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【後編】「孤軍奮闘型リーダーのマインド」と「ファシリーダーのマインド」


本稿の前編では、敢えて1on1のディメリットに意識を向けるとともに、ディメリットが助長される原因が「孤軍奮闘型リーダーのマインド」にあるとお伝えしました。

後編では、「孤軍奮闘型」をどの方向に転換していけばよいのか、新時代のマネジメント手法「ファシリテーション型マネジメント」のご紹介と合わせて扱います。


マインドシフトを支援する場

(株)ピュア・エッジが提供している Edge Faci-Leader は、4カ月にわたる「ファシリテーション型リーダーシップ開発トレーニング」です。

「ファシリテーション」という言葉を聞くと、「会議の司会進行の手法」というイメージを持つ方が多いのですが、Edge Faci-Leader は、「リーダーシップ開発」のための場です。

基本的なスキルは1on1と同じですが、一度に多人数に働きかける「ファシリテーション」を日常的なマネジメントに活用する新しいリーダーシップのスタイル、それを支える土台となる新しいマインドの醸成に焦点を当て、チームメンバーの多様性を活かして組織力を上げることができる新時代のリーダーを育成するのが、Edge Faci-Leader の狙いです。

トレーニング期間の4カ月、人の考え方や行動パターンはどうして多様になるのか? その多様性とどのように向き合えばいいのか? といった知識とスキルを学びます。そして、20名ほどの受講者が臨在する場の広がりの中で、 “人の発想や行動ってこんなにも多様なんだ!”という現実に遭遇します。一定期間集中的に、知識・スキルのインプット&アウトプットを継続し、試行錯誤や意識的な自己選択を繰り返すことで、頭の理解と実体験とが一致して、自然とマインド(捉え方や思考の傾向性)が変化するように設計されています。

私が「ファシリーダーのマインド」と呼んでいるものと、前編でご紹介した「孤軍奮闘型リーダーのマインド」を対置してみましょう。

「ファシリーダーマインド」を備えた複数のアシスタントメンバーが生み出すその場のカルチャーは新鮮です。正否を決めつけずに興味を持って聞いてもらえる心地よさ、相反する意見を軽やかに交換しながら一緒に新しいものを生み出していく楽しさや充実感があります。Edge Faci-Leader の場は快適で生産性が高いので、受講者は自然と、自分も「こういう場」を生み出せるようになりたいと思うようになります。

ところが、学びの期間中、自分の職場では全く違う現状に直面します。これまではなんとなくスルーしてきた、共感できない人・消極的な人・癖が強くて扱いに困る人・表面的な発言しかしない人などが混在する環境で、自らの働きかけで場の質を変えていこうとするのですから、すぐにうまくは行きません。

そして、そのプロセスで

  • 自分は、どんな感情反応に見舞われていたのか? その感情はどこから来たのか?

  • なぜあの人が苦手なのか?

  • 自分や周囲の人の言動の背景は何か?

  • 自分はどうありたいのか?

こうした問いに何度も立ち戻り、人間の心理や自分への理解を深めていくのが Edge Faci-Leader の学びです。

心を開いて話し合える仲間たちと、楽しいことも痛みを感じることも体験しながら、受講者は気づきを手に入れ、マインドシフトが起きていきます。

1on1のための “高地トレーニング”

受講の中盤以降の時期になると、過去に 1on1 の研修を受けていない方でも、職場で自分が提供している 1on1 の質が劇的に改善するのを体験します。

Edge Faci-Leader で “大勢で意見交換する場” に身をおいて学んだからこそ獲得できた、「人は本当に多様で、相手の考えていることは本人によく聞かないとわからない」という知識と実体験に根差す立ち位置から、自分の意見を口にする前に目の前の相手に興味をもって耳を傾けて、ごく自然に質問やフィードバックをするようになっているので、部下の発話量が増え、これまで口にしなかったことを積極的に話してくれるようになるのです。

複数の多様な人達と同時にかかわる “高地トレーニング” で鍛錬を積んできたのですから、1on1 には余裕が出ます。対話の相手がたった一人ですから、シンプルでやり易いと感じてリラックスして臨むことができ、実際に成功体験を重ねられるので、自信につながります。

「ファシリテーション型マネジメント」の影響力

Gallupの2023年版のエンゲージメント調査では、グローバル平均のエンゲージメントレベルが23%なのに比して、日本は5%でした。会社も仕事も大好きで、自立的に働く社員の比率がたったの5%です。言われたことはやるけれど、組織との心理的つながりは乏しく、1年以内に転職の可能性がある社員が7割に及びます。同じくGallupの調査では、上司が部下のエンゲージメントに与える影響は70%を占めるとのこと。上司の関与を変えることが、部下のエンゲージメントを高め、主体性を引き出し、離職の傾向を抑制するために重要なことは言うまでもありません。

その流れで、上司のコーチ的な関わりが重視され、「いざ 1on1!」となっているのだと思いますし、反対するつもりもありません。ただ、上司がメンバーにかかわる局面を一対一に限定してしまうのは、大変もったいないと思うのです。

「ファシリテーション型マネジメント」の特徴は、上司・部下の一対一の世界の外に「職場」という広がりを創り出し、私たちの視野を拡大することにあります。

「ファシリーダー」は、複数の人が集まる場で、意識的なコミュニケーションを心がけ、そこに居る人たちが高い心理的安全性の中で自由に意見を言える空気を作ります。メンバー同士がお互いを深く理解し合えるように、Aさんが言語化していないことを救い上げて代わりに言葉にして場に共有します。全員が集中して考え、意見交換ができるように、場に対して問いを投げかけます。

上司が、メンバー全員に向かって働きかけ、メンバー同士がお互いを理解し認め合う橋渡しをする「ファシリテーション型マネジメント」をすることで、メンバーは多様な人達が集う「場」の一員として心地よい居場所を得ることができます。上司とのやり取りだけからでは見えてこなかった、自分や仲間たちの特徴や強みを発見します。更に、「ファシリーダー」をモデルとしながら、違いを恐れずに建設的に意見を交換する関わり方を学習していくことができます。こうした場が定着していけば、時間と共に多様性が組織力になる文化が育っていきます。

相互理解と信頼でつながった仲間が集う「職場」は、私には見えていなかったものを見せてくれる、様々な観点から私を認め、支えてくれる豊かな世界です。人は、特定の誰かとの関係性に依存するよりも、複数の人達とのつながりの中に居る方が安心感が増し、自由さが感じられ、刺激も多く、成長スピードも上がります。こうした環境の中で行われる1on1は、おそらく従来とは違う付加価値を持つでしょう。

肩の力を抜いて、仲間と支え合いながら楽しくやっていかれる組織づくりのために、是非「ファシリーダーのマインド」を培って、「ファシリテーション型マネジメント」と効果的な 1on1 を十全に使いこなしてください。


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