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セントレアに行っただけなのに

セントレア空港に行った。

夫の姉一家は10年ほど前にオーストラリアに移住して、当時まだ小さかった義姉の子供たちはもうすっかりいいお兄さんとお姉さんになっている。

その、つまり私から見ると義理の姪っ子(今回は末っ子ちゃんがひとりで)が、来日するとのことで、夫の親族大勢と一緒にセントレア空港にお迎えに行くことになったのだ。
因みに、その日、夫は仕事で不在だったので、運転が苦手な私に代わって、義父が空港までの道のりを運転してくれることになった。

当日の朝、子どもたちのコンディションは揃いも揃って最悪だった。
前日の夜、私たち一家と、義兄一家で、夫の実家に泊まっており、久しぶりのお泊りにはしゃぎ倒した子どもたちは、義兄の息子と遊び倒して、信じられないくらい夜更かしをした。
寝たのは確か23時半頃だったはず。
ところが、みんな上がりきったテンションのまま朝を迎えたのか、日の出とともに起床した。5時半だった。どうかしてる。
末っ子に関しては、病み上がりにお泊りが効いたのか、夜中中咳き込んでいて、ずいぶんと厳しい夜だった。
みんな揃って眠たそうなぐずぐずの朝だった。

このエネルギーが底辺のよわよわパーティで長距離移動するとか、夫いないとか、もう完全に詰んでるし、色々と覚悟を決めるしかない。
まだ顔も洗わないうちから、不安と憂鬱が私をおそう。

運転は義父がしてくれるというのはとてもありがたかった。
私は車中でなぞなぞみたいな問いかけや、あらゆる要望にフルコミットしなければならない。そんな状況で長距離を運転するのは危険運転に他ならない。私の注意はもう30年以上にわたって散漫なのだ。子育てをし始めてからは輪をかけて散漫だ。

車に乗ったらまず、エネルギーをチャージしなおすべく、おねんねを勧める。末っ子は秒で寝た。
続いて、息子。その調子。
でも、どういうわけだか長女は寝ない。

「ねぇ、どのくらいでつくの?」
「1時間半ってどのくらい長い?○○に行くのとどっちが遠い?」
「鷹はね、目が吊り上がっててね、鷲はね少しだけ吊り上がってるの。トンビはちょっと分からないんだけど」
「ごはんはいつ食べるの?」
「ママが見たことある珍しい動物ってなに?」
「世界で一番珍しい鳥って知ってる?」

終わらない。かわいいおしゃべりが止まらない。

そうこうしているうちに、息子と末っ子が起きる。
「アンパンマン、うにゃうにゃ」
DVDを観ていた末っ子が何かを言った。
エアコンもついているし、高速道路では車の音も大きいのだ。
末っ子のか細い声は聞こえにくい。
適当に「すごいねぇ」と答えると、なにか間違っていたらしく盛大に怒られた。
アンパンマンってだいたいいつもすごいと思うんだけど。
そんなに間違ってないと思うんだけど。

息子も到着時刻を気にしてあれこれ聞いてくる。
隣で義父がトランプ政権とオバマ政権の違いを説いている。
足りないおつむで3人の声を聞き分けながらトランプに思いを馳せて、素直な感想を述べるのだけど、我ながら返答にキレがない。
残念なお嫁だと思われては困るので、それっぽさをエッセンスに加える。
要点らしいところに差し掛かったら、少し食い気味で深く頷くのがポイント。「私もそう思ってました。まことにその通り」感がものすごく出るので、おすすめ。真似してもいいよ。

セントレアにようやくついて、最果ての地みたいなところしか駐車場が空いていなくて、小脇に末っ子を抱きながらてくてく歩いて、天竺を目指す三蔵法師一行、みたいな心地になって、なんとか義母や姪っ子甥っ子たちと合流した。

空港内でもそれはもう、てんやわんやで、末っ子は眠いし、待つ間それぞれ退屈だしでぴゃーぴゃー言うし、どこかに行っちゃうしで、骨が折れた。
そのことはまた書く。とにかくぼきぼきに骨が折れたとだけ。

このあたりで夫に「苦行」と2文字、LINEを送った。

でも、久しぶりに会った姪っ子は初めて会った4歳のときそのままに、やっぱりとびきり笑顔がかわいくて、癒された。しばらく滞在するとのことでとても嬉しい。

さて、来たらもちろん帰らないといけない。
もう一度、最果ての駐車場まで蒸し暑い通路を(小脇に末っ子を抱いて)ひたすら歩いて、おうち帰りたくない、ばーばのおうちに行きたい、とぐずる息子をなだめてすかして、何とか乗車して、車に乗ったら長女も息子もとても元気で、もちろんずっと喋り倒していた。

「宇宙はどこから宇宙なの」
(これは知ってる。150kmです)

「昼間は宇宙がないけどどこにいったの」
(それは、つまり夜空的なことなのか)

「ツキノワグマとかそういう動物見たことある?」
(そういう、とは)

「竜巻ってなに?うずまき?」
(ではないんだけど、なんと言ったらいいの強い風みたいな)

「え?風???世界がこわれるの??」
(世界…世界…)

なんだか質問ひとつひとつが生返事では返されない類のものばかりだから、びりびりに頭を使うのだ。
そして、答えてる間にもうひとりが待ちきれずに、新たな質問を投げかけてくる。よく聞き取れなくてつい曖昧に返事をしては、そうじゃないと怒られる。
こんなに懸命に対応しているのに怒られるのだから立派に精神修行していると思う。

そこへきて義父が今度は、アリババ集団の創始者がソフトバンクの孫さんに借金をして、3億のところを30億貸してもらって、お互いに大きな富を得たとかなんとか、経営にまつわるありがたいお話をしてくださっていた。
アリババの後ろでは長女がなにか野ウサギにまつわる質問をしかけていたのだけれど、もう完全にキャパシティオーバーで、申し訳ないけれど、野ウサギに関してはまたの機会にしてもらった。

耳が、耳と頭がとても疲れた。

行って帰ってきただけなんだけど、私は運転さえしていないのだけど、もうこの日、頭の中はただひたすら「修行」と「苦行」の2文字が行ったり来たりしていた。

誰も悪くないし、おおむね幸せなことしか起こっていないのに、この疲労感。なぜ。


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〖熟成理由〗読む人が疲れる

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