの現状を嘆き、よもやま話、床屋談義に花を咲かせる時間というのはぼくにとって、貴重な時間だったりする。

 理髪店にも色々あって、はさみを始めとする様々な道具、整髪料を扱う問屋という存在がいる。例えば冷やしシャンプーなんてものは、一定期間しか仕入れられない。夏を過ぎると問屋は扱いを止め、自然とサービスも終わるという話を聞く。ちょうどそんな話がひとつ終わったころに理髪が終わる。出来のいい1話もののドラマを見終わったような気分で、襟足を駆けのぼる風に少し首をすくめながらぼくは街に溶けていく。

 異国で髪を切るというのは、ひとつの冒険と言っていい。ぼくがソウルで通っていたのは延世大学の学校の中にある理髪店で、2000年当時で確か5000ウォン(当時のレートで約450円)という破格の値段だった。髪は自分で洗う。「短く」(짧게)というと大変なことになるので、長く(길게)という。普通(보통)というのはあいまいで怖い。理髪師の普通とぼくの感覚は、総じて合わない。国も性別もことばも違うのだ。ディスコミュニケーションしかない。

 北朝鮮において時々噂されるのは、男性が金正恩委員長と同じ髪型にしなければならない。そういうお達しが発出されたというもので、現地に行けばわかる。そんなのまるっきりの嘘である。

 金正恩委員長は祖父である金日成主席の外見を意識している。中国語の大人(ダーレン)を具現化したその姿を。その髪型をいち人民が真似するなどというのはむしろ無礼に過ぎる。危険だ。

 もうひとつ。髪型を選ぶことが出来ないというのがそれだが、これも違う。写真は北朝鮮の理容店の写真。女性のモデルの顔と、〇〇型と名付けられた髪型が並んでいる。この中から選ぶわけだが、100%これを選ばなければいけないというわけではない。

 案内員に聞いてみた。注文の仕方がちゃんとあるのだ。例えば「〇〇型で、襟足長め」。こんな風に頼むという。

 つまりこれはぼくたちがヘアカタログを見るのと同じではないか。選べる髪型が少ないのは確かだが、全く自由がないというわけではない。

 いつか平壌に駐在することになった時のことを思う。さて、どうやって髪型を指定すればよいのやら。どこで切ればよいのやら。外国人の多く宿泊する、高麗ホテルの中にたぶん理髪店はあったはず。そこで切ることになるのだろうか。

 平壌での床屋談義に、ぼくはソウルの理髪店の話をしようと思う。異国で髪を切る大変さに、さて平壌の理髪師はどういう反応をするだろう。

 夕暮れの平壌の理髪店で喉笛を晒す。剃刀がぼくの顔を剃る。その危うさを思うとき、ぼくは少しぞくぞくする。

■ 北のHow to その99 
 かつて平壌の理髪店で髪を切りたいとお願いしたことがあるのですが、案内員に厳しく拒絶されました。
 異国で髪を切る冒険について知るのは、長期滞在する在日コリアン。例えば朝鮮総聯の機関紙朝鮮新報の記者は、数カ月滞在するので必ず理髪の機会があるはず。今度聞いてみようと思います。
 長期滞在する街では、行きつけの店を見つけるのが楽しみですが、良い理髪店を見つけるコツは、案内員に聞くのが一番無難なのかも知れません。
 

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サポートいただけたら、また現地に行って面白い小ネタを拾ってこようと思います。よろしくお願いいたします。