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映画館とソーシャル・ディスタンス

この新型コロナウィルス感染症拡大を受けて、映画館も昨年の5~6月あたりは閉館が目立ち、7月ぐらいからぽつぽつ再開し、そして9月には条件付き(飲食しない場合)で全席販売を可とするなど、徐々にではありますが通常営業に近い形になってきた印象です。

自分は札幌市に住んでいるのですが、札幌の映画館だとミニシアター系のシアターキノは座席に布がかけてある席はご遠慮くださいとのことで、やんわりと間隔を開ける形になっています。
たまに無視してなのか気がつかずなのか、座っている人もお見かけしますが・・・。

それからミニシアター系などの映画館などを除くと、ほとんど全てが指定席制でオンラインで事前に座席指定でチケット購入ができるようになっています。
札幌でも、上記のシアターキノ以外の映画館は全てそのようになっています。

自分も行く予定が確定したら事前にチケットを購入するので、あとは時間に間に合うように映画館に行けばよいだけなのですが、指定の席に行ってみると、真隣に他のお客さんが・・・こんな経験はないでしょうか?

ということで導入が長くなりましたが、今回は映画館とソーシャル・ディスタンスについてです。

ソーシャル・ディスタンスとは、元々はパーソナルスペースにおける考え方の一つです。

アメリカの文化人類学者、Hall(1996)は、動物の縄張りのように人にも心理的な縄張りとしてのパーソナルスペースが存在しており、それを決定づける要因の1つが対人距離であると考え、対人距離を以下の4つに分類しています。

1. 密接距離(intimate distance)・・・ 0~45cm

この距離は相手に直接触れることが容易である距離(0cmは接触した状態であること)で、恋人や家族などごく親しい相手のみに許容されている距離感で、そうではない人がこの距離に入ってくると強い不快感を感じる。

2. 個体距離(personal distance)・・・ 45cm~120cm

この距離は両者が手を伸ばさない限り接触することができない距離で、相手の表情を読み取ることができ会話をスムーズに継続できる距離感で、友人や家族などある程度気心の知れた相手とのコミュニケーションにおいて最適な距離感である。

3. 社会距離(social distance)・・・ 120cm~350cm

この距離は両者が手を伸ばしても届かない距離で、かつ会話などの1対1のコミュニケーションはギリギリ可能な距離感のため、知らない相手との会話や上司への報告・連絡などに適した距離感である。このコロナ禍でさんざん使われたことで一躍有名になった感もありますが、だいたいこれぐらいの距離感ということになります。

4. 公共距離(public distance) ・・・ 350cm以上

この距離は1対1のコミュニケーションは成立しづらく、講演会のように1対多数のコミュニケーションなどの距離感である。

以上、4つの距離に分類されており、相手との関係性や目的によって適した距離感が変わってくる、とりわけ、あまり親しくない人に必要以上に近い距離に来られると不快感を感じることになります。

なるほど、映画館でも真隣に来られると距離感としては1の密接距離になってしまうため、不快感を生じやすいということがわかりますね。
もちろん、満員電車やエレベーターなど、どうしても近づかざるをえない場合はあるでしょうし、映画館でも公開当初の「鬼滅の刃」のように毎回満席となっているのであれば仕方がないとは思うのですが、問題はそれほど混んでいない映画館にも関わらず、真隣を指定されるとういことなんですよね。不可抗力でもないのに対人距離を詰められるというのがやはり不快感の原因になるのではないでしょうか?

そこで、「なぜ、それほど混んでいない映画館で真隣の席を指定してしまうのか?」についての考察です。

1. ピンポイント座席指定派

シネコンで働いている知人から聞いた話ですが、座席指定の説明をしようとすると「G-12席で!」みたいに座席番号を言ってくるお客さんがたまにいるそうです。
これならば自分がたまたま「G-11」など隣の席を購入していた場合には真隣に来てしまいますね。
もっとも映画館のスタッフが「お隣に他のお客様がいらっしゃいますがよろしいですか?」などと確認してくれていればそうはならないかもしれないし、その上でどうしてもその席が良い理由があるなどでなければ起こらないので確率的には低いかもしれませんが・・・。

2. こだわらない、気にしない派

適当に指定したらたまたま隣にお客がいた、それだけ、という感じの人。これは結構多いんじゃないかと思っています。隣に人がいようがいまいが気にしない、いちいち席とか選ぶのめんどくさいから座席指定画面で適当に押すというこだわりのない派の人です。対人距離の意識が全くないという人も時折見かけます。いきなり間近まで迫ってくる人、そうではなくとも距離感をよく分かっていない人もいるかと思います。こういうタイプの人は距離感そのものに無頓着なので、映画館でも特に気にならないのかもしれませんが、このご時世なので多少は意識してくれるとありがたいですね。

3. システムが良くわからない、使いこなせない派

オンラインでの予約とかよくわからん!というタイプ。このタイプも自分でやろうとすると座席指定のときに適当に選んでしまうのかもしれません。ただどの映画館でもわからない場合はスタッフが教えてくれるでしょうし、対面販売で購入することもできるとは思うので、その場合は素直にそうしていただきたいというのが本音ですね。自分も招待券などで窓口で対応してもらうこともありますが、その場合はたいていこちらから言わなくても、両隣が空いている席などを教えてくれます。

4. システムの問題

3とも多少かぶりますが、個人的な考察として最近はこれが一番有力じゃないかと思っています。
というのも、体感ではユナイテッド・シネマよりも札幌シネマフロンティアでの方がこの真隣案件が多いように思います。

札幌シネマフロンティアの座席指定システムがコレ。

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青色が空席で灰色がすでに購入されている席となっています。
確かに上に凡例も示されているのでこれで十分わかりますし自分も不便だとは思ったことはないんですが、凡例が上部なので気がつかない、見ない人がいる可能性があること、そして色弱や色盲など色の認識がうまくできないタイプの人だとなかなか区別がつかないのではないかと思われます。
そのせいで隣の席が購入済みかどうかの判別ができない、しづらいということが結果として真隣の席を取ってしまうことにつながるのではないでしょうか?

ちなみにユナイテッド・シネマの座席指定画面はコチラ。

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うん、アイコンが人型になっているので凡例がなくても直感的にわかるようになっていますね。
またアイコンとは色の濃さで明らかに異なるので、おそらくは色弱や色盲の人などでも判別可能でしょう。

詳しい説明や注意を読まなくても直感的に正しい使い方がわかること、これはユニバーサル・デザインの必須条件ともなっています。
札幌シネマフロンティアさんもシステムの入れ替えなどの機会があれば、こういう形にしてもらえればなあと思っています(ディスっているわけではありません、念のため)。

とまあいろいろ考察を書いてきましたが、自分としてはゆったり快適に見たいと思っています。
なので人気作はいつも公開からだいぶ経ってから見ることが多いです。
「鬼滅の刃」も今年に入ってからようやく見に行きました。

なにかのきっかけでこの記事を読むことがあって、座席の位置とか隣に人がいるとか気にしたことなかったという方がいらっしゃいましたら、なにかの気づきになってくれれば幸いです。


引用文献:
Hall, E. T. (1966) The Hidden Dimension. 日高敏隆・佐藤信行共訳(1970) 隠れた次元. みすず書房.

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