見出し画像

【読書日記】12/4(996字)

少しずつ読んでいたトーマス・ハーディの英語の詩集を今朝読み終わりました。ハーディは『テス』で有名な19世紀のイギリスの文豪です。小説も詩も書きました。”Far from the madding crowd”と言う小説を読んだことがあるのですが、プロットが劇的で、登場人物の描き方に深みがあり、自然の描写が美しい素晴らしい物語でした。

この詩集には叙情的な短い詩が多く収められています。男女の恋愛の機微や英国の田園の美しさ、生の悲哀と言ったものが詩の中で描かれて、深い余韻を感じるものが多かったです。

もともと建築家を目指していたそうで、古い教会の建物を書いた詩もあります。これは小説を読んだときも感じたことですが、構成が緻密で一つ一つの作品が良く練られています。建物を設計する感じで文学作品も作り上げたのかもしれません。

詩の中で描かれた昔の英国の情景に懐かしさを感じます。まだ自然がそれほど破壊されておらず、普通の人たちが、人間らしく暮らしていた時代の貴重な記録と言った趣です。「古い家具」と言う詩の中に、私には家具を所有していた人たちの世代ごとの手が見えるという表現があります。大切に使われた家具が受け継がれていったという詩的な表現で、心に残りました。

ハーディーが生きた時代は19世紀から20世紀の初頭で、社会が大きく変化した時でした。暗い言い方をすれば、人間の生活のぬくもりが資本主義によって破壊され始めた時代です。それを肌で感じて、言葉で表現しようとした作家と言えるかもしれません。

強烈な印象の残す短い詩を一つ訳してみます。「1924年のクリスマス」と言う題です。

「地には平和を!」と言われた。私たちは平和を歌って、
平和が実現するように、司祭たちに多くのお金を払った。
ミサが2000年間繰り返された後で、
今のところ毒ガスしか手に入らない

ハーディの強い怒りが感じられます。作家らしい感受性で、戦争によって普通の人々の生活が、めちゃくちゃにされることを見通していました。ハーディの時代は毒ガスでしたが、今は原子爆弾です。

戦争に対して一般の人は無力ですが、ハーディの想像力や感受性は受け継ぐことができます。よく文学は現実の世界に対して無力だと言われます。でも小説や詩を読むことで自分の内面を変えて、現実の世界にきちんと向き合えるようになります。ハーディのような優れた作品を自分の血肉にしたいです。





この記事が参加している募集

#読書感想文

189,141件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?