英語論文をどう書くか 〜素人の独り言〜
※ 今回の話は学生など、英語論文を書いたことがない人へ向けた記事ですので、ベテランの方には何の参考にもなりません。どちらかというと、提案があれば教えて頂きたいです。私もまだまだ素人ですので。
こんにちは、ぷにぷにアザラシです。
ずいぶん久しぶりの投稿になりますが、この度、peingにてこんな質問を戴きましたので、久しぶりに筆を(キーボードを?)とることにしました。
初めての英語論文、確かにとても手こずりますよね。私も今でも手こずりますが、それでも数本の英語論文を書いたおかげで、学生時代よりかはずいぶんとマシになりました(まだまだ修行が足りていませんが)。さて、では一体、英語論文を書くときに何を注意すべきなのか?今回は昔を思い出しつつ、そんな話題でお送り致します。
1. 英語は自分で書いてはいけない
まずは大前提。英語は自分で書いてはいけません。ついにとち狂ったか、などと思わないで下さい 笑、これは本当に重要な点なのです。
特に学生にありがちなこととして、今までに習ってきた英語文法や語彙で、自分なりに書こうとすることがあります。大学受験で英語が得意だった学生さんの中には、おそらく私より英語が堪能な人も多いでしょう。しかしたとえそうであったとしても、特に初めて英語論文を書くというときには、自分の英語で書いてはいけないのです。
例えば、「培養細胞においてZ処理によっておきるX現象には、geneBではなくgeneAが寄与していることが、私達の実験により明らかになった」という日本語を英語にしたいという場面に遭遇したとします。これを英語で書こうと思えば、
という2通りの表現方法が、少なくとも考えられそうです。素直に英訳すれば、おそらく1. の方になるのではないでしょうか?
しかし実際には、2. の書き方の方が(科学)英語論文としてはしっくりくるように思います。特に動詞の時制について、こういうときはほとんどの場合、現在形で示します。1. の方はそういう意味でも少しアヤしいのです。
これが、「英語を自分で書いてはいけない」の正体です。どれだけ意味が正しくとも、普通は書かない表現がある、ということをまずは知って下さい。
2. 英語の情報を集める
ではどうやったら、科学英語論文らしい英語を書けるのか?こればっかりは、日本語が母国語である以上、英語論文を真似するしかありません。しかし、やみくもに英語論文を漁っても欲しい英文にはたどり着かないでしょう。以下のような点を参考に、とりあえず全部で10本以上は集めて下さい。
A.は誰しもが考えるかと思います。自分の所属研究室の論文であれば、つまりは自分の先生の書いている英語を参考にできるので、わからなければすぐに本人に聞けますし、先生からしても、自分の英語を書いてくれるとても読みやすいです 笑。もちろん、完全コピーはいけませんが、論理展開や、英単語の選び方、表現の仕方などは大きく参考にできるかと思います。
B. や C. は、先生や先輩の書く英語以外に自分の色を取り入れたい時に使用します。B. はintroductionやdiscussion、Cはresultやmaterials & methodsを書くときに大いに参考になるでしょう。もちろん完全コピーはいけませんが、その筆者の表現の英単語を変えてみたり、2, 3本の論文の文章を合体させてみたりして、英語らしい英語を書いてみて下さい。もちろん、論理展開も参考にしましょう。
D. は意外と思った方も多いかも知れません。しかし、日本人の書く英語はやっぱり日本人にとっては非常に読みやすいことが多いです。おそらく、ほとんどの日本人は、日本語で考えてから英語を書いているため、思考回路が少し似ているのではないか、と思います(言語は文化を創りますしね)。なので、自分にとってしっくりくる表現がみつかりやすかったりします。もちろん、アメリカ人の論文の英語は大いに参考にすべきですが、少しだけ日本人の論文も混ぜておくと、何かと役に立つかも知れません。
3. 英語を調べる
2. のように参考にする論文を用意して、いざ論文を書こうと思っても、どこかで必ず躓きます。なぜなら、あなたの論文には、あなたが世界で初めて見つけた現象が含まれているからです。そういう、誰も書いたことがないようなものを書くときにはどうするか。当然、もう自分で英語を書くしかありません。しかし、そんな時に書いた英語をちゃんとチェックして欲しいのです。文法だけではなく、科学英語として正しいかどうかを。以下では、そんなときに使う ライフサイエンス辞書 と Google scholar の使い方を簡単に紹介したいと思います。
3.1 ライフサイエンス辞書
まずは、以前ご紹介したライフサイエンス辞書です。(紹介記事はこちら)
特に、この記事の4. で書いた「例文検索(コーパス)」を使って、使用した動詞や名詞、副詞、形容詞などの組み合わせが、本当に科学英語の世界で使用されるものなのか、必ず確認するようにして下さい。
例えば、「脳」という日本語を英語にするとき、「brain」と英単語はすぐに出てくると思います。では、「脳の中で」という日本語は英語にすると、"in brain" でしょうか?それとも "in the brain" でしょうか?実際、ライフサイエンス辞書の例文検索で "brain" を検索してみますと、
in を黄色でハイライトしましたが、inの後ろにはすべて "the" が来ていることがわかりますでしょうか(ひとつだけthisですが)。 つまり、"in brain" とは基本的には書かない、ということです。こういう、些細そうにみえてかなり重要なところを、しっかりとひとつひとつ調べるようにして下さい(大変ですけれど、かなり力がつきます)。
使い方としては、"@" を駆使することをおススメします。この件についても、前回のこちらの記事を参考にしてみてください。
3.2 Google scholar
次に紹介するのがGoogle scholarです。上の "in brain" と "in the brain" の例を、Google scholarでもやってみましょう。まずは"in brain"。
200万件くらいヒットします。「in brainでも結構書かれているじゃないか!嘘つき!」と思った方もいるかもしれません、が、ちょっと待ってください。一番上はともかく、それ以降、"brain disease" "brain slices" "brain research" と、"brain ~" が多いことがわかります。つまり、「脳の中の」という書き方では、やっぱり "in brain" は少ないということです。同時に、「脳の~で」というときには the がつかない、ということもわかります。
では次に"in the brain"。
こちらも200万件くらいヒットします。しかし、"in the brain" は先ほどとは異なり、全部後ろに何も来ませんね?このことから、「脳の中の」と書き示す時は、in "the" brain である、とわかるわけです。
Google scholarでの検索方法ですが、
あたりは使えると思いますので、是非参考にしてください。
3.3 どちらを使うのか?
ライフサイエンス辞書でしっかりと引っかかるのであれば、わかりやすく使いやすいのではないかと思います。しかしライフサイエンス辞書は、収録数ではもちろんGoogle scholarに負けますので、どちらも時と場合に合わせて使い分けていくことをおススメします。
また、最近SNSでよく絶賛されており、私も最終手段としてたまに使うDeepLがありますが、DeepL自体は科学英語に特化していないことと、無料で使っていると勝手に情報漏洩していきますので、くれぐれも注意して使うようにしてください(私は有料アカウントユーザーです)。
4. 英語の論理を確かめる
英語の単語があっていても、これができていないと「???」な文章になってしまいます。例えば、
という文章、何がおかしいかわかるでしょうか?意味としては、Helicobacter pylori(ピロリ菌)に感染すると、stomach cancer(胃がん)のリスクが増える、と言いたいのだと思います。
ここでfollowの意味をライフサイエンス辞書で見てみると、
とあります。【用法】の2つ目に、似たようなものがありますね!これと比べると変なところがわかりますでしょうか?そうです、受動態にしないと意味不明なのです(原文ママだと、「ピロリ菌の感染は胃がん発症リスクの増加の後に起こる(=胃がん発症リスクが増えたらピロリ菌に感染する)」となってしまい論理が真逆になります)。ですので正しくはこうすべきでしょう。
followはかなり有名なところですので、おそらく「こんなことでは引っかからない」と思っている方も多いと思います。しかし修士論文や博士論文など、長い文章をずっと書いていると、自分の頭の中では既に正しい論理があるので、書き損じても気付きにくいのです。たとえば1日空けてみるなど、色々な工夫をして、自分で自分の論理をしっかりと確認できるようにしてみてください。
5. おわりに
いかがでしたでしょうか?DeepLやGoogle翻訳は非常に優秀なので、英語論文も書けそうですが、上に書いたことは、たとえ自動翻訳で完璧な英語に仕上がったと感じても、やはり必要な作業ではないかと思います。ちなみに、私が初めて英語論文を書いたときに指摘されたことこそ、1. の「自分で英語を書くな」でした。当時はとてもショックでしたが、今では本当に良いアドバイスだったと感謝しています。私自身、英語は得意な方ではないですが、それでも何とかそれなりには形にで切るようになってきているので、皆さんも是非、今の大変さをバネにして、すばらしい英語論文を書いて下さい。いつか皆さんの英語論文を読める日を楽しみにしております。
お心をもしも戴くことができましたら、励みになります。