余所の家で水を飲む
サントリーの天然水さんとnoteさんがどうやらコラボっていらっしゃるようで、未来に残したい風景についてあれこれ募集中だそです。
ここはひとつ、小生も、伝説のエッセイストである吉田兼好さんに倣い、徒然なるままに、日暮らし、タブレットに向かひて、心に移り行く湯船とサウナを、そこはかとなく書きつくってみむとてするなり。
ええ、残したい風景とは銭湯です。風呂馬鹿ここに窮まれり。文体が安定しねえな。自分は文系の人間ですが、古文は苦手だったんですよ。
もし吉田兼好さんと対談することになったら、なんも喋れないと思います。事前に吉田兼好さんのプロフィールを徹底的にリサーチして臨まないと無理。それは吉田豪さんだな。とにかく、銭湯はいいぞ。
現代の一般家庭のほとんどには風呂が付いているはずで、もちろんうちにもあります。身体を洗うことも、湯に漬かることもできます。
給湯器もあるので温度を自由に設定でき、限りなく水に近いぬるさにすることもできるし、50度くらいに設定して熱湯コマーシャルごっこをすることもできます。
ものすごく余談ですが、熱湯コマーシャルというのは今ではダチョウ倶楽部の上島さんの｢押すなよ！絶対に押すなよ！｣のネタで有名ですが、かつてはグラビアアイドルのお姉さんが放送中に水着になって飛び込む、ちょっとエッチな内容だったことをここに記したい。
このテキストもいずれ、『徒然草』のように当時の世俗を記したものとして研究されるかもしれませんからね。…………5万年後くらいに。
そんなふうにして、風呂に困ることなどまずなくなった今、なぜわざわざ銭湯に行くのか。
ひとつは、家に風呂はあってもサウナと水風呂はないから。もうひとつは、余所の家にお邪魔している、という感覚が楽しいから。
大人になって、友達が結婚したり、遠方に引っ越したりすると、親戚以外の余所の家に入る、という機会がめっきり減ります。
自分の家の構造やしきたりについては、毎日のように帰ってきているから隅から隅まで把握しているわけですが、当然ながら、住んでいる人が違えば家の雰囲気も違う。
テレビは台の上に置くのが常識だろうという人もいれば、フローリングの上にじかに置いて寝転がって視る人もいる。
いつでも読めるように本棚に巻の順にきちんと漫画を並べている人もいれば、読みたいときに探して読むからと段ボール箱に雑に入れる人もいる。
そういう違いを見るのが好きで、なおかつ、そういう違いを見ることで、自分の固定観念を和らげることができていたように思います。
歳を取ると頭が固くなるといいますが、これは自分の地位や人間関係が安定して、あんまり新しい場所に行く必要がなくなり、新しい人脈を作る必要もなくなるからじゃないかと思います。
ちょっと前にTwitterで、30歳で人生はほとんど終わり、みたいなことが議論されていましたが、そういう人は30歳までにひととおりの旅行をして、それなりにモテて、車を一括払いで買えるくらいにはお金持ちになれた人なんじゃないの？という感想を持ちました。
自分は20歳くらいまで近畿圏からほとんど出たことがなく、そのぶん東京に初めて行ったときの感動は未だに覚えているし、今でも、知らない土地に行くのはどこであっても面白い。別に観光地じゃなくても面白い。
地元のローソンとかでも面白い。自分の知らない新しい場所がまだまだあるんだな、と思えるからです。
ローソンの店員さんは地元のそれと同じ制服を着ているし、売っているからあげクンの種類も同じだし、なんならトイレの配置も地元とたいして変わらんのですが、それでも面白い。
たぶんそういうのは、小さい頃から日本全国を巡っていたら手に入らなかった感覚。
いろんなことを若いうちから経験するのもそれはそれで大事だと思うのですが、若いうちにあまり経験を積めなかったからこそ出会える新しい感動というものもあるのです。
なので、経験したことがないから一度めちゃくちゃモテてみたいです。NOSTYLEの井上さんくらいモテたいです。あと車も買ったことないし、家も買ったことないし、小切手なるものを見たことがないし、宝くじを当てたこともないし、……。
などという空想をぷかぷかと浮かべながら、まだ陽の高いうちに風呂に入って雲を見るもまた風情。
なんでもっと早くから銭湯を知らなかったのかとも思うけど、30代になってから知ったからこそ自分のなかで特別なものになっているのだという感慨もあります。本当は14歳だけど。
脱衣場にはジャンプが置いてあります。大人になって余所の家でジャンプが読めるのもまた、銭湯の醍醐味である。30代がどうのこうのと書きましたが、自分の脳内が幼稚なままなだけかもしれない。今週もまた『あやかしトライアングル』は攻めてるぜ。
そして、自販機にあったサントリーの天然水が美味い。サウナ上がりだと特に美味い。などと媚を売っておきます。
サウナはたのしい。