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さくらひろしという生き方

アニメのキャラクターで理想の父親は誰か?というアンケートでは、たいてい『クレヨンしんちゃん』の野原ひろしが上位にランクインするのがお馴染みです。

確かに野原ひろしはかっこいい。家族を守るための覚悟が据わっているのはもちろん、ローンがあるとはいえど、犬が遊び回れる程度の広さの庭があるガレージ付き一戸建てを30代でゲットできるのは、現代の感覚からすれば、間違いなくやり手サラリーマンである。

係長というポジションはまあ、35歳なら妥当かもしれんが、いつぞやは勤続10年だかの御褒美で海外旅行をプレゼントされていたので、かなり潤っている企業にお勤めなのではなかろうか。ていうか勤続の御褒美なんてもらったことねえよ俺。

まあ、野原家のお父さんが勝ち組なのは周知の事実で、彼の魅力についてはよく語られているのでここではそのくらいにして、今回は、同じひろしという名前の父ちゃんである、『ちびまる子ちゃん』のさくらひろしについて語りたいのです。

さくらひろし。ちびまる子ちゃんこと、さくらももこさんの父親です。作中では基本的にヒロシとカタカナ表記なので、ここでもそれに準じてヒロシと書きます。

現実でのヒロシさんは八百屋さんを営んでおられたそうですが、漫画およびアニメでは仕事をしている描写は全くといっていいほどなく、ニートなのか?と疑ってしまいそう。

ただ、実際は、平日の日中はほとんど家におらず、夕食のとき以外でビールを呑んでいる場面もそういえばほとんど見たことがないような気がするので、別に日夜ずっと酒をかっ喰らっているダメ人間というわけでもない。と思う。

なのに酔っ払いの印象がやたらと強いのは、ビールを片手にまる子をからかう絵面が多いからでしょうか。あと、お母さんに、「呑みすぎ」「いいかげんにしなさい」と叱られていることもしょっちゅうありますね。

ただ逆に言えば、酒を呑んで酔っ払っても、娘に悪態をついて煙たがられる、もっとビール持って来いと言ってお母さんにダメと言われてしまう程度。

悪態をつく以上の嫌がらせはせず(酔った勢いで言ったことは片っ端から忘れてるのかもしれないが)、お母さんにビールはこれ以上はダメと言われたら「ちぇっ」と舌打ちをしつつもそれに応じる。

さくらさんの何かのエッセイで、私はヒロシが好きで、ヒロシの味方でいたいと思っていて、お母さんがヒロシが酒を呑むのを快く思っていないことを口にした時に、「でもお母さん、お父さんはお酒を呑んでも、一度も暴力をふるったり、あばれたりしたことないでしょ?」と反発したことがあった、というようなエピソードがありました。

だいぶ昔に読んだものなので、細かい内容が違っているかもしれませんが、おおむねそのような感じだったはず。

この、暴力をふるったり、あばれたりしない。もちろん人として当たり前のことではあるのですが、ヒロシは外でこっそり酒を呑んだり、騒いだりもしない。

これもまあ当たり前ではあるのでしょうが、自分が酒を呑んで酔っ払うということを経験すると、おっさんになっても自制心を保てているヒロシは何気にえらいことがわかります。

「アルコールは偉大なる文学者の言葉よりスバラシイ」「どんなにかくしていても酔うと本性が現れる」とは、故・坂井泉水さんの言葉であり、WANDSの『Brand New Love』の歌詞です。

どちらかというと個人的にはロックサウンドのZARDセルフカバーバージョンが好きで、なぜWANDSをこっちのアレンジにしなかったのかと昔から思っているのですが、それは余談なのでともかくとして、坂井さんの言のとおり、アルコールは人の本性を曝け出します。

普段どれだけ堅実なサラリーマンを演じていても、夜の街でアルコールに浸かればお姉様の胸に抱かれる子供になってしまうし、普段どれだけ周囲に頭を提げまくっていても、夜はストロングゼロの空き缶に愚痴を垂れまくるし、普段noteにどうしようもない恥ずかしいテキストを書いていても、呑みながら書けばもっと恥ずかしいことを……いやこれは、酔っていようがシラフだろうが変わらんな。

つまり何が言いたいのかといえば、酔ってもあの程度で済んでいる、あるいは本性が出て他人に迷惑をかける前に寸止めで終えているヒロシは、実は人格者なのではないかという……。いやいや、それはなんだか違うような気がするな……。

「良いこともせず、悪いこともせず、ただ呑気に生きていくのが俺のやり方だ」というヒロシの名言があります。

同じさくらさん作のキャラクターであるコジコジの「盗みや殺しやサギなんかしてないよ。遊んで食べて寝てるだけだよ。なんで悪いの?」に通ずるかのような発言ですが、社会生活を送る上で必要なことは、法に触れることはしない、他人に迷惑をかけない、この程度で本当は充分なはず。

QOLとか丁寧な暮らしとかを志すのはその人の自由ですが、それは絶対に誰もが目指さないといけないものではない。

特に良いことはしていないけど、別に悪いこともしていない。それだけでみんなえらい。君もえらい。俺もえらい。だから今夜も酒を呑む。

自分には娘はいないし、お母さんというかオカンはいるけど酒を制限されたことはない。

もっと呑みたい。ていうか一生ずっと酒を呑んで寝てたまに銭湯に行くだけの生活がしたい。はたらきたくない。めんどくせえ。

この文章をどうやって締めるかもなんかどうでもよくなってきた。やはり酔うと本性が現れるよなあ、なあ、まる子。

ところで全くの余談ですが、まる子のお母さんはボウリングが得意らしいです。

サウナはたのしい。