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雑なたこ焼き屋の味わい

我は生まれは神戸(といっても垂水区なのでほとんど明石だが)で、岸和田と北大阪を行ったり来たりして育ち、今は京都と大阪の狭間みたいなところ在住でして、神戸人にも大阪人にも京都人にも完全に染まれていないハイブリッドタイプなのですが、いちおう3分の1は大阪人の血が流れているわけで、大阪のたこ焼きが子供の頃から好きです。

あくまでも大阪のたこ焼きというところが重要です。築地銀だこは確かに美味しいのですが、あれはたこ焼きに限りなく近いたこ焼きではない何かだと思っているし、岡山で食べたチーズたこ焼きも、美味しかったけど私の中では本物のたこ焼きとはいえない。

築地銀だこやチーズたこ焼きをディスるわけではないが、やはり、金麦とプレミアムモルツ、カップヌードルと行列のできる店のラーメンシリーズ、じゃがりこと湖池屋プライドポテトくらいの違いはある。

この喩えだとなんだか語弊がありますが、別に大阪のたこ焼きのほうが高尚なものであると述べているつもりでもありません。

むしろ、わなかとか道頓堀くくるみたいな有名店や、じゃんぼ總本店やあほやみたいなチェーン店よりも、郊外の目立たないところにある、10個250円とかの格安たこ焼き屋にこそ、大阪にしかない味わいがあると思っています。

中には看板すら掲げていない、ボーッと歩いていたら素通りしてしまうような店舗もある。ごくふつうの住宅地に、本当にさりげなく存在している。たぶん地元の人しか知らない。

たこ焼きプレートの載るカウンターの奥では、椅子に腰かけて、テレビのナイター中継に夢中になっている店主のおじさん。完全に夢中になっている。今は声をかけないほうが良いかもしれない。阪神の攻撃が終わるまで待っておこうかな……。

などと立ち尽くしていると、「らっしゃい」という声とともにのんびり立ち上がり、「10個」と注文すると、「はいはい」と言いながらプレートに火を通し始める。

このユルさがたまらない。観光地にあるような店やチェーン店であれば、この接客態度についてGoogleのクチコミに色々と書かれるかもしれませんが、この店はそもそもマップに登録されていません。

というか、ここの店名はなんというのだろうか。表にも「たこやき」とか書いていないし……。この場所で店を開いて登記している以上、名前は必ずあるはずだが……。あ、たこ焼き10個、できたらしい。

さっそく近所の公園のベンチで食べましょうか。こういう時の公園えらびですが、たくさんの子供たちが無邪気に遊んでいるところはなるべく避け、あんまり人気のない、遊具が滑り台くらいしかない雑な公園が好ましいです。

ひとり静かに輪ゴムを取ると、ソースの香りがじわりと漂ってきたりこなかったりします。これはその時によります。こういう地域密着型の店のたこ焼きはガチャなのです。

たこ焼きには外の食感がカリカリしているタイプとペチャペチャしているタイプがありますが、有名店やチェーン店はカリカリタイプが多く、この手の店はペチャペチャタイプが多い。というか、いくつか形が崩れているやつがあったりする。

形が崩れているのはまだ良いのだけど、タコが入っていないものが1、2個あったりもする。しかし、10個250円という破格で、おそらくひとりで切り盛っていて、地元の人からしか見つからなさそうなあの雰囲気なら、こういうのもアリかなあという気がしてくる。

タコが入っていないたこ焼き、これこそが大阪の味。……いや、それは違うな……さすがに。

ただ、たこ焼きにグルメらしさを求めていないし、別にすんげえ美味いところでなくても、そこにある店でテキトーに買って食べられればいいという感覚なので、逆に、並んでまで有名店に行こうという気にもならない。

むしろ、なんか雑な応対で、不味くはないけどまあフツーだなという味のほうが安心するのです。綺麗に整頓された部屋よりも、ちょっと散らかっているほうが落ち着く、みたいな。

そんな自分がいちばん気に入っているたこ焼きの食べ方は、先にタコをくりぬいて、爪楊枝でペチペチと表面を潰して解体し、千切るようにする食べ方です。

ええ、自覚はしております。かなり行儀が悪いです。デート中に彼女に見られたら幻滅されるでしょう。なので人前ではやりません。

でも、雑な店で買った雑なたこ焼きを、雑な公園で雑に食べるのは最高に気持ちが良い。

こういう時に、大阪人で良かったなあ、と思うのです。まあ、ハイブリッドなんですけど。

サウナはたのしい。