[救急] ショック② 考え方

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[ショック③] 

[1] ショックとは

必ずしもショック=低血圧ではない。
ショックとは「組織への灌流が不十分なために起こる臨床的症候群」である。
酸素需要に酸素供給が追いつかない状態がショックであり、血圧が下がれば末梢や組織への酸素灌流量が低下してショックに至る。ベッドサイドで灌流の低下を推定するには脳・腎・皮膚の3つの窓から観察する。血液検査としては乳酸があり、1分以内に結果が出る血液ガス分析の機械を持つ病院もある。

[2] 組織への低灌流を推測する徴候

への灌流が低下すると意識レベルの低下として現れる。qSOFA(ショック①参照)でもGCSの低下を採用しているが、これは脳の組織への灌流量低下を反映している。

への灌流が低下すると尿量の低下として現れる。言葉の定義としては1日量として400mL以下を乏尿、100mL以下を無尿と言うが、救急の現場で1日も尿が出てくるのを見るわけにはいかない。また、体重が48kgの人と96kgの人を同列に考えるのは無理がある。そこで、0.5mL/kg/hr未満を尿量低下と捉える。

画像1

皮膚にも低灌流の影響が現れる。まだらな色や網状の模様になる状態でリベドという。毛細血管の灌流を見る方法としてCRT(capillary refilling time)もある。手指の爪を圧迫して白く変色させる。圧迫を解除するとすぐにもとのピンク色に戻る。この時間をCRTといい、2秒未満が正常である。CRTは災害医療や大規模事故の時に行われるトリアージ(START法)でも採用されており、やはりcut-offを2秒としている。CRT 2秒以上はトリアージで言うと赤=最優先治療群である。

[3] 組織への低灌流を反映する乳酸値

血清中の乳酸の値は組織の虚血を示唆する。細胞が生きていくためにはエネルギーが必要であり、通常はATPをエネルギー源として用いる。
ATPは主にグルコースを代謝することで得られる。グルコースを分解する解糖系=嫌気代謝と、解糖系で得られたピルビン酸のもつ余剰電子を酸素に渡しながら(つまりは燃やしながら)エネルギーを大量に生み出すTCA回路+電子伝達系という好気代謝がある。好気的なエネルギー産生は解糖系の18倍も効率がよく、1molのグルコースから36molのATPが得られる(解糖系では2mol)。

つまり、酸素供給量が不足すると好気的なATP産生が行えなくなり、ピルビン酸が蓄積してくる。ピルビン酸と乳酸はもともと平衡状態にあるが、ピルビン酸が溜まってくると「ル=シャトリエの原理」によりピルビン酸から乳酸が作られる方向へ反応が進む。
乳酸は好気条件下でクエン酸回路を回してやれば再度ピルビン酸に変換することができるし、肝臓の機能が保たれていれば糖新生の材料として消費することができるが、灌流低下があるといつまでも残り続けてしまう。これを血液検査で検出する。乳酸値は死亡率と相関すると言われているため、敗血症性ショックの診断基準(ショック①を参照)に含まれている。

[4] オマケ:ショック以外で乳酸が上昇する場合

乳酸は常に体内で生産されている。乳酸の消費が産生に追いつかなくなれば血清乳酸値は上昇してくることになる。乳酸が上がる原因を大雑把に二つに分ける。ショックによるA型高乳酸血症とショックのないB型高乳酸血症である。B型高乳酸血症の原因としては以下のようなものがある。

① ピルビン酸の産生増加; 全身性強直痙攣
② ピルビン酸のミトコンドリアでの利用障害; CO中毒、シアン化物中毒
③ ピルビン酸と乳酸の平衡状態が傾く; アルコール中毒、メタノール中毒
④ なぜか乳酸が上がる; リンパ腫、白血病

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