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ほんとうの東京

神戸市の果てで生まれて北大阪と南大阪(どっちも繁華街から遠いベッドタウン)で育った自分ですが、20代前半までほとんど関西圏を出たことがありませんでした。

修学旅行で訪れた広島と北海道くらいのもので、プライベートで他の地方に旅行というのは22歳くらいの頃が初めて。その場所とは、日本最大の都市、トーキョー。

それまでの自分のなかでの東京って、ほとんど架空の都市というかなんというか。親戚はみんな関西や四国の人だし、東京に住んでいる知り合いなんてひとりもいなかったので、どこか実態のないもので、マンガやアニメの中でのイメージが強かったのです。基本的に国民的アニメの舞台は大抵が東京ですからね。

のび太の家は練馬区だし(原作に思い切り住所が出てくる)、サザエさんの家は世田谷区(ググったら初期は福岡だったけど途中から変わったらしい)、コナンの米花町は架空の街ですが東京タワーが近いらしいのでたぶん都内。

それ以外にもタイトルに東京と付くマンガは多く、『東京ラブストーリー』『東京バビロン』『東京大学物語』『東京アンダーグラウンド』『TOKYO TRIBE』『東京ミュウミュウ』……。

『東京ミュウミュウ』というのは、かつて、なかよしで連載されていたヒロインもののマンガです。最近になって復活したらしい。メインキャラのいちごは、猫耳で全身がピンクの衣装という実にガーリーなキャラクター。

自分でなかよしを購入したことは一度もないし、かつてはセーラームーンと怪盗セイントテールが好きだった従姉もだいぶ昔に卒業していたはずで、どこでどう出会ったのかよくわからないのですが、なぜか家に単行本がありました。


一度なんか酔っ払った時に、その単行本の表紙をケータイの待ち受けにしたことがあったのですが、その直後にケータイがフリーズして、翌日ドコモショップのお姉さんにその待ち受けを見られてとても恥ずかしかったデッキタン色(タミヤカラーXF-55番)の思い出があります。

しかしなぜいちごの表紙を待ち受けにしたのだろうか。推しはどちらというと青髪のミントのはずなのに。今となってはもう何もかもわからない。ミントというキャラクターは、青髪でツンデレで青髪でお嬢様で百合で青髪という、ぷらーなの性癖をくすぐる設定にあふれた人物です。で、なんの話だっけ?TOKYO?

これはマンガに限らずドラマなどでもそういう印象だったのですが、東京を舞台にした作品のキャラクターって、基本的に東京が好きじゃなさそうだなあという人が多いと子供の頃は勝手に思っていました。

のび太はすぐ箱根に行きたがるし(なんかドラえもんの原作ってわりとしょっちゅう箱根が出てくる印象があった)、サザエさんはオープニングでひとりだけ温泉とかに行っているし、米花町と杯戸町は治安が悪すぎる。こち亀の両さんは郷土愛が強いけど、あの人に関しても、あくまで下町が好きなのであって東京そのものが好きというわけでもなさそう……。

ああ、うん、それフィクションの話だろ、勝手にそう解釈していただけだろ、サザエさんのオープニングはたぶんスポンサー的なアレだろ、っていうのは当時の時点で自覚はしていたんですよ。でもそういう印象で育っちゃったので、20歳を過ぎても東京にあんまり明るい印象はなかったのが正直なところ。


そんなダークアイアン(タミヤカラーXF-84番)なイメージを胸に抱いたまま、恐怖と12月の風に身体を震わせながら新幹線を降りました。降りたらそこにはベンチがあり、エレベーターがあり、階段があり、大勢の人がいました。

大阪駅や京都駅の人混みは小さい頃から何千回も見ていたものの、東京駅の人混みはどちらとも異質なものでした。夜に向かおうとする大阪駅で最も多いのはスーツ姿のサラリーマン。京都駅で最も多いのは外国からの観光客。だけど東京駅で最も多いのは‥‥‥わからん。実際のところは通勤の帰りなのだとは思うけれど、多種多様すぎてさっぱりわからない。

その数年前に流行ったEXILEの曲『EXIT』の歌詞には、こんな一節がありましたが……。


人の群れに流されてる 誰も彼も同じ顔で



いやいや。むしろ人の群れの顔がそれぞれ違いすぎる。この多様性こそ大都会のカオス。広大すぎて何階にいるのかよくわからなくなってくる東京駅ダンジョンをさまよっているとなぜか地上に出て、クラクションが四方八方に聞こえる巨大な通りが見えました。

ここはバビロン。ラブストーリーも大学物語もアンダーグラウンドもトライブもミュウミュウも、日本を動かすもののすべてが終結しているのでしょう。とにかくたくさんの情報が錯綜している。まるで新世紀エヴァンゲリオンの広告のごとく、たくさんの言葉が脳内で縦横無尽に流れては画面を埋めていく。

眩暈がしそうになるのを抑えて、なんとか千葉方面行きっぽいホームに辿り着いたのでした。今はジョルダンの乗り換え案内アプリを多用していますが、ガラケーだった当時はたぶんヤフーで調べたと思います(うろおぼえ)。


行き着いた先は新小岩駅。友達が当時この近くにアパートを借りていたので、泊まらせてもらったのです。駅からアパートまではそこそこ遠くて、徒歩20分強といったところ。

新小岩駅を出るといきなり◯翼の街宣車がガンガン走っていたものの、少し歩けばわりと落ち着いた街並みで、適度にコンビニが点在している感じ。賑やか過ぎず静か過ぎない。これじゃあ地元とそんなに変わらない気もしないでもないけど、これはこれで悪くない。東京の顔はひとつじゃなくて、こういう場所もある。タミヤカラーでいうと……いや、何色でもいいか。

その後も何度か東京に行きました。賑やかな場所にも、そうでもない場所にも行きました。そのたびにいろんな顔が見える。もちろんそれは東京に限らず、他の地方に行ったときもそうだったのですが、特に東京に関しては、行けば行くほどわけわからなくなるくらいたくさんの色で作られている。

だからこういう意図が読めない写真があったりする。車の通らない東京の路上。そんなもん撮ってどうする。この道の先にあった土曜日の葛西駅前は、酔い潰れたおっさんだらけでした。そのおっさんたちを見ながら自分も発泡酒を飲みました。変な夜だったけど、また来たいと思いました。

かといって、いつも帰りの新幹線で京都駅に着いて、スカイツリーと違って小さくてしょぼい京都タワーを見ると、なんか安心するのも本当のところなのですが。

自粛期間はもう少し続きそうですが、またいろんな東京を見たいですね。

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