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ぷらぷらり日記 2023.5.8 大阪府阪南市

漫画家のつげ義春さんはかつて、田舎の鄙びた暇そうな温泉旅館を買い取って、のんびりと経営しながら老後を過ごすことを夢見た時期があったそうです。

随筆集『貧困旅行記』では、地方の様々な宿へと赴いた時のことを、良いことも悪いことも赤裸々に書かれているほか、短編漫画『長八の宿』は、静岡県の西伊豆町にある山光荘という旅館をモデルに物語が描かれています。

ユニバの袋を抱えて浮かべ乱れる人々を尻目に、電車内でそれを読んでいたところ、経営はしないものの、自分もそのような静かな温泉に行ってみたいと思い、有名な城崎温泉や有馬温泉の他にも関西の温泉地はあるのかネットサーフィンしていたところ、興味深い記事を見つけました。

大阪府の南端、和歌山県との境目にあたる阪南市には、かつて山中渓温泉という人気の宿が存在したという。

現在は廃墟になっているらしいが、その跡地はまだ残っているそうな。

周りは見渡す限りの山。

というわけで、やってきました。JR山中渓駅。大阪駅から紀州路快速に乗って1時間ほど。

大阪と和歌山の境目だなんてとんだ秘境じゃないのかと思いきや、意外とすんなり辿り着けてしまった。堺市内からなら1時間以内で行けるアクセス。

都会の喧騒から逃れられることは確か。

そんな山中渓駅の風景がこれですよ。まさに山の中の渓としか言いようがない。春の桜のシーズンはとても美しいらしいが、もう桜のシーズンはとうに過ぎたためか、誰もいない。マジで誰もいない。

大阪府内のJR駅では珍しい無人駅ですが、駅舎は2022年に改築されたばかりで新しく、改札口はICカードに対応しており、外にはバリアフリーの綺麗なトイレも設置されています。

このトイレ、駅のトイレでは他に類を見ないレベルの綺麗さであり、なおかつ、広さが異常。このスペースがあるならあと2つくらい個室を設置できただろうというくらい。

なんなんだこの広さは……住みt……。いや、トイレに住むのはさすがにイヤだな……。いろいろと便利ではあるが。

シンプルな看板だが妙な存在感がある。

さて、山中渓温泉の跡地とやらを拝ませてもらおうじゃねえかと、意気揚々と足を鳴らして徒歩1分。

駅にいた時から何やら削る音は聞こえていたので、駅前のどこか工事中なんだろうなとは思っていたのですが、どうやら道路の舗装をしているらしく、通行止めらしい。

工事員の人の「こっちはダメですよー!」の声で引き返す。

困った。山中渓温泉に向かう道路が通行できないなら、山中渓温泉を見ることができない。出鼻を挫かれた。なんてこった。

さすがに大阪と和歌山の県境にまで来て何もしないのは辛いので、わんぱく王国なる公園にちょっと入ってみる。ここも誰もいない。

恐竜の滑り台が有名らしく、周りが山と川に囲まれていて景勝地としても親しまれているようですが、マジで誰もいない。ゴールデンウィーク明けだからか?

案内図というより、これは絵画。

手書きの地図がなんとも渋い。食堂の看板があるが、少なくとも今日はやっていないらしい。

しかしながら、ここまでの静謐は地元ではなかなかないし、周りがいちめんの緑なので空気も美味い。

午前中は曇っていた天気もだんだん良くなってきて、心配していた風も思っていたほど強くはない。こういう休日も悪くないのではなかろうか。

と自分に言い聞かせつつ、こんな大きな公園に誰もいない寂寞に長時間ひたるのもどうにも厳しいので、すごすごと駅へと戻りました。山中渓の滞在時間、約20分。なにしにきたのか。

何かのパンフレットの表紙に使えそう。

こんなふうに、景色は映えるんだけどなあ……。

アクセスは悪くないし、もっと集客を見込める方法はあると思うのだけど、それを考えるのは私ではないし、近隣の方々がそれを望んでいるかどうかもわからないので、まあ、大阪と和歌山の県境はこんな感じだったなあ、ということを心に留めるのみにします。

ここもわりと最近に整備されたのだろうな。

さて、お隣の和泉鳥取駅。大阪の鳥取である。南海電鉄の鳥取ノ荘駅がある湾岸部には行ったことがあるのですが、JR側の内陸部ははじめて。

この和泉鳥取駅も駅の外にトイレが設置されているのですが、これもどことなく再利用っぽいな……。

山中渓駅のそれと同じく、とても綺麗でしたが、広さは平均的で、住むには難しそうでした。

 わんぱく王国の看板があるのですが、正直これだと小さくてアピール不足なように思う。もっと目立つ看板にすればいいのに。

駅前といっても特に派手なことはなく、のんびりした雰囲気。

車がないと不便そうではあるけど、逆にいえば、車さえあって、しょっちゅう難波や梅田に行くわけでなければ、住むには悪くないかなと思う。思い立ったら日帰りで和歌山にも行けなくはなさそうだし。

というか、しばらく歩いてみて思ったが、もしかしてここは地元の人々にとってはほぼ和歌山という扱いなのだろうか。 

ふつうに和歌山ラーメンの店があるし、和歌山ナンバーの車もそれなりに多いし、なんか雰囲気が岸和田とか貝塚とかのそれとも違うんだよな……。

ちなみに、イオンモール和歌山の標識もありました。ここからかなり遠いし、イオンモール和歌山って、よくこんなところに建てたなっていうくらいに山の中なんですけどね……。

駐車場はクソデカいが大型車お断り。

そうして阪南市の内陸部をのんびり歩くこと20分ほど。

大阪府内で最南端のスーパー銭湯、平野台の湯である。ちなみに阪南市に一般銭湯はない。今はもうないのではなく、昔からないらしい。なので貴重な浴場施設である。

2008年に開業。とのことですが、この看板の昭和感よ。喫茶やゴルフ場は実際に昭和時代からあったのだろうが、ゼロ年代生まれなのにそこに違和感なく溶け込む平野台の湯の文字。

なかなかリーズナブルなスーパー銭湯。

入浴料650円。13時までは550円で入れるらしい。

平均的なスーパー銭湯よりは小規模ですが、そのぶん安い。天然温泉を謳っていますが、加水、加温はしてあるとのこと。

浴室そのものはとりたてて特徴がないのですが、なんとここには韓国式のサウナであるオンドルとチムジルバンがあり、追加料金なしで利用できるという。

まず手前のドアを開けるとぬるめの温度のオンドルがあり、奥の基地みたいなところに熱めのチムジルバンがあります。

チムジルバンも初体験ですが、自分が感動したのはオンドルのほうで、ここでまさかの冒頭のつげ義春さんと再び繋がるのですが、『オンドル小屋』という短編があるのです。

東北地方の温泉に赴いた主人公が、極楽浄土を感じられるというオンドルをのんびりと楽しもうと思っていたのに、マナーの悪い若者にムカついて全然たのしめなかった……、という内容なのですが。

自分は、流行っているスーパー銭湯に行くと学生がクソうるさくてイラッとするということで一般銭湯に通うようになったのですが、半世紀前の温泉でも似たような現象はあったのだな。

それとはうって代わり、この平野台の湯のお客さんは総じてマナーが良く、チムジルバン内も静かでイラッとすることはありませんでした。

というか、マイサウナハットを持参したガチ勢サウナーみたいな人がやたら多い。チムジルバンはまだしもオンドルがあるスーパー銭湯はなかなかないし、もしかしたらこのために遠方から旅立ってきた人かも。

露天風呂は天然温泉とのことですが、あんまりクセのない感じ。

テレビでは、例のアレが5類に変更されたと報じられ、飲食店などの従業員のマスク着用の可否が自由になったという。公共施設などの検温もなくなり、アルコール消毒液やビニールカーテンも撤去されていくらしい。

もう大手を振って旅行もできるようです。なので、いずれ本場のオンドルとチムジルバンを……。

Tom!!

おまけ。空き部屋があるそうですが、特にTomに来てほしいというメッセージなのか、Tomがその空き部屋をぜひ借りたいというメッセージなのか、いずれにしても、こんなところに文字を書いてはいかん。

森である。

おまけ2。わんぱく王国に入って3分でこれ。ガチでわんぱくども以外は受け入れない感がある。荷物がなければもっと奥まで行きたかったんだがなあ。でもロッカーもなかったしなあ。

手前のベンツ190Eももうあんまり見ないな……。

おまけ3。70系スープラに挟まれた、貴重な3代目シボレー・カマロ。アメ車のわりに意外と小さく、隣のスープラとあまり変わらない。私に経済的余裕と土地があればコレクションとして入手したいが……。

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